7;看護医が病気を治す方法は色々あるが、オーソドックスなのは会話だという
ルーカスがカウンセリングで疲れて寝ている間、夕暮れの窓から人が現れた。
「ロビンソンはどいつだ?」
現れた黒服の男性は警察バッジを見せると同時に俺の名前を呼ぶ。
「ロビンソンはこいつだよ」
ナツキは指をさして警官は俺を凝視する。
……なんとなくだが、以前にもこのような事があった気がする。
あれは確か卒業式の時……!!
ま、まさか……
「おい、ナツキ……まさかこれって」
ロビンソンは恐る恐るナツキに問い始めた。
静かな空気が肌を触る冷や汗が流れているのだろうか。
「なんだろうね、警察が来るなんて滅多な事じゃないんだけど」
ナツキはロビンソンの顔を見ることなく少しずつ彼から離れていった。
「お前はオムレツ臣官の息子に危害を加えさせた疑いがかけられている。」
「…は?………はぁ?!」
慌ててナツキの方を振り向く、ナツキは「お前そんな事したのか」と、何も知らないような顔をしている。
こういう時、本当は絶対関わっているナツキだが今回は本当に何も知らない顔をしている……ように見える。
「署まで来てもらおうか」
「待ってくれ!今、患者をカウンセリングしたばかりなんだ!!彼が復帰して帰るまで待ってくれないか?」
ロビンソンはバタバタと手を動かして説明をする。
警官もそれを聞いて納得はした。
納得はしたが、だからといって仕事上このまま逃がすわけには行かないと、捕まえられ、連行され、何も知らないことをひたすら聞かれ警察官の圧力で心をすり減らして家に帰ってきた。
「………」
1時間程、経っただろうか……俺は無駄な時間を食わされ家に帰ってきた。
ルーカスはまだ寝ているようでナツキはリビングを元あった位置に戻していた。
ロビンソンが帰ってきた事を目で確認した少しあと、おかえりと声をかけ先程の警察の出来事を聞く。
どうやらそのオムレツ臣官の息子は「金髪のバスケットボールを持った少年に殴られたようで、その少年の看護医が殴れと命令しているところを見ていた。」と証言していたらしく。
金髪でバスケットボールを持っている事と、その時間に公園に行っていた金髪の少年はルーカスしかいない。と言うことでその看護医であるロビンソンが連れていかれたようだ。
だが、ロビンソンはその時には家でぐったり倒れ込んでおり、ルーカス1人でやっていた事になる。
自白剤を使って聞いたものの、証拠が掴めなかった為、帰されたようだ。
「それは災難だったな」
無関心にも思われる声色でナツキはロビンを慰めた。
とりあえずルーカスが起きるまで休憩して休憩するよう助言し、ナツキは外へ出る支度をする。
どこへ行くのだと尋ねるとハチを迎えに行くと答えた。
そう言えばハチが見当たらなかったがまだ迎えに行ってなかった事を理解した。
玄関まで見送りをした所で
「あぁ、言い忘れてたけどまだルーカスの仕上げは終わってないから」
ナツキは出ていく前にロビンソンに言う。
「完全に治してこその看護医だが、本来お前の仕事を横取りしてる感じになる。お前がやらないとダメだからな」
最後まで言い終えると扉を開け、出ていくのを見送りロビンソンはルーカスが座り寝ているリビングでルーカスが起き上がるのを待っていた。
「最後の仕上げを俺に……か……」
なんだか美味しいところだけ横取りしたような気がして嬉しくない。
だが、ケジメとして考えるのならそれもそれでありなのだろうか……
ナツキと同じ心理臨床科だった私は、いつもあいつに助けられてばかりだったな……
少し思い出し笑いのような呆れ笑いのような……そんな笑みを作り、1人で思い出に浸っていた。
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「ロビンさんとルーカス……行っちゃった。」
ロビンさんとルーカスは駅の改札口の向こうで手を振り、ホームへ歩いていった。
「行っちゃったな」
ナツキは遠くにいるロビンさんを見つめ続けていた。
「ロビンさんとルーカスが親族って知ってた?」
「いや、私もそれは知らなかった。ただ、ロビンが大学時代にフィリピンの血を持ってると聞いたことがあるからな……あってもおかしくは無い。」
ナツキはただ、遠いものを見ていた。
もう二度と戻ってこない者、二度と戻って欲しくない者、その2名を彼は見つめていた。
ロビンさんはこの仕事を辞めて外に出て行くらしい。
暫く出ていなかった外の世界へ行って、ルーカスの親へ1つ文句を言わなければ行けないと言っていた。
「もう帰ってくる事は無いと思いますし、二度と会うことは無いかもしれませんが手紙くらいはそちらに送ろうかと思っております。」
出国手続きの紙をスラスラと書きながらロビンさんは私に言っていた。
ルーカスはそれを眺めながら大人しくそれを見つめていた。
彼は無理をするのを辞めたようだった。
無理をしすぎて自分を苦しめることを知ったから……
自分の為に無理をしても、結局は自分を傷つける事だと実感したから……
彼は余裕を持った生き方をしていくのだろうか、それとも志が戻って無理をしてしまい、この国に帰ってくるのだろうか。
そんな事が無いことを祈ると、汽笛が鳴り響いた。
機関車の音だろうか、その音に体が反応して体が崩れそうになる。
「この汽笛はここにいた記憶を失うために作られてるんだ。」
ナツキは倒れそうになった私を両肩を両手で支える。
「この国は秘密にされている。記憶を消す事が出来るなんて禁忌だからね、人によっては人としての権利を無視して記憶を消すこ奴もいる可能性があるからな」
私は体制を整え、1人で立てるようになってからナツキの話をしっかり聞く事にする。
「勿論、必要最低限の知識や覚えておきたい事はこの前ロビンが書いていた出国手続きに書いておけば消されないらしい。勿論それを残すかは国が判断すると思うけどな……記憶の消し方なんて持ってかれたら大変なことになるからね」
ナツキは私にチラと見た。
私はそんなもの関係ないと思うけど……
「だけど、とりあえず今はそんなこと関係ないかな……今は伝えておかないと行けないことがあるから」
「……?」
ナツキはそれほど大切なことでもないように私に言う。
「多分、君の病を治すことはかなり時間がかかる。」
………?
「どういう事?」
「でも少し時間がかかるだけだから……」
ナツキは私の言葉を無視して話を進める。
「ルーカス見たいに1発で病を除くのではなく、1週間に1回のペースで少しずつ、少しずつ除いていこうと思う。」
「いや、そうじゃなくて私は病にかかっているのか?」
「………は?」
流石にこの発言でナツキは止まった。
そして再び動き始めた頃には既にナツキの顔は豹変していた。
どうやらハチが病人のように見えない原因はルーカスとは違うようだ。
自分が病人であることを感じ取り自分は病人でないと否定することで元気な少年になっていたが、この少女はそもそも自分が病人だと思っていない。
「……道理で病人に見えないのか」
ナツキは不吉な笑み、いや呆れ笑いだろうか。
ハチは一般人が見ても分かるほど変人だ。
彼女が姉との勝負に必ず勝とうとする負けず嫌いの精神もあるが、その精神が病にも負けないように出来ているのだろうか。
少なくとも普通の負けず嫌いの人間では無理なのだろうが、彼女が特別、病にかかっていながら病に負けないのでは無いだろうか……
そうでなければこの状況をどう説明すればいいのだろうか。
「これは……とんでもなくめんどくさい少女を任せられてしまった見たいだな……」
今まで幾たびの人間を叩き治してきたが、こんな人間は初めてだった。
武者震いか、はたまた恐怖か、彼の背中は軽く震えていた。
報告しておくことがあります。
もうすぐ夏休みですが、私の中でこの夏休みは高校生活最後の夏休みでもあります。
そう、受験が控えてます。
何が言いたいかと言いますと、投稿ペースが遅れます(いつまでかは分かりませんがいつもと変わらず月曜日には投稿するようにします)