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三十五、妻と帰るべき場所は

 そろそろ一か月となれば、イーオスの双子の危機的状況も解消されるというもので、新婚でもある俺達はそろそろ帰るべき家に戻るべきだ。


 しかし、新婚でもあるからか俺は妻に対して腰が引けてしまう。


 つまり、彼女のがっかりした顔を見たくはないと脅えているというのが真実で、妻にそろそろ家に帰ろうか、とは言えないのである。


 妻は親友の赤ん坊に夢中どころではなく、ぷくぷくとした双子がぷくぷくしているだけで幸せという具合に、赤ん坊の傍から離れないのだ。


 俺と妻は一夜を共にした。

 そう、完全なる夫婦になったのは良いが、あの幸せな一夜があの一夜だけというのは一体何ごとであろうか。

 俺はあの夜に本気で幸せのまま死ねばよかった。


 翌朝、幸せで微睡んでいる俺達は互いの顔を見合わせてフフッと笑いあい、そして、ああ何て幸せだと同時に仰向けになって天井に顔を向けた。



 はは、思い出したくもない。

 茶色い縞模様のある大型ゴキブリが天井に一杯だ。


 慌てて飛び起きてみれば、床は茶色の絨毯ででもぞもぞしと蠢いてもおり、絨毯の上では猫が幸せそうににゃあと鳴いていた。

 見て、この玩具、きれいなガラス瓶だよ!見てみて!

 俺が緑ケ原伯爵に手渡した鞄の中に入っていた瓶だ。

 俺は兵士としての習性か、絶対に手渡された鞄の中身は確認してしまうのだ。

 中は見ないでくださいね、なんて注意されたら絶対だ。


 だから、断言できる。

 あのガラス瓶はアレンの持ち物で、この惨状はあの瓶によるものだ。


「まあ!虫を呼び寄せる薬を零しちゃったのね!」


 妻が俺の考えを否定どころか肯定してくれたのだ、間違いないだろう。

 俺達はあの朝の教訓から、交代で休みを取ることに決めたのだ。

 起きたらゴキブリに囲まれている、などという地獄は二度と味わいたくはない。

 ただし、俺は妻を抱くという褒美があの朝からお預けだ。


 妻こそ俺に愛想をつかしているみたいで、日中は俺に近づいても来なくなったのだから、尚更に夜だけ求めるなど出来ないだろう。


 さあ、どうせ嫌われたのならば完全に嫌われよう。

 親友一家を見捨てて領地に帰ろうと妻に言うべきだ。

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