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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第二章 この墓地は見晴らしがいい
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40話 お昼寝

 ――オルフェリア王国首都アテネス

 ――主城、王の間


「アイツは一体何をしているのだ!! これでは国のメンツが丸潰れだ!! よりにもよって国王様の不在時にこのような馬鹿げた真似をしおってからに!!」


「やはりあの女……アアルは宮廷騎士の器ではない。即刻極刑に処すべきだろう」


 縦長のテーブルを前に、五人の騎士たちが腰掛けている。

 その中でも最年少と見える赤い瞳に青い髪の少女は、伝文を読み終え、静かに瞼を閉じた。


 それに対し、ひげを蓄えた壮年の騎士ジェイドが問う。


「ミュシィ……お前はアアルのやることに何か言いたいことはないのか?」


 ミュシィと呼ばれた少女は、瞼を閉じたまま答える。


「私の責務は国王様のご命令のみ。それ以外の一切のことは、私の関与するところではありません」


 ミュシィの回答に、ジェイドはつまらなそうに頬杖を突いた。


「お前はいつもそうだな。国王様からの命令があるまでは何ひとつ自分の意思では動かねえ。お前はゴーレムか? 少しは人間らしく振る舞ってみろよ」


 ジェイドの軽口に、ミュシィは何も言わない。

 すると、奥の扉が開き、黒髪を肩の辺りで切り揃えた二十歳前後の女が王の間へと入ってきた。


「あ、ただいま~♪ みんな元気してた? 今日は五人しかいないの?」


「アアル……! 貴様よくも抜け抜けと顔を見せられたな!!」


 ジェイドの隣に座っていたリーランドが立ち上がる。


「あら、リラちゃん元気そう♪ なに怒ってんの?」


 黒髪の女は楽しそうに笑う。

 腰には新しいレイピアを差しているが、甲冑はまだボロボロのままで、ところどころに血糊が付いている。


 彼女はミュシィのほうへと顔を向け、にこりと微笑んだ。


「ミュシィちゃん、転移魔法(テレポーテーション)ありがとねん♪ ただ、もうちょっと早めにやって欲しかったかな? お姉さんちょっと危なかったかも♪」


「了解。次はもう少し早く発動する」


「いい子♪」


 ミュシィの頭をわしゃわしゃと撫でると、アアルは玉座のほうへと歩いていく。


「おいアアル、お前何をしている……」


「何って、一仕事したから休もうかなって。前からこの椅子気になってたのよ。ふかふかしてて、ここでお昼寝したら気持ちよさそうだなって♪」


「貴様、国王様が許さぬぞ」


 ジェイドとリーランドの忠告を無視し、アアルは玉座に腰をかけた。


 刹那、彼女の耳元をナイフが掠める。

 直前に避けたからいいものの、避けなければ脳天が真っ二つに割れていた。


「サーシャ、危ないわ♪ 刃物で遊んだらダメってお母さんに習わなかった?」


「国王様がいないからと言って、調子に乗るのも程々にしておけ……」


「はいはい。で、仕事の報告は聞きたくないの? それともみんなは椅子のお話がしたいのかな」


 ジェイドは足を組み鼻を鳴らした。


「コイツと話すだけ無駄だ。報告だけさせてとっとと帰らせろ」


 フルプレートアーマーに身を包んだガレンは兜の隙間からアアルを睨む。


「納得いかぬがな」


「こわ~い♪ なんでみんな女の子相手にそんな酷いこと言うの~?」


 ジェイドはとっとと話せと舌打ちした。

 サーシャ、リーランド、ガレン、ジェイドは苛立たし気にアアルの言葉を待つ。


「みんな怖いなあ……いいよ、話すよ。一緒に行った誘拐担当のレイだけど、敵に捕まったから爆殺しちゃった♪ マジ爆笑もんだったよ! 笑い堪えるので必死だったもん」


「貴様……ッ!」


 ジェイドが思わず立ち上がり、王の間に殺気が充満する。


「やはり極刑か……」


 ガレンの呟きにアアルは肩を竦める。


「任務に失敗したのはレイがしくじったからだよ? 私はしっかりと作戦通り、囮として攪乱したわけだし、言うことはちゃんと聞いてるじゃん」


 その言葉にリーランドが立ち上がる。

 ぴくぴくと血管を浮き上がらせ、瞳は真っ赤に充血している。


「軽々しく仲間を殺し、その死を侮辱するか……」


 リーランドの言葉に、アアルはつまらなそうに溜め息を吐いた。


「はあ……そういえばさ、なんで国王様がいないのか知ってる? ねえ、ミュシィちゃん」


「……ミュシィは存じ上げておりません」


 フーン、とアアルは天井を見上げた。


 天使たちが英雄を迎え、天界にあるゼロの祭壇へと連れ立っていく、神話を描いた絵画だ。

 あの祭壇が儀式の最終到達点であり、この世界の始まりの場所。

 この者たちの望む、何でも願いを叶える宝物へと続く階段だ。


 宮廷騎士は全部で九人。

 そのうち一人がさっき死んで、席を外しているのが二人。

 自分を除いてここにいるのは五人だ。


「ねえ、みんなは知らないの? 国王様がなんでこんなタイミングで不在なのか」


「何も報告されていない。お前が知るべきことでもない」


「そう……でも私は知ってるよ? なぜ国王様がここにいないのか」


 玉座からサーシャのナイフを抜き取り、指先でくるくると遊びながら、リーランドを見上げ、にこりと笑う。


「正解は……私が殺したからです♪」


 ひゅっという風切り音と共に、サーシャが倒れた。

 眼球から脳を貫かれての即死。刺さったナイフからはドロリと水晶体がこぼれ出している。


 一同が立ち上がると同時、アアルはテーブルの上に国王オルフェリアの生首を転がした。

 騎士一同がそれを見て怒声を上げる。


「アハハハハッ!! いい顔!!」


「貴様ッ!!!!!」


 ジェイドとガレンが同時に剣を抜く。

 アアルもレイピアを抜くと、リーランドの刺突を躱して三人との距離を取った。


 ミュシィは離れた場所に移動し、ただ静かに事の顛末を観察している。


「おっとぉ~? まさか三人だけでこの私に勝てるつもりかなぁ?」


「ほざけ外道が!! 貴様の罪、万死に値するぞ……!」


 ジェイドはアアルに斬りかかるが、軽く躱され、

 その直後、首筋に違和感を感じた。


「あ……?」


 首を触ると、手のひらに赤いものが付着する。


「ジェイド……お前」


 リーランドの言葉に全てを悟ったジェイドは泣き出しそうな声を上げながら必死に首を押さえた。


「い、嫌だ……そんな……嘘だ……」


「諦めろって♪」


 アアルがジェイドの首を蹴飛ばすと、ジェイドの"それ"は抵抗虚しく、あるべき場所を離れ、床を転がった。

 残った首無し死体を前に、ガレンとリーランドは歯を食いしばった。


「貴様…………」


 リーランドとガレンは距離を取り、挟み込む形でアアルを包囲する。


 さっきの剣捌き、速すぎて目視出来なかった。

 今まで、二人はこの女を強いと思ったことは一度も無かった。


 隠していたのだ。

 本当の実力を……。


 ガレンはアアルを睨み口を開く。


「貴様……本気で狂ったか……」


「私昔から気になってたの。その甲冑の中身どうなってるんだろうって……。この中ではジェイドの次に強かったよね、ガレンは。ジェイドは死んだけど、アナタはどうする?」


「決まっている」


 ガレンは剣を構え、甲冑の闇の中から燃え滾る闘気を見せた。


「仲間の仇だ。悪く思うな」


「カッコいい♪ それでこそ宮廷騎士だよ!」


 レイピアの剣閃を何とか凌ぎリーランドと目配せする。

 アアルは二人同時の攻撃を難なく避け、数度の斬り合いを経てガレンの甲冑の隙間に刃を突き込んだ。


「ぐ……ッ!!!」


 抜き取った刃は鮮血を散らしながらリーランドの刃を受け止め、そのまま一閃して彼の両腕を切断した。


「あ、ああああアアア!!!」


「あーあ、腕無くなっちゃったねぇ♪」


 リーランドの胴を蹴飛ばし、目の前のガレンと相対する。


「黒薔薇……貴様何が目的だ」


「最初に言ったじゃん。それより、私にはあなたたちの目的のほうが謎だなぁ。儀式なんかで叶える願いより、自分の手で叶えた願いのほうが絶対いいのに」


「戯言を……」


「あれ、まだ喋れるんだ。気付かなければ意外といけるもんだね」


 斬ってから十秒くらい経ったかな?


 アアルの呟きに、ガレンはまさかと思った。

 リーランドのほうへと目を向けると、彼は泣きそうな顔で首を振っている。


「……最後に聞かせてくれ。お前はなぜ俺たちを殺す?」


「だから最初に言ったって♪」


 アアルの回し蹴りによってガレンは死んだ。


「も、もう嫌だ……なんでだよ……なんでこんなことになったんだよ……」


 切断された両腕を必死に服に押し付け、ガレンの生首の前で泣きながら止血を試みるリーランド。

 もはやこんなことをしても意味が無いのは分かっている。


 目の前の災厄を見上げて、ただ震えることしか出来ない。


「うふふ……私が怖い?」


「怖くないわけがないだろう……? これから殺されるっていうのに……」


「そう? 大丈夫よ、私は怖くないわ♪」


 そう言って、アアルはリーランドの頭部を真っ二つに叩き割った。


「ほらね?もう怖くない」


 アアルは楽しそうに指折り死体の数を数え始めた。


「今日の殺害数はレイ、サーシャ、ジェイド、ガレン、リーランドの五人! あぁ、楽しかったぁ~♪ このためだけに宮廷騎士になったんだから、気持ち良すぎて最高だよねぇ♪ ねえミュシィ、あなたはどうするの?」


「どう……とは?」


「私と戦う?」


「いえ、ミュシィはそのようなご命令は受けておりません」


「国王様がそう言ってたって言ったら?」


 ミュシィは静かに、背中の杖を下ろした。


「ぷっ あはは!! うそうそ♪ 国王様がそんな命令するわけないでしょ♪ 国王様は、ミュシィは今後ずっとアアルに従えって言ってたよ♪」


 アアルはそう言って、ニヤニヤと人差し指でミュシィの頬をつつく。


「分かりました。ミュシィはアアル様に従います」


「ミュシィちゃんは相変わらず便利だね~! 本当にゴーレムみたいだよ。それで人生楽しいの?」


「楽しい……とは?」


「うーん、まあいいや。そのうち分かるんじゃない?」


 アアルは鼻歌を口ずさみながら、オルフェリアの玉座に腰を下ろした。

 ガレンの死体を眺めながら、口端をニッと上げる。


「ガレン、なんでこんなことするのかって聞いてたよねぇ……?」


 アハハと笑いながら、気持ちよさそうな表情で「最初に言ったじゃん」と呟いた。


「ここでお昼寝したいってさ♪」

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