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十三、思い出の伯爵

 一行は伯爵領どころか王宮へと行き先を変える事となった。

 理由は、私達に晩餐会を開くから戻れ、と言う父の命令があったからだ。

 あれでも王様なのだから、彼の命令には私達は背くことは出来ない。

 イーオスが身重の妻を自宅に連れ帰れると一人だけほくほく顔だったが、エーデンが王都の実家に久しぶりに帰るのもいいわね、と言うとあからさまに消沈していた。


 彼は未だに嫁の実家では針のムシロ状態なのだろう。


 そんな哀れなイーオスだったが、バルドゥクを殺そうと企んでいる男の素性を突き止めた。これは彼が物凄く有能だからでなく、偶然の産物らしきものだそうだ。

 いや、考えればわかるでしょう?ぐらいの。


 今やバルドゥクは伯爵になったが、出自は下民でしかない、と言う所がポイントだ。


 つまり、貴族に自分も成り上りたいが、バルドゥクのように軍功を上げることもできない人物が、バルドゥクを殺して私を未亡人にして、そして私と結婚することで伯爵になるという目的なのだろうという事だ。


「あら、私と再婚しても伯爵にはなれないでしょう。」

「私は本当の意味で伯爵位を授与されたのでは無いのですよ。登録料という名の伯爵位の代金は支払いましたが。」

「あら。」


 バルドゥクが語るには、黒曜烏伯爵位を与えられたのは姫である私なのだそうだ。

 そして男尊女卑の激しいこの国では女そのものが伯爵になれないので、結婚相手であるバルドゥクが伯爵に成り上がっているというだけなのだという。

 私達に子供が出来てそれが男子であれば、伯爵位はバルドゥクから奪われてその子供に伯爵位が移動する。


 下民に終生伯爵位を与えてなるものかという厭らしい思惑が見えるが、そのせいでバルドゥクが亡くなれば私が女伯爵に戻ってしまい、私と結婚する者は誰でも伯爵になってしまう。

 そんな混乱の種を撒いてどうするのだと父を責めたい。


 いや、こんなことを考えたのは父に成り代わって政治をしているエバンズだ。

 よって、バルドゥク暗殺の真犯人はエバンズしかありえない、という解答になるのだ。


 バルドゥク部隊が優秀でもこの解答に辿り着けなかったのは、バルドゥクは言うに及ばず、部下達も平民出身の者ばかりなのだから仕方が無い。

 いや、気づけそうな男は一人いた。

 副官のマクレーンは、男爵家の四男という貴族階級の少尉様だった。

 やはりそのことでマクレーンはバルドゥクにどうして気づかなかったと迫られていたが、私は憤るバルドゥクから顔をそむけたマクレーンの横顔、耳たぶの下の黒子を見つけて、彼があの間抜け大尉との晩餐について来ていた男だったと気が付いた。


 優秀な頭脳を持つマクレーンが、エバンズが私というか伯爵位を狙っているという考えには至らなかったのは、あの晩餐で虫の丸焼きを平気に口にした私を忘れられないのであろう。


 あの脅しは、私が美味しそうに虫を食べてこそ、なのだから。

 イナゴはエビのような味で、実はそれなりにおいしいのだけれど。


 話が逸れたが、イーオスがエバンズ黒幕説に辿り着くきっかけが、イーオスがエーデンを追っている最中にとある伯爵に出会ったからだというのである。


 緑ケ原伯爵。


 名前の通りに領地を緑に変えようと滅多に領地を出ないで農業三昧と巷では有名な御仁だが、彼が私の結婚話を聞いて上京してきたというのだ。

 イーオスの自宅からこの宿場町へのルートに緑ケ原伯爵の領地から王都へのルートが重なることは無いはずだが、恐らく緑ケ原伯爵は新しい家畜の買い付けなどで領地でない場所にいたのだろう。

 彼は出不精でもあるが、興味がある事ならばどこにでも出掛けていくという人だ。

 そんな伯爵様は初対面のイーオスに気さくに話しかけ、私達が考えるべきだったエバンスについて語ったのだという。


 姫が心配だと。


 さて、なぜここで緑ケ原伯爵が私を心配されるのかと言いますと、彼とは幼いころに王都で開催された万博にて出会っていたのである。

 エーデンが王宮に来る前、母が病に伏す事が多くなった九歳の頃で、私を思いやった侍女達が私を万博に連れて来てくれたのである。


 アレン・ビリード。


 緑ケ原伯爵との初邂逅は幼い私には悪夢でしかなかったが、私の義足製作で何度か顔を合す度に、ずっと話を聞いていたいと思わせる博識さに魅了され、さらにはこの人が父親だったら嬉しいのにとまで私は思うようになったのである。

 私達は互いに気に入り、それ以来手紙のやり取りなどもしている。

 虫を使った料理を私が知っていたのは、この御仁の薫陶の結果でしかない。


 そうだ。

 エバンズは時々呼んでもいないのに私の部屋に入ってきて嫌だと、私がアレン宛ての手紙に書いた事もあったなぁとも思い出した。


「あぁ。アレンは心配してくれていたのね。元気にしていたかしら、会いたいわ。」

「俺も会いたいよ。」


 夫の低い声はいつもと違って滑らかで甘いものでなく、私の背筋をぞっと凍らせるものだった。

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