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プロローグ

初投稿です。

稚拙等は目をつぶって頂ければ幸いです。

「ぐぁあっ!またスーパーレア無しかよぉ!」


 六畳一間の寂れた部屋に、男の悲痛な声が響き渡る。

 彼の名は『加地 宗太郎』。職業フリーター。趣味はスマートフォン向けオンラインゲーム「Saves Global Go」。通称SGGo。内容は世界の伝承に出てくる精霊達と契約し、世界の危機を救うという王道のファンタジー物だ。

 彼はそのゲーム内のプレイヤーランキングで常に上位に入り、新しい精霊(新規キャラクター)が追加されれば食費を切り詰めてでも課金して、抽選、いわゆるガチャを回して手にいれると豪語する筋金入りのゲーマーである。

 今日も今日とて彼は大金をガチャに溶かし、怨嗟の声を上げるのだった。


「くっそぉ、これ排出確率狂ってんじゃねぇの...?」


 そんなわけは無いのに、つい恨み節が口を衝いて出る。今彼が挑戦しているのは新キャラピックアップガチャ。排出率0.8%という狭き門。数多くの所持済みキャラクターを引き当てながら、未だお目当てのキャラクターは手にいれられずにいた。


「しょうがない、またコンビニでプリペイドカード買ってくるか...苦手なんだよなぁ、あそこの店員。陰で俺の事プリペイドカードマンって呼んでるみたいだし。」


 宗太郎はそう呟く。毎月給料日の度にほぼ全額をプリペイドカードに替えていれば、その呼び方も妥当というものである。

 よっこいしょ、と宗太郎が腰を上げた時だった。


「お...?」


 グラッ。


 急な目眩。足元がふらつき、思わずまた座り込む。


「目眩?変だな...?今月はパンの耳だけ食ってた訳じゃないから栄養は足りてる、はず、なの、に...?」


 そんな軽口を叩いている内に、ただ座る事さえ辛くなり床に倒れこむ宗太郎。


(な、んだ...これ...)


 心臓が早鐘を打つ。胸が鉛を流し込まれたかのように重い。全身が小刻みに震え、呼吸さえ出来なくなってきた。


(死...ぬのか、俺...?)


 宗太郎の脳内に昔の記憶が走馬灯の様に走る。

 もう何年も会ってない両親。自分を蛇蝎の如く嫌っていた妹。そしてさっきやっていたSGGoのプレイ画面。


(いや、俺の記憶、薄すぎ...)


 死ぬ間際でさえそれだけしか思い出せない自分の思い出レパートリーの貧弱さを嘆きつつ、宗太郎の視界は闇に包まれた。



 ◇


 目を覚ますと、宗太郎は白い空間にいた。

 一面真っ白な世界。キョロキョロと周囲を見渡しても何も無く、どこまで続いているのかも判らない。


「おーい、誰か!誰かいませんかー!」


 そう叫んでみたが、返答はない。

 いよいよもってこれは死後の世界なのかと思い始めた時、変化は起こった。

 宗太郎の目の前の空間が突如グニャリと渦を巻き、穴が出現したのだ。

 思わず後退る宗太郎。逃げるべきかと考えている内に、その穴からゆっくりと、1人の老人が姿を現した。

 長い白髪に豊かな口髭。長い杖を持って、白い貫頭衣に身を包んだ、いかにも神話に出てくる神様といった風貌の老人だ。


「ふむ、問題なくこっちにこれたようじゃのう。初めましてじゃ、加地宗太郎。」


 老人がそう話しかける。


「あんたは...?」


「儂か?儂はそなた達が言うところの、神様というやつの1つをやっとる。そうじゃな、とりあえずロデウスとでも呼んでくれ。」


「ロデウス、さん...?」


「うむ。」


 ロデウスと名乗った老人が頷く。まだ宗太郎の頭は混乱から抜け出していないが、とりあえず話を聞いてみなければ何も始まらないと思い、目の前のロデウスの正面に立つ。


「話を聞く気になってくれたみたいじゃな。」


「ええ、まぁ、一応。」


 キレが悪いながらも返答する宗太郎。


「単刀直入に言おう。宗太郎よ、魔王を倒す為に異世界に行ってはくれんか?」


「魔王?異世界?」


 そう言われて宗太郎には1つピンと来るものがあった。


「それってあれですか?最近小説とかで良くある異世界召喚って奴じゃ...?」


「まぁ、端的に言えばそうなるのぅ。」


 そう言ってロデウスは己の口髭を撫でる。

 宗太郎は基本的にスマホゲームばかりやっているが、スタミナ回復を待つ時間などにネットで無料の漫画や小説を読んでいる事もあったのだ。


「はぁー、まさか異世界召喚なんて物が本当にあったなんて...」


「というよりはこの世界の異世界召喚物を参考にして儂がお主を呼んだのじゃけれどな。」


 ロデウスが頷きながら話す。


「この世界のサブカルチャー文化は特に進んでおるからのぅ。儂もよく漫画やアニメを観ておるよ。」


「神様もサブカルにハマるんだ...」


 宗太郎が意外そうな言葉を漏らした所で、話がずれていることに気付いたロデウスが咳払いをして話を戻す。


「オホン、まず前提として世界は幾つも存在する。そなたが生きていた世界もその中の1つに過ぎないのじゃ。」


「パラレルワールドって奴ですね。漫画で読みました。」


「流石オタク、理解が早いのう。

 儂はその内の幾つかの世界を担当しているのじゃ。」


 ロデウスが言うには、世界は数多く存在し、それらを管理する神もまた数多くいるらしい。

 神同士は本来あまり関わる事は無いのだが、今回どういうことか別の神がロデウスの担当する世界の1つに干渉し、魔王と呼ばれる存在を造り出したのだ。


「魔王はその世界に居なかった新しいモンスターを生み出し、世界を滅ぼそうと動いておる。だから宗太郎、魔王を倒して世界を救ってくれんか?」


「でも、俺何の特別な力もないただの一般人ですよ?それに、そんな魔王なんて居るんだったらロデウスさん自身が降臨でも何でもして解決してしまえば良いんじゃ?」


「それがのぅ...神は担当している世界であろうと降臨出来ないんじゃ。存在の次元が違うからの。精々が干渉や、今回のように呼び出したりがいいとこじゃ。」


 ロデウスは困ったように話す。


「もちろん何の準備も無く君を異世界に送ったりはせんぞ?その世界では神話で語られるレベルの武具か、強力なチートスキルを君に授けようと思っておるよ。それがあればゲーム感覚で異世界を攻略出来るじゃろう。」


「うーん...」


 正直、この時点で宗太郎の気持ちは大部分異世界召喚に好意的な方向へ傾いていた。

 物語の中でしか見たことの無かった異世界召喚。それが今目の前で起きている事に内心高揚していたのだろう。

 だからだろうか、今の今まで忘れていた。彼にとって命と同じくらい大切な物が無いという事実に。

 それに気付いたのは、宗太郎が何気なく腰に手を置いた時であった。


「ん...?」


 腰、正確にはズボンのポケットを触る。ポケットに手を入れてまさぐる。そこに目当ての物が無いのを知ると今度は全身をまさぐって探す。

 無い、無い、無い。


「ん?どうしたんじゃ?」


 急に忙しなく動き始めた宗太郎をロデウスは訝しむ。


「無い...」


「無い?」


「スマホが、無い...」


 宗太郎がそう言うと、ロデウスは納得がいったように頷いた。


「あぁ、君の持ち物か。ここに呼んだのは君と着ていた服だけじゃからここには無いぞ。」


「...」


 少しの沈黙の後、宗太郎は小声で呟き出した。


「そうか、そうだよな。異世界に行くって事はケータイが繋がらないって事でそれはつまりSGGoどころか何のゲームも出来ないって事だよな。は、ははっ...」


「だ、大丈夫か宗太郎?」


 心配そうに覗き込むロデウス。

 そして次に宗太郎の口を衝いて出たのは、


「うわぁああああぁあアァああああああぁあああアァ!!!!」


 絶叫であった。


「ぬぉっ!?」


 いきなりの大声に思わずロデウスは飛び退く。


「無理だ無理だゲームも課金も無しで生きていくなんて俺には無理だあははぁ駄目だダメだ嫌だイヤだうわぁあああぁあぁあぁあぁあぁ!!」


 頭を抱えてその場をゴロゴロと転がりながら悲鳴をあげる宗太郎。


「そ、宗太郎...?」


 突如豹変した宗太郎の様子に、ロデウスは完全にドン引きしていた。


「ロデウスさん!!」


「お、おうっ!?」


「俺を元の世界に帰してくれ!俺には魔王討伐なんて荷が重すぎる!ソシャゲも課金も出来ない世界で生きて行ける自信なんて無い!頼む!」


「あー...」


 全力で頼み込む宗太郎に、ロデウスは歯切れの悪い返事を返す。


「そのー、今すぐ帰すのは無理なんじゃ。お主、こっちに来る直前倒れこんでたじゃろ?人間が世界を移動するのは魂に大きな負荷が掛かることが今回の召喚で判明したんじゃ。何せ召喚なんぞ初めての試みだったからのう...」


「負荷?」


「そうじゃ。まあ放っておけば数ヶ月で自然回復する程度の負荷じゃがな。ただ、今無理やり元の世界に帰そうとすると、身体が負荷に耐えきれない可能性があるんじゃ。」


「そんな...」


 絶望した表情でその場に崩れ落ちる宗太郎。


「は、ははは、はっ...」


 ショックからか、口からは乾いた笑いが沸き起こる。

 そんな様子を見ていたロデウスは、流石に宗太郎が不憫に思えてきた。急に異世界に連れてこられ、魔王を倒せと言われ、好きなものから引き離されたので実際不憫なのだが。


(これは流石に、何とかしてやった方が良いな...)


 そう思ったロデウスは右手で空中をまさぐる仕草をする。元の世界から物を取り寄せようとしているのだ。幸い物体は魂が無いので簡単に持ってこれる。

 そしてロデウスの右手に宗太郎のスマホが出現した瞬間、


「スマホーッ!!」


 宗太郎が妙な奇声を上げながらその場から飛び上がり、スマホを奪いとった。


「おおぉ...俺のスマホぉ...」


 スマホを抱き締めて安堵の声を上げる。それを見ながらロデウスは宗太郎に話しかけた。


「わかったわかった。儂の勝手でそなたを呼んだのじゃからな。そのスマホは充電不要で異世界でも繋げられる様に調整しておいてやるぞ。」


「マジか...貴方が神か...」


「その通りじゃけど。だが繋がるのはゲームだけにさせて貰うぞ。異世界の映像をネットに上げられたりするのは勘弁じゃからな。」


「十分っすよ!ありがとうございます!」


「あとは約束の武器かスキルじゃが...君にはこのスキルが必要じゃろう。」


 そう言ってロデウスは手を翳す。その手から光の玉が出現し、宗太郎の体に入り込んだ。


「そのスキルは『等価変換』といってな。指定した物を価値が等しい別の物に変えるそのスキルがあれば、異世界の金を電子マネーに変換して課金を行う事が出来るじゃろう。」


「おー、まいごっど...」


「神に対してその文句言う?ちょっと余裕戻ってきたなお主。」


 軽口を叩き合う2人。


「いや感謝してますよ!これなら俺異世界だろうとどこだろうと生きていける自信ありますよ!」


「そうか?だったらそろそろお主を異世界に送ろうと思うんじゃが...」


「ゲームも課金も出来るんならバッチコイです!」


「肝座っとるのう...」


 さっきまでの取り乱し様はどこへやら、殊勝な事を言う宗太郎。

 ロデウスはもう一度手を翳す。すると宗太郎の体が段々透けていき、異世界への移動が始まった。


「とりあえず異世界の街の近くに転移させるからの。まずは街に行ってギルドを訪ねるのが良いじゃろう。」


「それは...何から何まですみません。」


「良いんじゃよ。それと最後に、魔王を倒すのはそんなに気負わなくても良いからな。気長にやってくれ。」


「了解です。じゃあ、行ってきます。」


 そう言葉を交わした後、宗太郎の姿は完全に消えた。

 1人残されたロデウスは呟く。


「うーむ...あの調子とあのスキルじゃ魔王を倒すのは難しいかも知れんのぉ...だったらもう1人くらい別の者を送り込んだ方が良いかもしれんなぁ。さて、誰を送るべきか...」


 そう1人ごちたのだった。

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