捜索
ツルナと別れてギルド前から離れ、裏路地の方まで走ってきた宗太郎。
(さて、まずはシーフがどこに連れて行かれたのか調べないとな。)
そう思う宗太郎だが、実の所探し出すアテはある。付属スキル、査定眼である。
査定眼を使えば、たとえ視界の中に無くとも何処にあるかを示してくれる。だから宗太郎はあまり焦ってはいなかった。
(査定眼、発動!対象シーフ!)
頭の中で査定眼を使う。
「...」
(...)
...。
「査定眼発動。対象シーフ!」
口に出して言ってみる。
「...」
(...)
...。
何も起きない。
(えっ何で?)
頭に疑問が浮かぶ宗太郎だが、その答えはすぐに思い当たった。
(そうだ、シーフってあいつの本名じゃないじゃん!)
そう、自分はシーフという通称しか知らない。
本名を教えて貰える程信頼されてなかったのかと少しショックを受けるが、今はそんなことを考えている場合ではない。
査定眼は名前を正しく知らないと発動しないという事が、最悪のタイミングで判明してしまった。
(えーっと、どうしようどうしよう!じゃあ代わりの対象物を決めないと。えっと、シーフの服?シーフの靴?駄目だあいつを探そうと思うとどうしてもシーフの名前が入らないといけなくなる!うわぁぁどうすんだよ!)
一転して窮地に陥ってしまった宗太郎。一旦ギルドに戻ってツルナにシーフの本名を聞くという方法は、最後まで彼の頭からはすっぽ抜けたままであった。
◇
シーフが目を覚ますと、そこは何処かの廃倉庫だった。窓はひび割れていて、そこから漏れる陽射しだけが倉庫内を薄暗く照らしている。
シーフの両手は頭の上で鎖に繋がれ、その鎖は柱に固定されている。ジャラジャラと引っ張ってみたが、シーフの力では鎖はびくともしない。
どうにか脱出出来ないかと試行錯誤するシーフに、声が掛けられる。
「起きたみたいだなぁ。シーフさんよぉ。」
粘着質な、鼻につく声だった。
シーフが顔を上げると、大柄な男が自分を見下ろしていた。
スキンヘッドに動物の毛皮、刺青だらけの体。まるで山賊のような格好をしている。
「ボス、こいつですぜ!」
「こいつともう一人に俺らはやられたんだ!」
「やっぱイケメンだなこいつ...」
よく見るとボスと呼ばれた男の後ろには、宗太郎と鬼ごっこした時に会ったゴロツキ達もいる。
シーフを連れ去ったフードの男達は倉庫の入り口の方で控えている。
「高い金払って傭兵を雇ってよかったぜぇ。会いたかったぞぉ、シーフゥ。てめぇが俺の大切な宝石を盗ったその時からなぁ。」
「えっ、ボスが盗られた宝石って、道でイチャついてたカップルを脅して巻き上げたあれっすか?」
「バカッ、余計な事言わなくて良いんだよっ!」
ゴロツキの1人が、失言した奴の頭をはたく。
「とにかく、落とし前つけさせて貰うぜぇ。全員でボコにした後、奴隷商に売り飛ばしてやるぁ!」
ボスがシーフの胸倉を掴み、強引に立たせる。その拍子にシーフのシャツのボタンがブチブチとちぎれる。
「!...へへっ、こりゃ丁度いい。奴隷としての価格が跳ね上がるってもんだぁ。」
ボスが下品な笑い声を上げた。
と、そこで廃倉庫の入り口がドガァン!!と轟音を立てて吹き飛び、近くに居たフードの男達数人を巻き込んだ。
「!?」
「なんだ!?」
「入り口が!」
突然の事にうろたえるボスとゴロツキ達。対して残ったフードの男達は冷静に臨戦態勢を取る。
吹き飛んで扉の無くなった入り口から、バタバタと格好付かずに人影が走り込んでくる。
「ぜぇ、はぁ、ここか!?ん!?お!おぉ!シーフ居た!いよぉしビンゴぉ!おぉーいシーフー!無事かー!?」
廃倉庫に辿り着いた宗太郎が、手を振りながら駆けてくるのだった。
◇
「くそ、ハァ...ハァ...どこだ?」
時間は少し遡って十数分前。
シーフに対して査定眼が発動出来なかった宗太郎は、シーフの所持金に狙いを定めていた。
シーフは十数日前に百五十万Gもの大金を手に入れている。それ以降の依頼で受け取った報酬は日々の生活で消えるレベルの金額だった上、本人から豪遊したという様な話は聞いていない。つまりシーフの懐には百五十万に近い金額があるはずだ。そこで街の金の分布を査定眼で調べ、大金がある、かつ人が連れ込まれても気付かれない様な人気の無い所を調べればそこがシーフの居場所、のはずだ。
近くにあった高い建物に登り、屋上から周囲を査定眼を使って見渡す。そこらじゅうに存在するお金の反応に一瞬クラっとするも、直ぐに気を取り直して辺りを見直す。すると、街の外周部に近い所にある使われてなさそうな倉庫から不自然に多くの金額反応が。
「あそこか!?」
急いで建物から降り、倉庫に向けて走り出す宗太郎。思えば走り続けた事で脳内麻薬が出ていた上に、漸く発見出来た事でテンションが上がっていたのだろう。こっそり潜入してシーフを救出するといった方法は頭から吹き飛んで、正面突破という脳筋プランしか頭に無かった。
「うおぉぉ...ッらぁっ!!」
倉庫に辿り着いた宗太郎は、走る勢いそのままに大金貨を投げつけ、それを大型木材に変換して倉庫の扉にぶち込み、派手に戦いの火蓋を切るのだった。