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冒険者講習 2

「じゃあ戦闘スキルを持ってる奴、手を挙げてくれ。」


 全員が治療を受け終わった後、ドーマンがそう言う。

 宗太郎を含め、3人が手を挙げた。


「よし、そいつらは今から1人ずつ私と練習試合をしてみようか。」


 再びどよめく生徒達。

 修練場の中央に移動したドーマンと生徒の1人だが、生徒の方はまだ戸惑いがあった。


「あの、ドーマン先生、良いんですか?失礼ですがドーマン先生は...」


「あぁ。私はスキルを持っていない。しかしそれでも戦うことは出来るという事を教えてあげよう。大丈夫、寸止めしてやるから。」


 ドーマンの言葉に、生徒がムッと黙りこむ。


「なぁ、ドーマン先生ってAランクなんだよな。なんで相手の生徒はドーマン先生を心配する様な事を言ってんだ?」


 宗太郎がまた近くに居た生徒に聞く。


「何言ってんだ、普通は戦闘スキル持ちとそうでない奴では戦力に大きな差が出るもんなんだよ。それこそ上ランク相手に手傷を負わせられるくらいにはな。それなのにドーマン先生は自分が無傷で終わるみたいな事を言ったから、相手の奴は怒ってる訳だよ。」


「成る程...」


 宗太郎はソフィを攫った傭兵達と戦った時の事を思い出す。確かに戦闘はズブの素人である自分が傭兵と戦えたのはスキルの力が大きいことは確かだろう。

 そんな事を考えている内に準備が整い、練習試合が始まろうとしていた。

 試合開始の合図は先程のベテランらしき修道士が掛けてくれる様だ。


「それでは、いざ尋常に...始め!」


 修道士の言葉が修練場に響き渡る。


「はあぁ...っ!」


 生徒が前に手を構え、気合いを込める。すると手の間に火の玉が出現し、その大きさを増していく。


「はぁっ!」


 そして生徒が掛け声を発すると火の玉は前方に向かって発射される。

 勢いよく空中を進む火の玉。生徒が勝利を確信した様な表情を浮かべる。

 しかし、背後からその生徒の首に木剣がそっと当てられ、その表情は凍りついた。

 火の玉が派手な音を立てて着弾する。しかし着弾位置にドーマンの姿は既に無く、生徒の背後で剣を構えながら穏やかに笑っているのだった。


「い、いつの間に...」


 生徒が冷や汗を流しながら問う。


「なに、君が火球を作り出すのに集中している隙にね。」


 剣を降ろしながらドーマンは答える。


「スキルで火球や水球を作り出す時は大きな隙が生まれやすい。加えて君は手を前に出して火球を作り出していたね。あれでは倒すべき敵が火球に隠れて見えなくなってしまう。それでは命中率が下がってしまう。いいかい?どんな時でも敵から目を離してはいけないよ。実際の戦闘ではそれが命取りになることもあるからね。」


「はっ、はい!ありがとうございます!」


 懇切丁寧に説明するドーマンに、生徒は返事を返す。


「よし。では次の人、前に出てきてくれ。」


「はいっ!」


 もう一人の生徒が前に出て、ドーマンと対峙する。


「いざ尋常に、始め!」


 修道士の声が響き、2回目の練習試合が始まる。


「ッ!」


 それと同時に、生徒は横に向かって走り出した。ドーマンから目を離さず、同時進行で後ろ手に水球を作り出している。

 どうやら止まっていればまた回り込まれると考え、動きながらドーマンを狙うつもりのようだ。


「はぁっ、はぁっ、は...っ?」


 走り続けている生徒は、視線の先でドーマンが木剣を振りかぶるのを目撃した。

 あんな所で剣を振っても届かないんじゃ...と思ったのも束の間、ドーマンはその場で生徒に向けて木剣を投げつけてきた。


「うわ、っと!」


 急停止し、飛んできた木剣を避ける。しかしその時にはもうドーマンは生徒に肉薄し、袖と胸襟を掴んでいた。


「そぉい!」


「うわぁあ!」


 そのまま生徒は背負い投げられ、地面に落とされた。


「うん。最初に動いて私に回り込ませない様にと考えたのは良かったね。」


 ドーマンが生徒を引っぱり上げながら言う。


「ただ、私が投げた木剣に気を取られてしまったね。実践では敵は何をしてくるか分からない。どんな時でも落ち着いて、臨機応変に対応出来るようにしなくてはね。」


「はっ、はい...」


 ドーマンに手を引かれたまま、生徒は返答する。


「さぁ、最後の1人もいってみようか。」


「っ!はい!」


 そしてついに宗太郎の番がやってきた。前に出て、ドーマンと向かい合う。


「遠慮しなくていい。親の仇だと思ってかかって来てくれ。」


 ドーマンがそんなことを言う。


(親の仇って言われてもなぁ...)


 親は元気に生きているので、いまいちイメージが湧かない宗太郎。

 そこで、イメージの相手を変えてみる事にする。もしあのドーマンがソフィを攫って傷つけた奴らの一味だとしたら...。


(...)


「それではいざ尋常に...」


(さて、この子はどういった戦法を取って来るかな?)


 ドーマンは指導者の目線で宗太郎の攻撃を待つ。


「始め!」


 だがその指導者の余裕も、次の瞬間には剥がされる事になる。


「!?」


 急に姿勢が崩れるドーマン。咄嗟に片足を見ると、いつの間にか出現した穴に片足がとられている。靴底には小銭のような物を踏んでいる感触。


(ッ!!)


 足元の穴に気を取られた隙に飛んできた殺気に、咄嗟に木剣でガード姿勢を取ろうとする。しかし不安定な体勢では防ぎきれず、突っ込んできた何かが顔面を直撃...

 する、直前でそれは止まった。


「はぁっ...はぁっ...」


 木剣を構えたまま、冷や汗がぶわっと吹き出るドーマン。眼前のそれを観察してみれば、それは木の杭であった。


「ど、ドーマン先生?大丈夫ですか?間違って当たってないですよね?」


 杭の向こうから顔を覗かせる宗太郎。相手を心配するその様子からは、とても先程の殺気を放ったとは思えない。


「あ、あぁ、大丈夫。当たってないよ。」


 ようやく落ち着いてきたドーマンが返事をする。

 それを聞いた宗太郎は一安心して、杭を大金貨数枚に変換し直して手元に戻す。

 一方、生徒達にはどよめきが起こっていた。


「なんだ?今あいつ何をした?」


「開始と同時に先生が体勢を崩したと思ったら、あいつの手元から先生の眼前まで木の杭が伸びてた...」


「先生が体勢を崩したのもあいつがやったのか?」


「先生から一本取るなんて...」


「一体なんのスキルだ...?」


 ざわざわと騒ぎ出す生徒達。


「いや、参った。君が止めていなければ私の顔面に木の杭がめり込んでいただろう。見事な一本だったよ。」


 ドーマンが宗太郎に歩み寄る。


「初手で私の動きを止めに来たのは君が始めてだ。先程教えた、敵から目を離してはいけないという基本を自分の身で体験する事になるとはね。ありがとう。こちらも良い勉強になったよ。」


 そう言って握手を求める。


「いえ、こちらこそありがとうございました。」


 宗太郎も感謝して、握手を返す。観ていた生徒達からもパラパラと拍手が起こる。


「しかし先程の殺気は素人とは思えなかったよ。親の仇と思えと言ったが、何か余程大切な存在を思い浮かべたのかね?」


「あー、いや、ははは...」


 笑って誤魔化す宗太郎。


「おっと、そろそろ終了の時間だな。では全員集合してくれ!」


 そしてドーマンが終わりの挨拶をして、今日の講習会はお開きとなった。




「ケリナさん、講習会の事を教えて頂いてありがとうございました。」


 ギルド内のいつものカウンターでケリナに礼をいう宗太郎。


「いえ、お力になれたなら良かったです。どうでしたか?講習会は?」


「えぇ。座学はともかく、実技ではとても得る事が多かったと感じてます。」


「? 座学はそこまで期待に添える物ではありませんでしたか?」


「あー、実は...」


 宗太郎はそこで座学が惨憺たるものであった事を話した。


「あぁー、申し訳ありません。その人はきっと元Aランクの先生ですね。」


「元Aランク?」


「元々AやBなどの高ランクの冒険者の方々が、加齢等の理由で冒険者を続けられなくなった場合の再就職先としてギルドの講師を行っているんです。もちろん真面目に取り組んで下さっている方も居るんですが、その、一部の方は老後の小遣い稼ぎと思っているのか、あまり力を入れてなくて...」


「おぉ...そんな事情があったんですね。同じAランクでも現役のドーマン先生とは大違いだ。」


「はい。ドーマン先生はとても評判が良い先生ですよ。

 ともかく、今後はこの様な事が無いようにしていきますので...」


「はい、お願いします。ともかく今日はありがとうございました。」


 そう言って宗太郎はケリナと別れ、ギルド2階の宿泊している部屋に戻る。


(しかしドーマン先生の授業は楽しかったな。座学ももっと真面目な先生が担当してくれるんなら、また受けたいかもな、この講習会。)


 ベッドに寝転び、スマホを開きながらそう思う宗太郎であった。


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