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9.薮入の娘
○ 君不見故人太祇が句
薮入の寝るやひとりの親の側
幕の前に老人が出てきて初めて台詞を吐きます。
「君見ずや今は亡き炭太祇が句を」と。ようやく実家に帰り、ひとり親と尽きぬ話を交わしたのでしょうか、そのまま寝入ったあどけない姿が髣髴とさせられます。
この個所があることによって、旅の随伴者に過ぎなかった老人の視点から全篇を読み直すよう促しているわけです。
あえて自作でなく、炭太祇の句を持ってきたところは、登場人物である老人と作者である自分との間に最後まで距離を置こうという趣旨だろうと思います。
仮構のお芝居に作者がぬっと顔を出すような品のないことを蕪村はしないのです。
このように私の不十分な知識でもこの詩を見ていくと、いろんな発見がありました。技巧を凝らし、イメージをつないでいく腕の冴えと何よりもその詩情の豊かさは、学ぶべきものがあるようです。