決着
シーフが後ろから切られる様子を、宗太郎はスローモーションの様に感じていた。
宗太郎の視界の中で、シーフがゆっくりと地面に倒れ込む。
「あ...あ...」
宗太郎の口から、意味の無い声が漏れる。
「くそ、こいつ逃げやがって!思わず切っちまったじゃねえか!」
ボスが何でもない事の様に剣に付いた血を振って飛ばす。
「何を...」
「あ?」
「何をしてんだ、テメェぇぇぇぇえ!!!」
宗太郎が絶叫し、右足で思いっきり地面を踏み締めた。
すると宗太郎の右足を起点とし、倉庫内の床が全て小銭に変わっていく。
「な、何だ!?」
「床が!」
「うわぁあああ!!」
小銭の海に足を取られ、沈んでいくボスにゴロツキ3人、フードの男達。
「ッッッだぁっ!!」
宗太郎がさらに左手を足元の小銭の海に突っ込む。
すると小銭の海のあちこちから変換された剣が突き出て、体勢を崩した男達を襲う。
「ぐわっ!」
「ぎゃあ!!」
下から突き上げてくる刃達に切り裂かれる男達。血飛沫で小銭が赤く染まり、悲鳴が上がる。
「ふーっ...ふーっ...」
やがて剣が収まり、荒い息の宗太郎が1人倉庫内に立つ。
「ううぅ...」
「いてぇ、いてぇよぉ...」
呻き声が上がっている為、誰も死んではいないようだ。しかしもはや戦える状態の者はいない。
「...」
ザッ、ザッ、と自分の足が踏んだ所だけ石畳に変換し直しながら歩みを進める宗太郎。
やがて倒れているシーフの所に辿り着く。うつ伏せに倒れていたため、あまり小銭の海に沈んではいない。シーフの周囲の小銭も床に戻し、足元を安定させる。
「シーフ、おいしっかりしろ!」
シーフを抱きかかえ、声を掛ける。
「あ...ソー...タロー...」
シーフが力無い声で答える。背中の傷は深く、血が止まらない。
「ああ、ああぁ、血が、血がこんなに、どうしよう、病院、病院に、ってこの世界に病院ってあるのか?いや違う、えっと、えっと...」
しどろもどろになりながら、どうにか助けられないかと考えを巡らせる宗太郎。しかし思考は全く纏まる事はなく、ただ時間だけが過ぎていく。
と、そこでシーフが宗太郎の手を握る。
宗太郎が顔を近づけ、耳を澄ませる。
「はぁっ...はぁっ...ソータロー...助けに、来てくれて...ありがと...」
シーフがか細い声で話し始める。
「助けられてねぇ、まだ助けられてねぇよ!待ってろシーフ、今怪我を治せる所に連れてってやるから!」
「...もう...間に合わない...よ...それ、より...最期に、お願い...聞いて...くれ、ない...?」
「やめろよ、最期なんて縁起でもねぇこと...」
「ツルナ...ばあちゃん、に...今まで、ありがとう...さよ、なら、って...」
「...あぁ、わかった。伝えておくよ。」
「よ、かっ、た...これで、安心して、逝け......」
「おい待てよ、死ぬな、死ぬなよシーフ!死ぬな!!」
宗太郎はシーフの体を揺すって繋ぎ止めようとする。だがシーフの体からは力が抜けていき、ゆっくりと目を閉じて...
(逝かせるかよ!!!)
宗太郎は無我夢中で自分の胸に手を置き、等価変換を発動する。
何を何に変えようかなど考えて無かった。ただこのまま何もせずシーフが死ぬのを見ている事だけは嫌だった。
命でも寿命でも、使えるものは何でも使っていい。だからどうかシーフを助けてくれと、己のスキルに呼びかける宗太郎。
宗太郎に乞われたスキルは、遂にその声に応えた。
付属スキルが解放されました
付属スキル
査定眼
貯金箱
new 経験値変換
加地宗太郎の『経験値』をソフィの『命』に変換
加地宗太郎のレベルが下がりました
レベル:3→2
「!」
宗太郎の体から光の粒子が発生し、それがシーフの背中の傷に吸い込まれていく。傷が光り、みるみるうちに小さくなっていく。
青ざめていたシーフの顔も血色が良くなり、荒い息も落ち着いていく。
そして閉じていた目がゆっくり開き、宗太郎の目と合った。
「あれ、ソータロー...?」
寝起きの様な微睡んだ声で、宗太郎の名を呼ぶシーフ。
その声を聞いて、宗太郎の心中には安堵の感情が押し寄せる。
「生きてる...よかった!よかったぁ!!」
「ひゃっ!?」
押し寄せる感情のまま、宗太郎はシーフを強く抱き締めた。
腕の中に掻き抱き、体温を交換する。
「ひぇ、あ、あの、ソ、ソ、ソータロー。あわ、あわわ。」
ムニュッ。
「ん?」
少し経った所で、宗太郎は違和感に気が付いた。
抱き締めているシーフの体が、男にしてはやけに柔らかく感じるのだ。特に、触れ合っている胸の部分。
その柔らかさの正体に考えを巡らせた宗太郎は...。
「はッ!?」
バッ!!と体を離す。そのままシーフの胸元に視線を向ける。
シーフの着ているシャツはボスに胸倉を捕まれた時、ボタンが大部分千切られてしまっていた。シャツの下にはサラシをしているが、それも背中を斬られた際に断ち切られ、今ははだけている。
そのほぼ引っ掛かっているだけのサラシの下には、2つの丸いふくらみが...。
「ッ!!」
と、そこまで見た所でシーフが慌てて胸元を隠す。
「す、すまん!」
その反応で、宗太郎は自分がガン見していた事に気付いて顔を背ける。と同時に、考えていた疑念が確信に変わる。
「えっ、あれっ?だって、いや、でも、ええぇ??」
さっきとは違う理由でしどろもどろになる宗太郎。確信に至った推測に自信が持てない。
「シーフ、お前、女?」
「...」
宗太郎の問いに、シーフは小さくコクリと頷いた。