8.春又春
○ 故郷春深し行々て又行々
楊柳長堤道漸くくだれり
○ 嬌首はじめて見る故園の家黄昏
戸に倚る白髪の人 弟を抱き我を
待つ 春又春
いよいよ大詰めですが、典型的な蕪村の風景の中で夢からようやく覚めて、故郷への道をたどり始めたことが前半の内容です。
その足並みは、行の末尾が「ゆきゆきてまたゆきゆく」「やうやくくだれり」とY音とK音が多いことからも、ゆったりとしたLargoであると察せられます。
やさしく揺れる柳はそういう情景にふさわしいものです。
これに対し、後半は「黄昏/戸に倚る」、「我を/待つ」と行をまたぐ技法が使われていることから、母親の顔が見えて、気持ちが急き、足元がもつれるような調子になっています。
故郷に帰ったのに「嬌首はじめて見る」とは、花街の嬌態を身につけてからは初めてと解すればいいのでしょうか。
いずれにしても白髪の母親と対照をなしており、これがさらに「黄昏」(「くわうこん」で「故園」と韻を踏みます)とも対照をなして、遠くたんぽぽの「五々の黄に」と位置までそろえて響き合うのは、お見事としか言いようがありません。
「行々て又行々」を受けて、「春又春」とはお芝居ならちょーんと拍子木が鳴って、幕が引かれるところでしょうか。