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現実

ひたすら走り家にたどり着いたのは夕方だった。

家に着いたら見知らぬ車が止まっていた。

車から1人降りてきて見つけた現状と妹の話、事件性は極めて低いと言うことを告げられた。


「家中に入ってもいいですか?妹は何処に?」


父が話をしている間に私は後から降りてきた人達にそう聞いた。


「いいですよ…妹さんは2階で待機してもらっています」


その言葉を聞き私は急いで2階にかけ上がる。

階段を登りきる一歩前に妹は顔を伏せて座っていた。


「舞花……」


その姿を見て私は妹の舞花を強く抱き締めた。


「うっ……うわー!!!」


私が抱き締めた瞬間、舞花は何かの糸が切れた見たいに泣き出した。

そんな舞花の姿を見て私も涙が溢れた。


「辛かったね……ごめんね………1人で良く対応してくれたね……」


私は舞花の頭を撫でながら暫く舞花を抱き締めていた。


抱き締めながら私の頭にはまた婆ちゃんとの想い出が蘇る。


(想い出…②)


中学校を卒業し高校生になった私は部活やバイトで忙しい日々を送っていてあんまり婆ちゃんの家に行かなくなっていた。

兄もバイトの毎日で婆ちゃんの家に行くことが全く無くなっていた。

だけど忙しいながら私は正月だけは婆ちゃんの家に行き餅つきと墓参りには必ず行っていた。


「婆ちゃん来たばい!」


「ゆいちゃん良く来たね!忙しいかとに……バイトは大丈夫とね?体は壊しとらん?」


婆ちゃんは私の顔を見ると必ずそう言って体の心配をしてくれていた。


「大丈夫ばい!ほれ!この通りピンピンしとる!婆ちゃんも相変わらず元気みたいで良かった!」


私は体を動かしながら婆ちゃんにそう言った。


「婆ちゃんも元気ばい!」


婆ちゃんはニコニコしながら私にそう言った。


婆ちゃんの家の炬燵に入り居心地の良さに私はウトウトと眠りについていた。


「ゆいちゃん…ゆいちゃん……ご飯出来たばい!」


婆ちゃんから起こされ私は目を覚ます。


「うー!ご飯?」


「悠衣花!ご飯並べるの手伝って!」


「えー……」


母から言われしぶしぶと炬燵からでて出来た料理を台の上に並べる。


「今日はゆいちゃん達が来るって言ったけんカレーば作ったけんね!煮しめもあるばい!」


台の上に並んだご飯を家族皆で雑談しながら食べた。

正月が終わり家に帰る前、婆ちゃんはせっせと何かを作りタッパに入れ私達に渡した。


「帰りお腹すくと思うけん食べながら行きなっせ!」


婆ちゃんはそう言ってニコリと微笑み私達を見送ってくれた。


「んならな!また来るけんな!」


「んならな!気を付けて帰んなっせよ!」


帰る時は必ずそう言って帰っていた。


家に帰る途中婆ちゃんから貰ったタッパを私達は開ける。


「ははっ…おにぎりだ!」


タッパには綺麗に握られたおにぎりが入っていた。


「婆ちゃんのおにぎりはいつ食べてもやっぱり美味しかね!」


私達家族はそう言って笑いながらおにぎりを頬張りゆっくりと家に帰った。


―――――――――――――――――――


暫くすると兄と母が家に帰って来た。


「家族が揃いましたのでご確認を…」


そう言われ最初に父と母が婆ちゃんの顔を見る。


「母ちゃん…」


母が泣きながらそう言い婆ちゃんに触れた時。


「ご遺体にはふれないで下さい…」


検視官からそう告げられた。


しかたない、いくら事件性が無くても死因を調べるまでは触れない…分かる…検視官の言っている事は普通の事…頭では分かってるけど悔しい…目の前にいるのに触れない…手すら握れない頭も撫でれない…病院で亡くなるのとは違う…家で亡くなったたったそれだけの違いで体にも触れれないのは何とももどかしいし事かと私は思った。


母は泣き崩れ父も泣きながら母を支える。


母達がその場を離れ私と兄が顔を見る。

婆ちゃんはまるで眠ってるかのような穏やかな顔をしていた。

顔を見た瞬間これは現実なんだと夢じゃないんだと言う言葉が脳裏を過った。

涙が溢れる…


「婆ちゃん…」


私は静かにそう言った。


(しっかりしないと…)


そう思いながらも止めどなく涙は溢れて止まらなかった。

瞑って開かない目…血の気の通ってない白い顔…紫色の唇…そんな姿が目に焼き付き離れない…。


大好きで大好きで仕方ない家族を…突然失くした家族の痛みを…私はこの時初めて実感し、それと同時にこれが現実であると突き付けられた瞬間でもあった。

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