異世界へ
宗太郎がゆっくりと目を開けると、そこはもう自分の見知った六畳間でも、先程まで居た真っ白な空間でもなかった。
視界一面に広がる草原、広大な青空、遠くに見える高い塀で囲まれた街。空には竜のような飛行生物の姿も見える。
そこは、宗太郎が人生で1度も見たことが無いと断言できる、異世界の姿だった。
「おぉ...すげぇ...草原広っ...空気うまっ...」
宗太郎は感嘆の声を上げる。ここ数年は大自然と触れ合う機会も無かった為、草原と吹き抜ける風だけでも少し感動してしまうのだ。
「俺、本当に異世界に来たんだなぁ...」
ポツリと呟いた。と、そこで1つ思い出し、ズボンの右ポケットをまさぐる。きちんとスマホがあるのを確認して、電源を入れた。問題無く起動し、ホーム画面が表示されてようやく一息つく。
「これで起動出来ませんでした、じゃ笑い話にもならないもんな。」
スマホの画面で変わった所は2つ。1つは充電残量のマークに、上から『∞』と表示されている事。もう1つは電波レベルのマークに、上から『ゲ』と表示されている事。恐らく『ゲーム専用』の略だろう。
「成程ね。電波はゲーム専用、充電は無限、っと。」
ロデウスの言った通りになっているのを確認して、宗太郎はスマホをポケットに戻した。
「さてと、とりあえず街に向かいますか。」
そう言って宗太郎は街に向けて歩き出した。
(そういえば、あの白い空間でのロデウスさんの最後の言葉...気負わずとか気長にとか、あれってもしかしなくても俺期待されてない感じだよなぁ。まぁ随分みっともない姿見せちゃったし、しょうがないか。魔王退治は神様の言う通りに気負わずぼちぼち行くスタンスでやろうか。)
そんな事を考えながら歩みを進めるのであった。
◇
歩き始めてから数十分後。宗太郎は塀と塀の間にある巨大な門にまで辿り着いていた。
門には数多くの人が出入りしている。普通の人間は勿論、獣耳や尻尾を持つ者、エルフのように耳が尖った者も居る。
「すげぇ...」
始めて見る人間以外の人種に、思わず声が漏れる。が、感動してばかりも居られない。
まずはこの街に来た目的を果たそうと、宗太郎は門の端に立っていた衛兵のような風貌の人物に声を掛けた。
「すみません、ギルドに行きたいんですが、道を教えて頂けませんか?」
「あぁ、ギルドならこの大通りを真っ直ぐ行った突き当たりの建物だ。」
そう言って衛兵は大通りの奥に見える建物を指差した。
「ありがとうございます。」
「いいってことよ。」
言葉を交わし、衛兵と別れた宗太郎。そこでふと疑問が浮かんだ。
(あれ?日本語が通じる?)
よくよく観察してみると、街の看板等の文字も全て日本語だ。
(どうなってんだ...?)
と考えた所で、スマホのバイブが鳴った。
(メール受信?異世界で?...って、そんな事出来るのは神様以外居ないか。)
そう考えて受信ボックスを開いてみた。案の定、メールの主はロデウスと表示されていた。
差出人:ロデウス
本文:異世界語のままだと何かと不便じゃからの。お主の認識を変えて異世界語を日本語に感じるようにしておいたぞ。日本語を書けば相手には異世界語として通じるようになっとるはずじゃ。
「マジか!すげぇな...」
神様の万能さに舌を巻く宗太郎。
「わざわざありがとうございます、送信、っと。」
メールを返信し、スマホをポケットにしまう。
そうこうしている内に、衛兵にギルドだと教えて貰った建物に到着した。
その建物を見て宗太郎が感じた感想は、結構大きい、というものだった。確かに周囲の建物と比べても一回り大きく、立派だと感じる。正面の扉からは筋骨隆々の戦士や、長いローブを着た魔法使いのような人物など、色々な人が出入りしていた。
扉の前に立って深呼吸を1つ。緊張を落ち着けてから、よし、と意気込んで宗太郎は扉を押し開けるのだった。