2.少女との出会い
では、小西先生をして日本文芸史上、「空前であると同時に、たぶん絶後でもあろう。そして、欧米においても、この類の詩は皆無でなかろうか」と言わしめた作品を見ていきましょう。
漢文で書かれた序文では、蕪村が大阪の奉公先から故郷に帰る少女と淀川の毛馬の堤で出会い、一緒に歩いた経験を元に、彼女の視点で構成されていることが説明されています。彼女は3年の都会暮らしですっかり垢抜けて、なまめかしいながら、心映えは可憐であると描写されています。
こうした少女と俳人らしき老人の道行きがお芝居仕立てで語られていくわけで、主情を押し立てていく啄木とは凝り方が違います。
○ やぶ入りや浪花を出でて長柄川
○ 春風や堤長うして家遠し
○ 堤ヨリ下テ摘芳草 荊与棘塞路(芹を摘んでいたら、茨が邪魔するの)
荊棘何妬情 裂裾且傷股(裾が裂けて太腿に傷が……いやらしいやつね)
情景説明的な句が二つ前置きされて、土手で芹を摘む少女が描写されます。
草を摘むあどけなさと成熟しかかった肢体、昔も今も男ってそういうのが好きなんですね。
そうしたエロスが少女の視点でしかも漢詩によって語られることによって、彼女を見る老人の視線も巧みに隠されています。
荊棘の文字が2回出てくることで、やわらかい太腿を傷つけるトゲトゲした感じが強調されています。