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別れ

(想い出…④)


社会人になって五年間過ぎた頃父から


「会社を立てるからお前も来ないか?」


と誘いを受けた。


新しい世界に足を踏み入れて見ようと私は今の仕事を辞め父の会社に入る事にした。


この頃から家に婆ちゃんが来る時間が増えて来た。

一週間に一度家に帰る日々が半年続いていた。

最近、補聴器を付けた婆ちゃんは良く笑い良く話すようになった。


「舞花と出掛けてくるよ!」


「はいはい!カラオケだろ?」


婆ちゃんの口からでたカラオケに私と妹は目を丸くした。


「そうだよー!行って来るね!」


「気を付けて!」


この日の車の中で私と妹は婆ちゃんがカラオケを言うとはね…と話笑っていた。


カラオケが終わり妹と家路に着く。


「ただいまー!」


妹と私は同時にそう言った。


「お帰り!」


何時ものように婆ちゃんが言う。

台所に立つ婆ちゃんは前より更に小さくなったようで

(あぁ…婆ちゃんの背中こんなに小さかったんだなぁ…)

そう思っていた。

これが亡くなるたった数日前の出来事…

――――――――――――――――――――


妹と葬儀場に着き婆ちゃんの顔をまじまじと見た。

やっぱり涙は溢れる。

妹も泣いている。

静かに眠る婆ちゃん…やっぱり動かない体、目…

改めて現実を突き付けられた。


暫くして親戚が兄と一緒に葬儀場に着く。


親戚が小さくなった婆ちゃんを見て静かに泣いているのが分かった。

その日は妹と兄と私と三人で婆ちゃんの家に泊まることにした。

起きたら全部夢で貸家の天井であってくれたらと思い眠りに付いた。


目を覚まし婆ちゃんの家の天井…婆ちゃんがいない台所、寝室を見て夢ではなかったと一人泣きながら仏壇にお茶と水をあげる。

外ではポツポツと雨が降っていた。


通夜…


祭壇に花が綺麗に飾られる。


参りに来てくださる方々が沢山いて婆ちゃんがどれだけ好かれていたかが分かった。


飾られた婆ちゃんの遺影、通夜の開始を告げるナレーションが始まる。


「別れとは悲しく…(以下略)」


ナレーションの言葉と婆ちゃんの遺影の写真を見て私は更に泣いた。


通夜の時間頭には婆ちゃんと最後に交わした言葉が蘇る。


「じゃあ、婆ちゃーん行ってくるばい!」


「はーい!気いつけて体壊さんようにな!」


「うん!婆ちゃんもばい!」


私は婆ちゃんの背中を優しく撫でそう言って家を出た。

まさか、これが最後の言葉になるとは思っていなかった。

最後に見た婆ちゃんの笑顔を思いだし私は更に涙がでる。


通夜が終わった後、葬儀で孫から婆ちゃんに代表者一名の手紙を言うか、皆で手紙を書いて棺に入れるかになり私達兄弟は皆で手紙を書こうと言うことになった。

【婆ちゃんへ…婆ちゃん…早いよ…突然居なくならないでよ…手紙書くよ…婆ちゃんのおにぎり美味しかった!煮しめも美味しかった…もう婆ちゃんの笑顔見れないんだね…また笑って私の名前呼んでくれたらとどれだけ思うか…今までお疲れ様!ゆっくり休まなんよ?婆ちゃん…大好きだよ…】


涙ながらに私は一文字一文字を書く。

婆ちゃんが呼んだらきっとゆいちゃんらしいね?って笑うんだろうなぁ…

そう思うと私は少し笑みを浮かべた。

手紙を書き終え私と妹は二人で婆ちゃんの家に泊まる。


「婆ちゃんの家に居るのに婆ちゃんがいない…」


「そうだね…」


通夜で残ったご飯を妹と泣きながら食べた。


葬儀…


時間は前にしか進まない…葬儀の朝がやって来た。


昨日と同じようにお坊さんのお経が始まる。

お坊さんのお経が終わり、花を上げる準備がされる。

流れる音楽に今まで泣いていなかった兄の目からぶわっと涙が溢れていた。

それを見た私も更に泣いた。

花を棺に入れるため側に寄る。

亡くなって三日ぶりに婆ちゃんに触れた。

抱きつきたかった…喚いて泣きたかった…だけどそれはしなかった…婆ちゃんが心配して安心して行けないから…

(でも沢山泣くのは許してね…婆ちゃん…目から止めどなく涙が溢れて仕方ないんだよ…それくらいはさせてね…)

私は静かにそう頭で言う。


「ありがとう…ゆっくりやすまなんばい…」


私はそう一言、言って花を棺に入れ婆ちゃんの頭を優しくゆっくりと撫でなき愚ずれそうになる足に力を入れて踏ん張り立った。


兄も妹も両親も皆涙でいっぱいになっていた。


葬儀が終わり火葬場に行く。


棺がゆっくりと火葬される部屋に入れられゆっくりと扉が閉まる。


「婆ちゃん…」


私は誰も聞こえないくらい静かな音量でそう口にした。


そして火葬のボタンが押さた。


長い長い3日間だった…初めて家族を失う辛さが分かった。

これでもかと言うくらい泣いた3日間だった…。


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