もう1つの使い方
宗太郎に追われる中、シーフはなぜあいつは自分を追ってこれるのかと疑問が尽きなかった。
追われている間、シーフは暗躍を発動させ続けている。それなのに路地を回っても物陰に隠れても見つけ出して追ってこられるのだ。それがシーフには不思議でならない。
一方宗太郎は査定眼をフル活用し、シーフが持ったままのスマホにロックオンし続けている。
肺と心臓が焼けるように痛いが、脳内麻薬と火事場の馬鹿力で痛みを無視する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
「*·○<€$×+%;·/@~~~~ッッ!!」
息が切れ始めるシーフ。
もはや人間の言葉を話していない宗太郎。
「あっ!!」
「痛って!」
そんな二人の鬼ごっこは、シーフが路地裏にいたゴロツキ達3人の内1人にぶつかったことで終わりを告げた。
「痛ってえなぁオイ!なんだテメぇ!」
「やんのかゴラぁ!」
「うわっすげぇイケメン!」
3人のゴロツキがそれぞれ言葉を発する。
「っ...すみません、急いでますので!」
足早に去ろうとするシーフ。
「おっと待ったぁ!」
しかしゴロツキの1人がシーフの行く手を阻み、前に立った。
「ぶつかっといてそれだけで済まそうってんじゃねぇだろうな、あぁ!?」
そう言ってシーフの胸倉を掴むゴロツキ。
「うぐっ!」
胸倉を掴まれ、息がつまるシーフ。
「痛って~!これぜってぇ折れてるよ~!」
「治療費よこせ治療費!」
ぶつかられたゴロツキがおちゃらけながら言い、もう1人も煽る。
(ヤバい、掴まれたら暗躍が使えない!)
突然の窮地に焦る。
と、そこで路地の奥から人が現れる。
「ん?なんだテメエ?」
「コイツの連れか?」
ゴロツキ達が訝しむ。
「ふしゅるるぅー、ふしゅるるるぅー、スマホぉぉぉー」
それは追い付いた宗太郎だった。
「な、なんだコイツ...」
「おい止まれ!」
ゴロツキの1人が剣を抜く。しかし宗太郎は止まること無く近づいてくる。
「スマホ...スマホぉぉ...」
「っ...うらぁ!」
近づいてくる宗太郎にゴロツキは焦り、剣を振りかぶって袈裟懸けに切りかかった。
ジャラッ!!
宗太郎は防御しなかった。しかしゴロツキの剣が宗太郎の体を切り裂くことはなかった。
「え、えっ?あれっ?」
ゴロツキは何が起きたか理解できない。持っていた剣が忽然と消え、代わりに地面には小銭が散らばっているのだ。
とりあえずゴロツキの本能として小銭を拾おうとする。
「邪魔するな...どけぇ!」
宗太郎がそう叫んで右手を振った。
「うぼぉっ!?」
小銭を拾おうとしたゴロツキは突如体の下から出現した太くて長い木材に打ち上げられ、そのままドシャッと落下した。
「な、なんだこの木材!?」
「テメエの仕業か!?」
シーフの胸倉を放し、ゴロツキがもう1人と共に宗太郎に詰め寄る。
「...変換」
宗太郎がそう呟いた。するとゴロツキ達の持っていた装備品、来ている服、履いていたパンツまで全て消え、ジャラジャラジャラッ!と足元に小銭が散らばる。
「キャーッ!!」
「エッチーッ!!」
オッサン達が可愛くない悲鳴を上げながら体を隠す。
「くそ、ずらかるぞ!」
「まっ、待ってくれぇ!」
「ぐふぅ...」
倒れた1人に肩を貸し、ゴロツキ達は逃げていった。
それをポカンとした表情で見るシーフ。しかし宗太郎が近づいて来たのに気付くと、焦って後退りする。が、すぐに壁にぶつかって止まる。
宗太郎が手を伸ばしてくる。思わず目をギュッと閉じ、衝撃に備えた。しかし宗太郎はシーフが右手に持っていたスマホを取り返しただけだった。
「あぁ~~~俺のスマホぉぉ~~~!もう絶対手放さないからなぁ~~~!」
スマホに頬擦りしながら言う宗太郎。
再びポカンとして宗太郎を見るシーフ。
「あの、殴らないんですか?」
怯えながらそんな事を聞いてくる。
「は?いや、スマホ返してくれれば文句はねぇよ。あっ、でもまた盗ったりしたら今度は容赦しないからな?」
そう言って釘を刺しておく。
すると宗太郎の目の前に、レベルアップの時の様に画面が開いた。
スキルレベルが上がりました。
等価変換Lv1→2
付属スキル解放
査定眼
new 貯金箱
(貯金箱?)
宗太郎が疑問に思った瞬間、地面に散らばっていた小銭達が浮き上がり、宗太郎の体に吸収されていく。ステータスを見てみれば所持金に追加されているではないか。どうやらこのスキルは多くの金を物として持たずに済むようだ。
(しかし、等価変換にこんな使い方があるとは...)
そう考えながら、先程ゴロツキを打ち上げた木材に手を置く。
さっきまで、等価変換に金貨を電子マネーに変換する以外にも使い方があるとは知らなかった。自分に向けて振り下ろされた剣に、とっさに「やめろ!」と念じた。すると剣が小銭に変換されて地面に散らばったのだ。そしてゴロツキに「どけ!」と言った瞬間、小銭が価格分の木材に変換されてゴロツキを下から突き上げ、吹き飛ばしたのだ。
査定眼を使って木材を観察する。
大型木材:3000G
先程ゴロツキが持っていた剣も3000Gだった。よく考えれば、この世界に来た初日に初めて査定眼で見た物にも木材があった。だから咄嗟に出てきたのかもしれない。
(査定眼で表示されるこの価格は、物を幾らに変換できるかの値だったんだな。)
宗太郎はそう納得した。
「まぁとにかく、これからはもうスリすんのは止めてくれよ?」
シーフにそう告げて、宗太郎は路地裏から出ていく。
「...」
座り込んだままのシーフは、その後ろ姿をじっと見つめるのだった。