1:治療におけるプロセスは患者との承諾を得た方法で
彼女は強い。
『世界が終わろうともその白い花だけは生き残る』と言ったフレーズの曲があったらその白い花は彼女だと連想するほどに私の中で彼女は強い女だと思っている。
そしてこれからも私はそう思い続けるのだろう。
──廃墟の式場で遺骨の収まった桐箱を抱えて自然とホゥ、と息が漏れ白い靄がこぼれた。
消えていく靄を見送った後、式場を後にしようとする。
そこでふとホソカワから言われた言葉を思い出す。
「式場のヴァージンロードという物には意味がある。扉が開いた瞬間は花嫁が生まれた瞬間で、親と歩いている間は生まれた時から今までの人生を思い出しながら歩き親から離れた瞬間は二人が出会った瞬間を表す」そうだ。
今私は式場を振り返って帰っているのでそのヴァージンロードを逆走していると言ってもいい。
なら今、私は花嫁にした彼女と出会ったばかりの数カ月の思い出を思い出すとしよう。
目を瞑って私は思い出の中心に待っていた彼女を見つけた。
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私と彼女があったのは外からは知られることが無い白い街だ。
建物の色が無いというわけではなくたしかに色もあるはずなのだが白い光に覆われているというか、何となく眠気を誘う町だった。
とても穏やかな街並みで刺激を与えるものがほとんどと言っていいほどない。
例えば車は通っていないし、働いている人間も一部を除いてはいないのだ。
ここにいる人間は大まかに分けて2通り、『患者』と『看護医』に分別される。
心の病気が ”完全に世間に認知されるようになってから” この街は、心の病気を治すのに最適な街とされて開発が進められ、気づいたらもうこの2種類の人間しかいなくなったらしい。
私は無断で街を離れて外に出たというペナルティでしばらくの間、患者を持っていなかったがやっと仕事が出来るようになった。
患者がいない限りその医師には生活費を普及してくれない為、同じ仕事仲間の友人が営んでいるパン屋でバイトをして何とか生きていたが…「やっとまともな生活ができる」と、あの頃の私はさぞ口角がわかりやすく上がっていただろう。
街が街なためか、猫がそこらの道路で警戒心もなく寝転がったり、仲間同士でじゃれあったりしているのを少し眺めてから私は患者と会う為、約束の場所へ歩いていった。
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始発街とされているその街は患者を街に入国するための唯一の駅が設置されている。
以前、外の世界に逃げた時にこの電車に乗ったらしいので外に出る時もこの電車に乗るのだろう。
私は駅に入った後、また違反を犯すかもしれないと手錠を付けられ、ホームで若い小太りの警官1人と一緒に患者を待つことになった。
初対面の警官と二人きりでいても会話が始まるわけもないので駅を見回していると、付近では小さな子供が1人ぽつんと座っている。
まだあんなにも幼いのに心に病気を持ってしまうほど外は厳しい世界になってしまったのだろうか…私は外に出た時の記憶は消されてしまった為よく分からないが、あのような小さな子供さへもがこんな所に来てしまうということはそういうことなのだろう。
世も末だなと心が呟いた時、後ろから呼ばれた気がしたので振り返る。
そこには薄い銀色をしたナチュラルヘアで双眼の青い目が綺麗な10代の少女だ。
彼女はじっと私の目を見つめて尋ねてきた。
「あなたは誰ですか」と
「私か、私の名前は…ナツキという。」
その答えに少女は深く頷き「えぇ、そう…あなたはナツキなのね…」と理解し難い受け答えをして私はなんとも言えない気持ちになった。
言葉に表すことが難しいのだが、恐らく私はきっと気持ち悪いと思ったのだろう。
何がとは言い難い、一言で表せれないのだがきっと何かが人間でないのだ。
そうでなければ体内の感覚が走り回り、体が震え上がるような嫌悪感は起こらないだろう。
なるほど…ホソカワから引き受けた患者はたしかに普通の人間には手に負えない患者を連れてきたらしい。
ペナルティをくらったのだから仕方ないのかもしれないが…
「そう、私の名前はナツキだ。君が今回の私の担当だろう?」
今度は私から彼女に聞いてみると先程と同じように小さく頷き
「えぇ、ハチと呼ばれているわ」
と、彼女は私の目を見つめて話す。
あぁ、なるほど…この子に…いや、人に目を見つめられることが私は心底嫌なんだろうな。
長いこと人と付き合ってはいるけれど異性と、という意味で付き合った事は無い。
ましてやこの街には患者と看護医が殆どで、基本的に深く話す人間なんてほとんどいない。
そんな中で生き慣れてきた私は人に目を見られるという事は複雑なものなのだろう。
目を逸らして「それじゃあ場所を移動しようか」
私達は警官から手錠を外されると白く透き通った光が流れてくる街へ行くためホームを離れた。
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町から少しだけ離れた先にある海岸。
そこに寂しそうに1軒だけ建てられている大きな家が私の家だ。
波の音が静かに流れているが人が楽しく騒ぐような声は何一つ聞こえない。
それもそのはずだ。心の病を持った人間がわざわざ海に来て遊ぶだろうか…いや、遊ばない。
いつも使っている家の鍵を開けて「どうぞ」と振り返ってハチに声をかける。
「お邪魔します。」
「そんなにかしこまらなくても…これからしばらくの間、私と君は一緒に住むことになる。」
私がそう優しく言葉を投げかけると少し驚いたように大きく目を開いて
「1日やすぐに終わるものでは無いと言うこと?」
と、質問をする。
頭をかいてどう答えようかと考える。
正直なところ彼女のカルテを見たところ一日で治るような病気ではないしこのまま完治しなければ恐らく死ぬ。
「病原性心象郡」という物で、この病気は患者の中でも完全に治すことが不可能に近いとされている。
この病気にかかった人間は今までの自分を保てなくなる。
まだ彼女は日が浅いらしいので何とか自我を保てているらしいが既に人間と少し違うと違和感を感じていた。
さきも思ったが彼女はなんとも言えないけれどズレている。
何を考えているか…いや考えていないように見え、正気がないように見える青い目で周囲を見渡すハチを眺める。
「その服装、暑くないの?」
ふと彼女の服装を指摘する。
どこかの学校の制服だろうか…冬フォーマルの茶色く分厚い服を着ている彼女は顔色一つ変えず首元を汗ばましている
この街は毎日暖かな気候を保ったハワイのような少し熱い所なので彼女が冬国にいたのか住んでいた街の季節が冬だったのか知らないが、その服装は間違いなく暑さで死ぬ。
「暑い」
一言だけそういったが動く事は無かったし何かを頼むような素振りも無かったので「薄いのに今から着替える?」と聞くと「えぇ、あなたが出て言ってくれれば着替えるわ。」と静かに突き刺すように目を見て言ってきたので、申し訳なさそうに外を出た。
しばらくして中に入ると驚愕をした。
病気のせいか、彼女の感性が元々狂っているのか、目の前には「マジ卍」とプリントされたはっきり言ってダサいTシャツを着ていてショートパンツをセットにボケっとしているハチを見て恐怖を感じた。
「え、ちょっと待って、それは、それしか無いの?」
あまりの出来事に言葉も回らない私を見て、ハチは鞄を開けて自分の服を放り出した。
……「弱肉強食」、「我最強」、「8」…と次々と服が出てきた。
「8」に関してはなにかのスポーツの背番号何じゃないかと思い、もはや自分の名前と掛け合わせてこの服を選んだのならセンスを感じた。
こんな服を買うやつがホソカワ以外にもいるとは思わなかったが…いずれ街や誰かに会うことになるので流石にこの服は不味いと思い。
少女の服を買いつつ食材や趣味の用品など色々な物を買い揃える為、ハチを連れて急いで家を出た。
最近私の弟がクラスの王様になっています。
男女から共に人気があり、吹奏楽部に入部したのですが誰が見ても女子しかいません。
…が、女子ともかなりお話をしているようで控えめに言ってモテてます。
多数の先生から入部する前には色んな部活の先生に勧誘を受けていたらしく…ラノベ主人公になれるんじゃないかと恐縮してます。