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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第一章 いつかの約束、彼女の笑顔
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27話 優しい世界

 むかしむかしその昔。


 神霊の儀式が始まる前のこと。

 神霊達が生まれてまだ間も無いころのこと。


 一柱の神霊がいた。

 それは鳥の神霊。

 鳥といっても飛ぶことは得意ではなく、他の神霊同様に地上の世界に暮らしていた。


「神霊様! 見てください。このお花、私が育てたものなんです!」


 木陰で休んでいた神霊に、一人の少女が話しかけてきた。

 土器で出来たプランターに、一輪の綺麗なチューリップが咲いている。

 赤い花弁が美しく、水やりをしたばかりなのか、水滴が日光を浴びて輝いている。


「あら、綺麗なお花ね」


「えへへ……ねえ神霊さま。なんでお花はすぐに枯れてしまうんでしょうか?」


「それは……難しい質問だわ。考えたこともなかった……」


 花が咲いて枯れる。

 当然のことだ。


「こんなに綺麗なんだから、もっと長く長く咲いていればいいのに……」


「そうあれるように、あなたが大切に育ててあげなさい」


 神霊は少女の頭をそっと撫でると、そっと微笑んだ。

 それに少女も微笑みを返す。


「うん! 神霊様も、毎日このお花を見に来てください! きっと、お花も喜ぶと思います!」


「ええ、そうするわ」


 そういうと、少女は駆けていった。

 豊かな草原に覆われた小さな村落。

 そこが、神霊コカトリスが最初に目覚めた場所だった。


 異変は一ヶ月ほど経ってから起き始めた。

 前兆はなんてことのない、些細なことだったが、それが地獄の始まりだとは気付かなかった。


「お花……枯れちゃったのね」


「はい……」


 チューリップの花だけでなく、その周囲に咲いていた花が全て枯れていた。

 それだけじゃない。村の農作物が徐々に弱ってきているのだ。

 それに、少女の家の鳥かごの小鳥も、徐々に衰弱してきている。


「神霊様……何か、悪いものがこの村に近付いているのでしょうか……?」


「……大丈夫よ。もしそんなものが近付いてきたら、私が追い払ってあげるわ」


 怖がる少女を抱き、神霊はそっと彼女の頭を撫でた。


 それからさらに一ヶ月が経った。

 村の農作物は全て枯れ果ててしまい、村は深刻な飢饉に見舞われた。

 少女の飼っていた小鳥は死に、村人は風邪を引きやすくなっていた。


「神霊様……お願いします。この村に近付く悪いものを追い払ってください……。私たち人間の力では、どうにもなりません。神霊である、あなたの力が必要なのです……」


 衰弱して弱り切った少女の傍ら、母親が膝を付いて懇願する。

 コカトリスは困ったような表情を見せたが、すぐにそれを承った。


「任せてください。原因が何かは私にも分かりませんが、必ずみなさんを救ってみせますから……」


 それから一ヶ月、神霊は地面を掘り、川の流れを調べ、草原を駆け回り、病人の症状を調べて回った。

 村は徐々に病に冒され、外を出歩く者はいなくなっていった。


 そんなある日、コカトリスは村人が噂話をしているのを耳にした。


「だからこの村の病……あの病は神霊コカトリスが原因なんだよ。あの神霊と一番関わっていた少女が最初に病気にかかったんだ。飼っていた小鳥も、花も、農作物も、全てはあそこから広まっているんだ!」


「たしかに、神霊様が訪れていない場所ではこのような流行り病はあまり見られない……っておい! こんな場所でやめろよ! さ、早く家に戻って蓆を織ろう。農作物が取れないなら、せめて何か作ってないとな」


 通りがかったコカトリスに聞かれているのに気付いた村人たちはそそくさとその場を立ち去った。


(私が……病の元凶? でも、そんなはず……)


 それからさらに一ヶ月。

 コカトリスは調査を続けたが、未だ成果は得られず、むしろ村での流行病は悪化するばかりだった。


 そんな中、コカトリスは見舞いのため少女の家に訪れた。

 少女は苦しそうにベッドで喘ぎ、ゲホゲホと咳をしている。

 少女の看病をしていた母親がコカトリスに気付き、ギロリと睨み付ける。


「あなたがこの子を病気にしていたんですね……」


「えっ…………」


 その噂が、少女の家にまで伝わっていたことに驚く。

 眉間に皺を寄せ、断言出来ずにいると、少女の母親は二つの花瓶を持ってきた。


 二つとも萎れているが、右の花のほうが弱っているように見える。


「右の花の花瓶に、あなたの髪の毛を入れたんです。噂を聞いたとき、まさかと思いました。でも、試してみたらこの通り。あなたは……天使のフリをした悪魔だったんだ!!!」


「ち、ちが……私はみんなを助けたくて……」


「うるさい! 黙れ! この人殺しめ!!!」


 少女の父が怒鳴る。

 コカトリスは二人の形相に怯え、涙目になって「違う」と呟く。


「何が違う? お前は私たちの大事な一人娘にこんな仕打ちをして、死の淵まで追いやって、殺そうとしている!!!」


「最初から騙していたんだわ……。無垢な少女に取り入って!! この村の住民を皆殺しにすることが目的だったんだ!!」


「や、やだ……違う……私はただみんなを助けたかっただけなの……」


「黙れ! 人のフリをした悪魔め!! ここから出ていけ!!」


「痛っ……!」


 少女の父親はコカトリスの髪を掴むと、それを引きずって家の外へと引っ張り出した。


「二度とその顔を見せるな。この人殺しの鬼が」


「最低最悪の悪魔!」


 そうとだけ告げると、少女の両親は勢いよく扉を閉めた。

 コカトリスはその場で泣きじゃくり、外の騒ぎに村人たちが家の外へと顔を出す。


「やっぱり……あの神霊が全ての元凶だったんだ」


「災厄の化身ね。アイツが死ねばいいのに」


「優しそうなフリだけして人を騙す悪魔だ。みんな、口を聞くなよ?」


 皆口々にコカトリスを誹る言葉を向ける。

 コカトリスが静かに立ち上がると、頭に石がぶつかった。


「痛っ」


「悪魔だ! みんな! 毒の悪魔を追い払え!!」


 子供たちが道端の石を拾ってこちらへ投げてくる。

 中には痩せこけて立っているのもやっとの子さえいる。

 みな口々に罵声を上げ、必死の表情で石を投げている。


 この村を守るために。


(そう……全部、私が原因だったのね……)


 それならば、彼らのしていることは全て正しい。

 言っていることも全部その通りだ。

 紛れもないコカトリス自身が、あの少女から花を、小鳥を、両親の笑顔を奪ったのだ。


(出ていこう……。全部私が悪いんだから、それが一番だわ)


 子供たちに背を向け、村人の蔑むような視線を浴びながら、石をぶつけられ、コカトリスは村を後にした。


 彼女は村を出た森の中で、ひとり立ち尽くしていた。

 全てを失った。

 いや、失ったというのは被害者意識がありすぎる。

 全て、壊したのだ。


「私は……生命を冒す存在なの?」


 ひらりひらりと舞う蝶に触れると、それは生気を失って地に落ちた。


「ふふっ……あはは! 馬鹿みたい!! 私、自分自身が元凶だとも知らずに、みんなを治そうと病気の治療方法を探してたの!? アハハハ!! どんな冗談よ!!! アハハハハ!!!」


 コカトリスは泣きながら笑った。

 受け入れられなかった。

 自分自身が病の元凶で、全ての努力が全くの無意味で、知らず知らずのうちにみんなを苦しめていたという事実に。


 悲しむことすら烏滸(おこ)がましい。

 殺人鬼が、人を殺して悲しんでいたら狂人だ。

 だから、泣いちゃいけない。


 泣く権利なんてない。

 だけど、涙は止めどなく流れた。

 せめてそれを打ち消そうと、自分の馬鹿さ加減に嗤ってみたが、それでも涙は止まらなかった。

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