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4緑子叔母さん

 龍さんのお父さんの妹にあたる叔母の緑子は、東京の品川で夫と一緒に大手通信機器会社の下請け工事の会社をしている。龍さんは医者であった父から引き継いだ古い家屋に住んでいるが、緑子叔母さんは、こないだ新幹線の駅も出来た品川駅前のタワーマンションに夫と二人暮らしている。


 緑子叔母さんには子供がなく、龍さんは子供のころから、我が子のように、小学校入学となればランドセルが届き、正月になれば決まって緑子叔母さんがお年玉をもって訪ねてくる。母を亡くしてからは、今度の見合い縁談話のように龍さんの人生の節目節目で手助けしてくれる。


 子供の頃の龍さんにとって緑子叔母さんは、2人目の母だった。



 この日、龍さんは突然早朝に茉奈を叩き起こして、JRで尼崎から新大阪へ出て新幹線に飛び乗り東京へ向かった。


「龍さん、いきなりどこへ連れて行こうってゆうの?まだ眠たいわよ」


「こないだの見合いの話を進めようと思ってね。茉奈の意見も聞かなくちゃだから連れて行くことにしたんだ」


「あら、そんなこと。ワタシはもう高校生だし、龍さんのこれから連れ添う女性なら金髪や化粧の濃い水商売の人以外なら誰でもいいわ」


「誰でもいいって、茉奈、お前の義母かあさんになる女性だぞ、もっと、自分にとって将来にわたって良き理解者になって親身に相談できる親子のようにフィーリングの合う女性を選ばなくちゃいけないじゃないか」


「あら、龍さん。自分の奥さんじゃなくてまるで、ワタシの義母を探しに行くみたい。あはは、おかしい」


「茉奈、もし、お父さんがいなくなっても、お前が一人ぽっちにならないように、真剣にお母さんを探さなくちゃいけないよ」


「あはは、やっぱり、ワタシの義母を探すみたい」


「おっと!」龍さんは自分が病気のことが頭を持たれて、前のめりになっているのに気が付き我に返った。(これでは茉奈に病気のことを気づかれてしまうな、話を変えねば……)


「そうだ茉奈、そろそろテータイムにしようじゃないか、大阪で買ってきた”おめざ”をだしてくれ」


「え?!これ緑子叔母さんへのお土産じゃないの?」


「いいや、新幹線移動のときはオレはいつもおめざをつまむんだ」


「じゃあ、緑子叔母さんへのお土産どうするの?」


「だいじょうぶだ。品川は昔と違って開けたから、なにも大阪からもって行かずとも現地でそろう。それに噂では最近は阪急も出店してるそうだしねなんとかなるだろう」


「そういうもんかしら?」


「そういうもんだ。いいから、りくろーおじさんのチーズケーキか、赤福だしてくれ」


「でも、龍さんは、ホントに甘いもの好きね」


「いやいやいや、作家の脳の栄養補給は昔から決まっているんだ」


「え?それなに情報?」


「夏目のおっさんの世代から語り部的に伝わってきた由緒ある話だ。作家は、ご当地の甘いものに詳しくなくっちゃいけないってね」


「でも、最近のエビデンスじゃそれが否定されてたりしてね」


「いや、オレは一門の伝統を信じてる」


「龍さん普段、なんにもこだわらないのに、物書きとしてのポイントだけは頑固ね」


「そういうもんさ、ささ、甘いもの出してくれ」


 龍さんと茉奈は、大阪にしか売ってないりくろーおじさんのチーズケーキは緑子叔母さんのお土産にして、伊勢の名物赤福を食べた。


「赤福たまんねぇ~よな」


「ほんと、赤福の餡子の甘さってちょうどいいわね」



 新幹線のぞみはちょうど2時間20分乗り換えなしに品川へ着いた。





 ――緑子叔母さんのマンション


「あら、いらっしゃい」


 緑子叔母さんは、3LDKのリビングで藤間流の日本舞踊の名取をつとめる腕で、「藤娘」を稽古していた。

 甥っ子の龍さんと、その娘の茉奈を見ると、そういった。


「ご無沙汰しています」


 緑子叔母さんは龍さんの家へ見合い話をもって先週訪ねて来たから、ちょっと、他人行儀だなとは思いつつも、大人の礼儀として大仰に挨拶した。


「もうこの頃は汗ばむ陽気に移って来たざンすね」


 若いころは名女優の十朱幸代とわけゆきよに似ていた美貌の叔母さんも、年齢も70歳を超えてるせいか、舞踊の化粧の白塗りが、能面のように浮き出て化け物のようにみえる。子供の頃の龍さんだったら思ったことは即口にする性格だから失礼な言葉を発したが、今は、可愛い娘の父親だからそんな発言はしない。


「あら、今回は茉奈も一緒なの?」


 緑子叔母さんは、姪っ子の茉奈のことは息子のようにかわいがる龍さんの娘だから孫のようにかわいいのだが、成長してゆく茉奈が亡くなった龍さんの妻、文に似てくるのがどことなく龍さん同様につらいのである。


「緑子叔母さんこんにちわ」


「茉奈ちゃん、今日もお元気?」


「はい、お陰様で、のびのびと学生生活を送らせてもらってます」


「おやおや、この娘は、龍さんとは違って、しっかり挨拶ができる。これなら嫁の貰い手はいくらでもあるは、高校を卒業したら早くイイひと探さなくちゃね」


 緑子叔母さんの発言に、龍さんは驚いて、


「待って下さい。今日は、茉奈の縁談を進めようなんて夢にも思ってません。今日、伺ったのは、こないだ緑子叔母さんがすすめてくだすった3人見合いをすすめてみようかなって思ったんです」




 つづく

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