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武具購入、初戦闘、そして...

 数日後。宗太郎はクロージャの街の武具屋に来ていた。

 ここ数日彼は素材採集で貯蓄を溜めていたが、昨日の採集の途中でついにモンスターに遭遇した。といっても出会ったのはスライムの様な軟体生物。いかにも弱そうに見えたのだが、毒を持っていないとも限らない。素手で戦うには不安が残り、今日こうして武器を求めて武具屋に来たのだ。


「こんにちは。」


「いらっしゃい!今日は何をお探しで?」


 店主らしき筋骨隆々の男性が声を掛けてくる。


「スライムと戦いたいんですけど、良い武器ってありますか?」


「あははっ、お客さん!スライムなんて武器なんか無くても踏んづけるだけで倒せますよ!」


「えっ、毒とか無いんですか?」


「火山地帯に生息してる奴とかなら、ガスを吸って毒を持ってる種類も居ますがね。普通に森に生息してるのなら毒なんてありゃしませんよ。」


「そうなんですね...」


「お客さん、そんな事を聞くってことは冒険者始めて間もないって所でしょう?だったら初心者用の装備をワシが見繕いますよ。」


「本当ですか!ありがとうございます。」


 店主が笑いながら出してくれた提案に乗る宗太郎。

 しばらく店主が店内に飾られている装備をあーでもないこーでもないと物色する様子を眺める。


「まぁ、初心者なら必須はこんなもんですかね。」


 数分後。店主がカウンターに乗せたのは、小型の盾と革鎧、脛当て、それに棍棒と剣だった。


「ショートウルフやゴブリンなんかは小せぇからよく脛を狙われますんで、この脛当てを。それに胴体を守る革鎧。防御の要のショートシールド。棍棒と剣どっちにするかは、大体の奴は剣を選ぶけどまぁ好みだな。とりあえずこれだけあればまず死ぬことはねぇと思いますぜ。」


「おぉ...!」


 いかにもファンタジーっぽい装備品の数々にテンションが上がる宗太郎。


「武器は、そうだなぁ...剣は自分が切れたとき怖いし、棍棒にします。全部でいくらになりますか?」


「そうだなぁ、全部で8千5百Gだが...よし、兄ちゃんの今後に期待して5百Gまけてやる!8千Gだ!」


「えっ、良いんですか!?」


「ああ。その代わり、今後装備を買う時は是非ウチを贔屓してくれよな。」


「はい!勿論です!」


 気前の良い店主に感謝を述べて、支払いを済ませる。

 革鎧を着て、盾と脛当てを装着。そして棍棒を持てば、見た目だけなら一端の冒険者のようになる宗太郎。


「こんなに色々用意してもらってありがとうございます。」


「なに、いいってことよ。これから頑張んな。」


「はい!」


 そうして宗太郎は武具屋を後にした。

 購入した武具の使い心地を調べる為、早速ギルドでスライム退治の依頼を受け、また森へ向かうのだった。




 クロージャの街近くの森の中、宗太郎はスライムと対峙していた。

 左手に着けた盾を構えたまま、素材採集の時の様に査定眼を使ってスライムを観察する。


 スライム:Lv2


 どうやら生物に査定眼を使っても、金額は出ないようだ。その代わりにスライムのレベルが表示されている。

 自分のレベルがスライムより低い事実に内心ダメージを受けつつ、宗太郎はゆっくりとスライムに近づく。


「!」


 数歩近づいたその時、スライムがブルブルと震えだした。そして次の瞬間、こちらに向かって跳び跳ねてきた!


「くっ!」


 咄嗟に左手の盾でガードする宗太郎。

 ガンッ!という強めの音を発し、盾にぶつかるスライム。

 そのまま跳ね返り、元の位置に戻る。

 プルプルと震えるスライムを見つめ、宗太郎の心臓はバクバクと鳴っていた。

 前の世界を含めてもケンカなどしたこともない宗太郎である。生まれて初めての命を掛けた戦いに体が勝手に震えるのだ。

 そうこうしている内にまたスライムが震え始めた。再び攻撃体勢に入ったのだ。


「ッ!」


 それを見た宗太郎は震える脚に喝を入れ、スライムに向けて走り出す。


「ッだぁっ!!」


 走る勢いをそのまま乗せ、スライムに向けて棍棒を振り抜いた。

 バチャン!!と大きい音をたててスライムが飛び散る。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 荒い息を整えながら、宗太郎はスライムだった破片を見つめる。

 すると破片達は虹色の泡に弾けて消えていった。そして残ったのはビー玉の様な玉が1つ。


 スライムの核:50G


 査定してみればそんな結果が出た。


(倒したモンスターは消えて、素材が残るのか...ステータスの時も思ったけど本当にゲームみたいだなこの世界...もしかしてそんな風にイメージして作ったのかなロデウスさん。)


 そんな疑問を考えながらスライムの核を拾う。

 すると、宗太郎の目の前で急にステータス画面が開いた。


 レベルが上がりました

 レベル:1→2


 画面にはそんな事が書いてある。どうやらスライムを倒した事で経験値が溜まり、レベルアップしたようだ。といっても1つレベルが上がった位では体に目立つ変化は無い。

 その後、同じ様にスライムを立て続けに倒し、依頼を進める宗太郎であった。




 あれからスライムを9体屠って目標の10匹を達成した宗太郎は、ギルドへ向かう大通りを歩いていた。


(慣れればホントに簡単だったなスライム退治。相当近づかなきゃ攻撃体勢に入らないし、そうなったとしても攻撃するまでにタイムラグがあるから盾持ってれば防御できるし。あの店主が言った通りに盾買って良かった。)


 左手の盾を見ながらそう思う。ちなみにスライムを多く倒したお陰か、レベルも3に上がった。

 と、そこで宗太郎は向かいから来た少年と肩がぶつかった。


「すみません。」


「いえ、こちらこそ。」


 少年の方が軽く謝り、宗太郎も謝罪を返す。

 その後ギルドに着き、いつものようにケリナに依頼完了の報告をしている時だった。


「はい、スライム10匹の討伐代金500Gと、スライムの核10個の買取価格500G、合計千Gのお支払となります。」


「ありがとうございます。ケリナさん。」


 ケリナから中金貨1枚を渡される。それをポケットに入れようとした所でその事に気付いた。


「ん?」


 左ポケットをまさぐる、無い。右ポケットをまさぐる、...無い。

 その他にもズボンの尻ポケット、革鎧の裏、全身を手でまさぐって調べたが、無い。


「か、加地様?どうされたんですか?」


 急に挙動不審になった宗太郎を心配してケリナが声を掛ける。


「無い...」


「無い?」


「スマホが、無い...」


「す、すまほ?」


 ケリナがそう聞き返したが、その声が宗太郎に届くことは無かった。


「びゃぁああああぁあアァああああああぁあああアァ!!!!」


 何故なら、宗太郎の口を衝いて出た絶叫に、掻き消されてしまったからだ。


「きゃっ!?」


 ケリナが小さく悲鳴を上げるが、宗太郎には気にしている余裕は無い。

 突然の大声に、両側の酒場から冒険者達がなんだなんだと集まってきた。


「なんで!?なんで!?何で何で無いんだ無いんだ、ああああァァァァァァああああ!!!」


 当の宗太郎は、集まって来ている冒険者達にも気付かずに取り乱している。

 そんな様子を見て、冒険者の1人が話しかけてきた。


「なんだ兄ちゃん、何か無くなったんか?」


「俺の命より大切な物が無くなってるんです!なんで!?さっきまで確かにあったのに!?」


「あぁー、もしかしたらシーフの奴にスられたのかもな。」


「シーフ?」


「ここらを狩り場にしてるスリ師のあだ名だよ。今まで1度も捕まった事が無いってんで有名だぜ?」


 冒険者の1人がそう説明してくれる。


「兄ちゃん、ここに来るまでに金髪のガキに会わなかったか?数少ない目撃情報にその特徴があるんだが...」


 そう言われて宗太郎は大通りでぶつかった少年を思い出す。


「あい、つ、だぁッ!!」


 そう叫んで宗太郎は踵を返し、ギルドの扉へと走り出す。


「諦めた方が良いぞ兄ちゃん、あいつ見つけられた奴なんて居ないんだから...って、もう行っちまった。」


 宗太郎の背中に向けて掛けられた冒険者の言葉が、ギルドに残るのだった。


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