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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第一章 いつかの約束、彼女の笑顔
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15話 幼馴染=神霊?

 ギルド周辺を一通り眺めて回り、ジークは宿の自室へと帰ってきた。


 二、三時間ほど部屋で剣やボウガンの手入れをしていると、ノックの音と共にクラウスが帰ってきた。


「ただいま。リルさんは?」


「思ったより早かったな。待ち合わせの時間までにはまだ時間があるし,そのうち戻ってくるだろ。それより依頼のほうはどうだったんだ?」


「依頼は……」


 クラウスは少し陰ったような表情で答える。


「達成はした。だけどお金は受け取らなかった」


「受け取らなかったって……なんでだよ?」


 別に金に困っているわけではないが、受け取る権利があるものを受け取らないというのは不自然だ。

 リルもそういうものを受け取らないのは後腐れする可能性があると言っていた。


 クラウスが考えなしにそうしたことをするとは考えにくいが……。


 ジークは急かさずに続きを待ち、部屋には重苦しい雰囲気が漂う。

 クラウスは溜息とともに、ベッドに腰を下ろした。


「西の村の流行り病には、青結晶が通用しなかったんだ……」


 青結晶――。

 ジークたちがロンシャ村付近に発生した突発ダンジョンで手に入れた結晶だ。

 一部のダンジョンボス級の魔物の体内で生成される特殊な鉱石で、砕いて粉末にすることで万能の粉薬に出来る。

 どんな病気にも一定の効果を示す万能薬という触れ書きで、医者や貴族が高値で買い取る代物だ。

 どんな病気だろうと、青結晶があれば症状が緩和する。

 だが、クラウスはそれが効かなかったと言った。


 ジークは剣を壁に立て掛けると、椅子に座ってクラウスに問いかける。


「通用しなかったって……青結晶はどんな病気にも一定の効果があるんじゃないのかよ」


「一般的にはそう言われているね」


「一般的には……?」


 要領を得ないクラウスの受け答えに少し苛立ちを憶える。

 対してクラウスは白蓮の小瓶を弄りながら、俯きがちに受け答えをしている状態だ。


 クラウスは掠れたような声で続ける。


「僕が集めてきた伝承の中に、青結晶でも治癒が不可能だと言われる病の話が、ひとつだけある」


 クラウスは神霊葬を眺め、その小瓶をギュッと握り締めた。


「神霊――コカトリスの毒によるものだ」


 その言葉にジークは言葉を失った。

 その名前は、クラウスの追っている魔物のものだ。


 イブリース

 フェンリル

 コカトリス

 ヨルムンガンド


 魔物の中でも最高位の霊格である神霊。

 その中でも、数百の神霊を葬ってきた、()()()()()()


 アクティスの村の病が、そのコカトリスの毒によるものだとクラウスは言った。


「"病"を司る神霊。全ての生命を討ち滅ぼす究極の毒鳥……。各地の伝承を総合すると、もしもコカトリスがこの儀式を勝ち抜くようなことがあれば、その時は()()()()()()()()()()()()()と言われている……」


「な、なんだってそんなヤツが……!」


 そこまで言ってジークはハッとする。


「いたのか!? アクティスの村に!?」


 もしそうならジードフィルも危険だ。

 神霊と言うからには毒だけじゃなく、純粋な魔物としての脅威も大きい。

 神霊より格下の"聖霊"ですら都市一つを壊滅させられるのだ。

 いくらここがジードフィルだからって、安心していられる保証はどこにもない。


「アクティスの村にはいなかった。おそらく、立ち寄ってすらいないだろうね」


 そう言うとクラウスは懐から地図を取り出した。


「さっきギルドで依頼の完了手続きをしたとき、掲示板に気になる依頼用紙が貼ってあってね……。そこには【緊急依頼 青結晶ひとつの納品】と書いてあったんだ」


 ジークが見た依頼用紙だ。

 コカトリスの毒が流布しているのなら、この近辺の村から青結晶の依頼が殺到していてもおかしくはない。


 大規模なパンデミックによって、大勢の人が死ぬかもしれない。

 それを思うと、ジークは思わず血の気が引いた。


 "人食い"被害など比べものにならない程の大災害だ。

 自分やリル、クラウスだって感染の危険はある。

 肉体的に強いかどうかなど関係無く、病魔は全ての人間に平等に訪れる。


 ジークが呆然としている中、クラウスは地図をテーブルに置いて鉛筆を握った。

 地図上のいくつかの村に丸を付け、それとは別に蛇行する一本の線を書き加えた。


 線は西の森のほうから蛇行して進み、いくつかの村々を隣接すると、アクティスを通ってジードフィルへと続いていく。


「この丸で囲まれている場所が依頼のあった村。そしてこっちの線は村に隣接した河川。これを見ればすぐに分かるはずだ。この病気の感染者は、川の流域に集中している。つまりこれは病原菌の流布じゃなくて、川上から毒が流れてきている、ということになる」


 ジークはクラウスから地図をひったくり、その川の流れを確認する。

 西の方角から流れてくる川だ。

 ここから川上への距離はちょうどジードフィルからロンシャ村までの距離と同じ。

 ただし、ロンシャ村とは違って途中までは道路が通っている。

 行こうと思えば、早馬を使って二日ほどで到着出来るだろう。

 水の流れる速さはもっと早いだろうから、ジードフィルにももう毒が流れ込んでいる可能性がある。


「ギルドに伝えねえと!」


「ギルドも役所も、もう把握してる。街の水門は全て遮断されているし、医者や魔法使いは可能な限り全員集められて、明日の朝にはそれぞれの村に向かう手筈になってる」


 そう言うと、クラウスは頭に手を当てて、そのまま横になった。

 さっきまで前髪で隠れて表情が見えなかったが、クラウスの様子がおかしい。


 息が荒く、汗の量も尋常じゃない。


「お、おい! どうしたんだよ。大丈夫か!?」


 クラウスの肩に手を置くと、普通では考えられないほどの高熱が伝わってくる。


「クラウス……まさかお前……」


「僕も毒を受けてしまったみたいだ。どうやら、アクティスの村へと向かう途中で、川の水を飲んだのがいけなかったらしい」


「話すな。濡れタオルを持ってくるから、少し待ってろ」


 クラウスは部屋から出て行こうとするジークの裾を掴んだ。


「待って。僕には時間が惜しい。君に伝えなくちゃいけないことが沢山あるんだ」


 ジークはクラウスの切羽詰まったような表情を見て、静かに部屋の扉を閉め、ベッドの横の椅子に座った。


「何の話だ?」


 ジークは黙って続きを待った。

 クラウスは辺りを見回し、誰も居ないことを確認すると、そっと口を開いた。


「リルさんは……神霊フェンリルなんだ」


 その瞬間、がちゃりと音がした。

 ジークが振り返ると、そこには銀色の髪の一人の少女が立っていた。

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