1.妹に婚約者を奪われる
今回は一人称視点ですが、次回からは多分三人称視点になります。
コンフェクト皇国。
人間の国で一二を争うほどの大国で、私、ラニットラート・キーフ・ノルディーは、最上位貴族である公爵の娘として生を受けました。普通とは違う真っ白で艶やかな髪と金色に輝く瞳を持って。
私は、生まれた時から、何かに不自由したことがありませんでした。教育を受け、教養を磨き、家名に恥じない人間になろうと絶えず努力してきたきました。完璧な公爵令嬢として、そして皇太子殿下の婚約者にふさわしい教養を身に着けました。学院も首席で卒業させていただきました。
そのおかげもあってか、皇太子殿下であるハウゼン・ノルス・コンフェクト様の婚約者の地位を得ることができました。
ところがです。
その王太子殿下が我が家を表敬訪問されたおり、あろうことか妹であるユノアは殿下に一目惚れをしたと言い出しました。
恋をしてしまった。だから自分があの人の妻になりたい。と両親に言いました。そして、妹は「ハウゼン様と結婚できないなら死にます。」恥ずかしげもなくそう言い放ち、部屋に引きこもりました。正直、馬鹿かと思いました。だって、貴族の結婚に好きも嫌いもあるわけがないのですから。
たしかに、殿下は品行方正で眉目秀麗で、人当たりの良いおおよそ欠点というものが見当たらないお方です。けれど私は彼が好きで婚約者を目指したわけではありませんでしたが、向こうも私を選んだのは打算あってのことだと思います。
私とは違い、妹は幼いときに病弱であったために、両親に甘やかされて、そして両親の愛情を一身に受けて、育ったため、わがままで、妹は大した教養も身についていませんでした。そして知識もなく、気遣いもできません。極めつけは、妹は自分の思うとおりにならないと、引きこもったり泣いたりします。殿下の重荷になってしまうことが目に見えていました。だから、殿下は私おお選びになると思っていました。
ですが…父は同じ自分の娘ならばどちらを殿下の妻にしても同じだろうと、あろうことか殿下本人と陛下に直接、妹のユノアを連れ婚約者の変更を願い出たのです。
殿下と陛下は婚約者の変更を受け入れておけば、父である公爵に恩を売れると考えたのでしょう。間もなく、王宮に両親と私そして妹が王宮に呼び出され、変更を了承するということを言われました。
表情を崩さなかったのは、私なりの公爵令嬢としての意地でした。私は膝から崩れ落ちそうになりましたが、陛下の御前なので耐えました。
私の隣の妹のユノアは、可憐な笑いを浮かべていました。
家に帰ると妹は飛び上がって喜んだけれど、私は地獄の底に突き落とされたような気がしました。だって必死に努力したダンスも勉強もマナーも刺繍も、私の地位を留めておくのになんの役にも立たなかったのですから。
やがて婚約者の変更が発表されます。私は栄光から一転妹に婚約者を取られた哀れな娘として社交界で蔑まれるか、病気ということにして公爵家から追い出されることになることは目に見えていました。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
人徳がなかったのですか?運が悪かったのですか?
それだけのことで、どうしてこんな屈辱を与えられなければならないのですか。
両親に認めてほしかったからたくさん努力しました。両親の期待に精いっぱい応えてきました。両親の前では完璧にふるまってきました。私が持っているもので妹が欲しがるものはすべてあげてきました。そうしたら少しは両親が褒めてくれると思いましたから。我ながら浅はかな考えだと思います。両親は妹であるユノアしか見ていないのを知っておりましたのに。妹は私の持っていたものをすべて奪っていきました。
何不自由ないと思っていた私の暮らしは、たった一つだけ大切なものが欠けていました。
財でも名誉でもなく、それは両親からの愛でした。
純粋な愛じゃなくてもよかったのです。私を見てほしかったのです。少しでいい、ほんの少しでもいいから見てほしかったのです。愛して欲しかったのです。それが一番の私の願いでした。
両親が言う家族には私は入っていなかったのです。両親の娘は妹ただ一人だったのです。私は道具としか見られていませんでした。
ずっと愛が欲しくて、絶え間なく努力をして来たのだというのに……。
私は絶望した。この世の中に、そしてこの世界に。
父に呼び出されて執務室に行ってみると、病気ということにして家を出ろということでした。ということは公爵家から追い出されるということで…領地にこもるか平民となれということだった。いらないのならさっさと処分しようということでしょうね。
私は死を決意しました。ノルディー家にいる必要性を感じなかったのです。家から追い出されるまでに少しの猶予があるのでその間に死のうと思います。両親からも婚約者であったハウゼン様からも、今の私はただの邪魔ものにしかならないと思ったからです。邪魔者はさっさと退場した方がいいでしょう?
―――それはただのいいわけで、様々な方々から絶え間なく愛を注がれる妹に嫉妬しないように、そしてこれ以上生き恥をさらさないように
…これはただの私の悪あがきです。死んだら私は少しぐらいは気にしてくださらないかと淡い期待も込めて死ぬのです。死ぬ日はもう決めております。その日が来るまで、死ぬ準備をしようと思います。
◆◇◆◇◆◇◆◇
婚約披露パーティー当日、そしてとても美しい満月の日。パーティーの開始時刻である10時は刻一刻と迫っていましたが、私はパーティー会場に向かわず、コンフェクト皇国一高い展望台にきていました。私はそこで、婚約披露パーティーの会場である、王城を見つめていました。
私は産まれたとき以来流していなかった、涙が目からこぼれ落ちました。死ぬ覚悟も大切な人との別れはもう済ましたはずなのですが、涙が止まりません。どうしましょうか。
ゴーンゴーン
「さようなら…」そうつぶやいたと同時に パーティー開始の合図である鐘の音が響き渡り、私の声は夜風にさらわれ鐘の音に吸収されました。
「神様お願いです。もし本当に神様がいらっしゃるのであれば、富も名誉もいりません。単純な愛をくれる場所が良いのです。お願いします。」
私はそう言いながら高台から身を投げました。零れ落ちる涙とともに、落ちていきます。もう後戻りはできませんがこれでよいのです。
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