戦闘
シーフが捕らえられている柱に歩いて近づいていた宗太郎だったが、フードの男達に行く手を遮られて、その足を止めた。
「...退いてくんないっスか?」
聞くわけは無いだろうが、一応そう聞いてみる宗太郎。
当然フードの男達は退いてくれるわけは無く、鞭、剣、槍等を構えて間合いを取っている。
宗太郎は慎重に男達を観察する。
「!」
と、そこで先頭に居た鞭を持った男が目にも止まらぬ速さで手元を動かす。鞭の先端が空を切り、宗太郎に迫る。
「ふんっ!」
しかし鞭は宗太郎の体に当たる直前、小銭に変換される。空中に伸びた鞭の形に、小銭の川が出来上がる。
「!?」
フードの男達から驚愕の気配が伝わってくる。
恐らくは鞭で動きを止め、そこを他の男達が攻撃するつもりだったのだろう。動きは止められなかったが、それでも関係無いとばかりに男の1人が剣を振り下ろした。しかしその剣も宗太郎に触れた瞬間、小銭に変換されジャラジャラと地面に落ちる。
(うん、大丈夫だ。俺に対して武器の攻撃は通用しない。落ち着け落ち着け。)
バクバクと鳴る心臓を押さえながら思う宗太郎。効かないと分かっていても、人が本気で武器を持って襲ってくるのはなかなか慣れない。
するとフードの男達は持っていた武器を捨て、拳を振りかぶって迫ってきた。
「まぁ、武器が効かないならそうなるよな、っと!」
「ぶごっ!?」
ドゴォッ!と、押し出すように出現した丸太に吹き飛ばされるフードの男。
近づいてくるフードの男の勢いを利用して、カウンターの様な形で宗太郎が丸太を出現させたのだ。
「そらっ!」
「がはぁっ!!」
返す刀で宗太郎が反対側に居たもう一人のフードの男に向けて、大金貨を回転させながら投げつける。クルクル回る大金貨は大木に変換され、大きく回転する大木がフードの男を打ち飛ばす。
(いける、戦える!)
宗太郎はそう感じる。考え無しに突っ込んで来てしまったが、この調子で行けば全員を倒してシーフを助ける事も夢ではない。
「止まれぇえ!!」
そんな宗太郎の考えは、脆くも打ち砕かれる事になる。
突然の大声に振り返ると、いつの間にかスキンヘッドのボスがシーフの鎖を柱から外し、片手に持ってシーフを無理やり立たせている。そしてシーフの首元には鋭い刃。ボスは剣をシーフの首元に突き付け、いつでもその首を切り裂ける様にしていた。
「くっ...!」
シーフが苦しそうに呻く。
「動くなよクソガキぃ...動けばこいつの首が落ちて血の噴水が上がるぞぉ...!」
ボスが剣を握り直す。シーフの首の皮が少し切れ、血が流れる。
「...」
それを見た宗太郎は固まった様に動けなくなり、その場に立ち尽くす。
その様子を見てボスはニチャアと笑う。
「おいテメェら、あいつをボコしてこい。」
「へい!」
ボスの周りに居たゴロツキ3人組が、指の関節をパキパキ鳴らしながら近づく。
「おらァ!」
「くたばれぇ!」
「ふんっ!」
「ぐぁっ!」
そして3人がかりで宗太郎を袋叩きにし始める。
顔を殴られ、腹を蹴られ、思わず体がくの字に曲がる宗太郎。
「ソータローっ...!」
心配そうな声をあげるシーフ。
「おぉ、面白くなってきたなぁ!」
反対に楽しそうな声で騒ぐボス。
「がっ!!」
殴り飛ばされ、宗太郎がズザザッと床を転がる。
(痛ぇ、痛ぇ痛ぇ痛ぇ!殴られるのってこんなに痛かったのか!?)
異世界に来て初めて、いや前の世界を通しても初めての本格的な暴力の痛みに呻く。
全身あちこちにアザが出来、脳が揺らされたのか頭がグワングワンとなる。
「ははは!いいぞやれやれぇ!」
ボスが剣を頭の上に掲げて煽る。
「!...っ!」
「あっ!てめぇ!」
ボスの剣が自分の首から離れた、その隙を見逃さずにシーフは鎖から無理やり手を引き抜き、囚われの状態から脱する。
「ソータローッ!!」
シーフが叫びながら走る。
「シーフ...ッ!」
膝を立てて起き上がりかけていた宗太郎は、それを目撃することになった。
シーフの後ろで、剣を振りかぶるボスの姿を。
「やめ...!」
ザシュッッ!!!
宗太郎の制止の声も届かず、凶刃はシーフの背中を深く切り裂くのだった。