2.巫女姫
ラニットラートが地面につく寸前、彼女の体は自分の体の危機を感じ取り、無意識化で魔法を使っていた。すると、彼女の体がまばゆい光に包まれ、涙が地面に触れた部分から植物が急激に成長し、皇国一高い展望台も植物に飲まれ外から見えなくなっていった。だが、無意識化で初めて魔法を使ったせいで、魔力が暴走し、魔力を使いすぎてしまい、気を失ってしまった。だから展望台がみるみるうちに植物で包まれていくところを彼女は見ることはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
自分が気を失っていたとは知らないラニットラートはいつまでたっても背中に衝撃や痛みが襲ってこないことを不思議に思い、目を開けた。すると目に飛び込んできたのは、植物でできた天井だった。美しい月も夜空も見当らなかった。体を起こし周囲を見てみると、蔦の様なものでできた壁と彼女が座っているベッドの様なものだけだった。彼女は神殿の中にいるみたいだと思った。
「ここは...?」
彼女は無意識に思っていたことを口にしていた。ラニットラートはここがどこなのか全く見当がつかなかった。部屋の中には火や蝋燭もないのに物がはっきり見えるぐらい明るかった。
目を凝らしてみると周りに様々な色の光が浮かんでいるのが分かった。部屋(?)の内装も相まって幻想的な風景を作り出していた。
((…き…う…ほう…しよ…))
聞こえるか聞こえないかの声で何かがしゃべっているのがラニットラートには聞こえた。
声の主を探そうと、ラニットラートがきょろきょろと辺りを見回していると、どこからか白銀の毛におおわれた狼が現れた。でも普通の狼と比べて二回りほど大きかった。
『姫、目が覚めたか?』
ラニットラートは頭の奥に直接語りかけられているような不思議な感覚がして、何が起こっているのか理解できなかった。
「ひめ...?私は姫ではないですよ?私はただのラニットラートです。皇太子殿下の元婚約者なだけの、ね。」
はかなげな表情でそう言った。
『お前は姫だ。魔力量も多く、質もいい。それに精霊や聖獣に愛され、巫女姫としての素質がある。だから姫だ。』
「神々に愛されていたなんて嘘……ありえません。」
『なぜそう思うのだ?』
「私は一度も誰かに愛されたことはありません。誰もが私のことを見向きもしませんでした。それであなたはなんなのですか?意思疏通ができる動物なんて始めてみました。」
『……我は"闇と夜の神、蒼月狼"、名前はタンザナイトだ。我はお前を巫女姫だと認めた。
……酷なことを聞くが、なぜ死のうとしたのだ、老いぼれたわけでも、飢えているわけでもない。見た感じ怪我や外傷もない。死ぬ必要はなかったのではないか?』
「神様だったのですね。数々の非礼お詫び申し上げます。」
『それは別によい。我は理由を聞きたいのだ。』
「―――妹をもう見ていたくなかったのです。」
『なぜだ?』
「私は妹とは違い家族にとって都合のいい道具でしかなかったのですから。」
ラニットラートは、儚げに微笑み、タンザナイトは顔をしかめた。ラニットラートは目を閉じ、ゆっくりと
自分の身に起きた出来事を話始めた。タンザナイトは一度も話を遮らず真剣に耳を傾けていた。
「――――ということがありました。」
話している途中、泣きそうになったが堪えて泣かなかった。
ラニットラートが話し終えてほっと一息ついていると、誰かに抱きしめられている感覚がして目を開けると狼の姿はなく、黒髪の男性が彼女を抱きしめ、頭を撫でていた。
「そうだったんだな。辛かったな。泣きたいときは泣いていい。感情は時には抑えなければならないかもしれないが、少しは感情を出した方がいい。無理して自分を抑えつけて、やがて気づかないうち心が壊れ、死んでいく。いつしか笑えなくそして泣けなくなってしまう。誰だって喜怒哀楽色んな感情あるものだ。
感情はコントロールしなければいけないことはある。感情を表に出さないほうがいいこともある。でも全部が全部そういうことばかりでもない。感情をコントロールしなくたっていいときも、感情を素直に発散していいときだってある。そんなときが今までのお前にはなかったのかもしれない。だが、今は泣いていい。沢山泣けばいい。ここにはお前が泣いたからといって責めるものは誰もいない。心が悲鳴を上げていたこともお前は気づいていないだろう?お前は我慢しすぎだ。無理をし過ぎだ。もう少し肩の力を抜いて生きればいい。」
それは、ラニットラートがずっとほしかった言葉だった。欲しくて欲しくて、でも与えられず、しょうがないと諦めていたものだった。ラニットラートの目から涙があふれ出ていた。
黒髪の男性にしがみつきながらラニットラートは涙が出なくなるまで泣いた。
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