三十六、彼との距離
もう一か月ともなれば、未熟児だった赤ん坊もアレンの作った温室の外でも生活が出来る様になり、それどころか普通の赤ん坊のように大声で泣くという新米パパとママにとってのモンスターともなっている。
イーオスが心配していたムダ毛もキレイに無くなって、エーデンのお乳をたくさん飲んでぷくぷくの丸まるにもなっているのだ。
赤ん坊と離れるのは心残りだが、赤ん坊の世話と害虫処理に疲れ切っている事もあり、私はバルドゥクとすぐにでも二人の時間が欲しいというのが本音だ。
最高であり最悪を迎えた初夜。
あの猫はアレンの仕込みかと思う程の性悪で、あの後も色々と余計なものを引っ掻き回し、私とバルドゥクのささやかなひと時を邪魔ばかりしている。
さらに、私が彼を傷つけた、らしい。
アレンの言葉によると。
「君は意外と虫っぽいね。交尾が終わったらさようならって、あっさりしすぎ。」
もちろん下品な伯爵をパン用の棒で殴ろうとしたが、アレンの言葉でバルドゥクも同じように私の行動を捉えてしまっていたのかもと気が付いて殴るのは止めた。
確かに私はバルドゥクを敢えて避けていた。
だって、彼に触れられてしまうと、今すぐに彼に抱きついたり、抱きついたり、ええ、抱きついたりしたくなるのだもの!
私は彼が大好き過ぎるからこそ、そしてやらねばならない事も多いからこそ、そう、人目だってありますもの!だから、彼を避けてしまったのだ。
そして、思い返してみればバルドゥクこそ私から離れて行ってしまっており、このひと月、同じベッドで寝てはいても野営をする兵士のごとく彼は私から離れて室内の異常に備える見張り番となっている。
これはいけない。
今すぐに彼にここを発つようにお願いしよう。
親友の幸せを目にしているからこそ、私だって幸せに浸りたいと心の底から切望しているのだ。
まだ、彼が私に希望を持っていてくれたら、の話だけれども。




