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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第二章 この墓地は見晴らしがいい
33/60

33話 海

 あれから四日ほど歩き通した。


 いい加減クラウスと一緒に旅をしていると、森や野山の歩き方を覚えてくる。

 生えている樹木の種類や獣道、草花や土の色。

 クラウスはひとつひとつ丁寧に解説を入れながら歩いていく。


 野戦では何がいつどこで役に立つか分からないからだ。

 知識は手札だ。

 より多く持つ者が戦局を左右出来る。


 それは獲物を前にした狩人も同じだった。

 相手の習性を知っているか否かは狩りの成功率を大きく変える。


 ジークは元々は狩人であったが、知っているのは地元の森のことだけだ。

 この地方特有の獣や魔物、植物の知識、長旅で疲れない歩き方などはクラウスから教わって、ようやく身に付き始めたものだ。


 ジークとクラウスは鉈で枝を切り分けて道なき道を進んでいく。


 彼は昔、ジークの父であるシンと共に宮廷騎士として各地を飛び回っていたらしい。

 暗殺、密偵、潜入調査、時々ドンパチ……。


 宮廷騎士と言えば聞こえはいいが、その役割のほとんどは表には出せないような、所謂"濡れ仕事(ウェットワークス)"の担当者だ。

 特殊部隊と言ったほうが分かりやすいか。


 獣のように野を這いずって進み、暗闇に潜み、血に濡れて作戦を遂行する。

 そのための特殊な技能を持った者たち。それが宮廷騎士だ。


 宮廷騎士は現在、全部で十人。

 そのひとりひとりが一騎当千の実力者だ。


 そしてクラウスはその中の一人だった。


 宮廷騎士として活動していた中でシンから教わったことが今の彼の知恵となり力となり、役立っている。


「一旦休もうか」


 クラウスは荷物を下ろし、ジークは木の根元に腰を下ろして水筒の水を飲んだ。


「ここからさらにもう一日歩くのか。少し気が滅入るな」


「そうかい? ジークはもう慣れたかなって思ってたけど」


「慣れたからこそ飽き飽きするんだ。リル、飲むか?」


 リルに水筒を渡し、ジークはうんと伸びをする。

 大荷物に剣やクロスボウを持ち運んでの行歩、しかも足場の悪い森の中と来れば、いくら慣れても肩が凝る。


「でもそろそろ目新しい光景が目に入ると思うよ」


「ってことは、そろそろ海が見えてくるってことだな」


 マルティナで生まれ育ったジークは海を見たことがない。

 ジードフィルからここまでの旅路のモチベーションのほぼ全てが海にあると言っても過言ではない。


 ジークは子供の頃の父の話を思い出す。


「親父が言っていた。海は空を映す鏡だって。空が青ければ海も青い、空が荒れていれば海も荒れている。海を行く時は、海のことだけでなく空のことも気を付けろ……と。いま思えば、親父は俺がいつか旅に出ることを確信していたのかもな……」


 マルティナで暮らすだけなら、わざわざ自分の子供にこんな話はしないだろう。

 クラウスは木の幹に寄りかかりながら言う。


「確信していたかは分からないけど、シンは用心深かったからね。ジークが旅に出ても大丈夫なように話をしておいた側面もあるだろうね」


「子供の頃は親父の昔話くらいに聞いていたがな」


 三人は休憩を終え、また道なき道を歩き出した。


 前ではクラウスが木々を掻き分け、背後ではリルが鹿肉の燻製を咀嚼している。

 暫く草木をかき分けていると、唐突に森が途切れた。


 開けた視界の先には、真っ青な水平線。

 潮風が吹き、遠くからはカモメの鳴き声が聞こえてくる。


「海だ!!」


 リルが飛び跳ね、ジークは何も言えずにただただ立ち尽くす。


 崖の向こう……どこまでも遠く、どこまでも青く広がっている。

 今までの人生で使ってきた水を全部合わせても比較にならないほどの圧倒的な水々。

 海。


「ジーク! 海だよ!! 大きい!!」


「ああ、ああ……凄いな……こりゃあ本当に凄い……」


「ジーク凄い驚いてる!」


 リルは楽し気にジークの顔を覗き込む。

 対するジークは初めて見る海、初めて見る水平線に目を奪われていた。


「本当に丸いんだな。地上って。それに……本当に、地上の空みたいだ」


 空と同じ色の海。

 キラキラと太陽の光を反射する海。


 穏やかな青い景色に目を奪われる。


「あれは船か。凄いな。初めて見た」


 帆を張って進む木造の人工物。

 海上を往来する巨大なそれを眺める。


「あそこの白い船舶の群れ、商船団だね。どこか別の国から来た船かも」


 バラバラに散らばった中に、白に統一された船団を見つける。


 遠い異国から長い時間と航海の旅を経て、ようやく目的地へと辿り着く。白い帆に風を受け揚々と進む船団からは、そんな安堵が伝わってくる。


 それを見てジークはただただ、この世界が自分の思っていた何十倍も、何百倍も、何千倍も広いことを理解した。

 マルティナから出なければ、旅をしなければ絶対に分からなかったこと。


 世界は広がっている。


 世界は広大で、どうしようもないほど大きいものだと。

 頭だけではなく、心と体の全てで理解した。


 その隣でクラウスが言う。


「さっきは『もう一日も』って言ってたけど、これをみたら『たった一日』って思えるでしょ?」


 その言葉にジークは二っと笑った。

 ジークが笑うのを見て、リルも笑う。


「ああ。よしっ! 行くかー!! ラストスパートだ!!」


「おー!!」


 世界には、まだ見たことのないものが沢山ある。

 これは儀式や戦いだけの旅じゃない。


「色々なものを見よう!!」


 冒険とは、つまるところそういうものなのだから。

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