十四、王宮でのとある日
王都に戻ってひと月、夫と妻は離れ離れとされたままである。
五日後の晩餐会のその日の朝に、私は結婚式のような事を民の前でするのだそうだ。
父を前にして、あの執務室で行った儀式の豪華版を再びしろという事だ。
当日の朝に花嫁が父からバルドゥクに引き渡されるという設定上、私は再び王宮に閉じ込められ、バルドゥクは王宮ではなく議事堂の方の迎賓館に押し込められた。
キリアムの話では、迎賓館滞在費はバルドゥクが払わせられているそうだ。
なんてひどい!
どれだけ彼から無駄なお金をむしり取れば気が済むのか。
私は王宮の正式用紙を差し出しながらキリアムに囁いた。
「大体いくらぐらい彼は奪われそう?大体よ、多く見積もって。」
キリアムはニヤリと笑うと、大体の数字を紙に書きつけた。
「晩餐会の費用も足してあります。」
「人のお金でパーティって、情けない話ね。」
キリアムの数字はとても絶妙だった。
正当な数字にほんの色を付けた程度で、こんな数字を数秒ではじき出せる彼に私はかなりの尊敬の念を抱いた。
私は彼から紙を受け取ると、そこに実際の母の遺品リストを書き足し、キリアムの書いた数字には母の持参金と勝手に書き加えた。
良いでは無いか。
普通だったら嫁ぐ娘には持参金を付けるものだ。
母の時だって王宮は祖父から相当な金を巻き上げたでは無いかと、私は憤りながら署名と押印をして正式書類に作り上げたのである。
「ねぇ、母の遺品が宝物庫に眠っているの。私は母の形見を全部嫁ぎ先に持っていきたいのよ。持参金もこのぐらいあるだろうし、お願いね。」
私の差し出した用紙をキリアムは獲物を見つけた猫のような顔で受け取り、あからさまに恭しいしぐさで胸元に片付けた。
「おまかせあれ。」
用事を済ませた彼はすいっと部屋を出て行こうとし、私は大事なことを思い出して慌てて声を上げた。
「あ、まってキリアム。」
「何でしょう。」
「あの、あの、お茶はいかが?バルドゥク様の様子ももう少し聞きたいし。」
彼は晴れ晴れとした顔で、いいですよと答えた。