第一夜 後
魔王と話した翌日、私は朝から城の蔵書に目を通していた。
先代についての記録の確認が目的だったが、過去の記録を遡るとこれが存外に興味深く、良い機会だと思ったので腰を据えて取り組んでいる。
半ば御伽話となっている神代の記録から見ていくことにした。
そもそも魔族と人間というものは大本を同じくする生物らしい。
魔力の取り扱いに長ける者とそうでない者とが、長い時間の中でそれぞれ異なる方向性へ進化した結果が現在の魔族と人間ということだ。
同一種だった時には起こらなかった争いも、互いに異種へと進化した結果生存競争が発生したのは皮肉と言おうか。その争いは永きに渡ったが、先代により終結し現在に至る。
魔力的・肉体的に優れているが故に特別な技術を持たずに生きていた魔族と、魔力的・肉体的に劣るが故に群れを作り進化を続けてきた人間。
記録に残る魔族と人間の変化を見るたびに、「我々は動物に近い」という魔王の言葉を思い出し一人納得する。
戦い方1つをとっても、武器を木から石、石から金属に発展させて来た人間に比べ、魔族は一部を除き武器すら使用していないのだ。
部族の長ですら「道具などは非力な人間が使うものだ」と言う始末である。
現時点の人間は最新鋭の道具でようやく魔族と対等に戦える程度ではあるが、時が経てばより優れた物を作り出すだろう、そうなればもう勝ち目は無い。
空を飛ぶ者が優れた道具を用いれば、より速くより遠くへ飛ぶことが出来るという当たり前の事にさえ気が付かないなんて、魔族という種に未来はあるのだろうか。
もしかしたら先代はそんなことを考えて人間との不利な和平を受け入れたのかもしれない、とふと思った。
そんなことを考えながら本棚を見ると、厚みも大きさも異なる本が乱雑に並べられている中に
綺麗に揃えられた数冊の本があったので手に取った。
表紙には何も書かれておらず執筆者が誰かはわからなかったが、本の状態からかなり古い物だと思う。
中身を読んでみて驚いた。
記述の内容から判断して、これが古い時代に著されたことは間違いない。が、ごく最近に確立された魔法・魔術の類どころか人間達の機械技術まで言及されているではないか。
魔王の言っていた「機械仕掛けの乗り物」についても記述がされていた。
魔法・魔術ならばまだわからない訳ではない、魔王だって未来にどのような技法が開発されるかについては考えられるだろうし凡その検討もつけられるだろう。
しかし人間に関してそこまで深く理解している者が魔族にいたのだろうか。
様々な想像が頭を巡るが答えが出ることはない。
先代、なのだろうか。
我ながらつまらない答えに辿りついたとは思ったがこれはこれでよい。
私は、魔王との次の夜を待ちわびながら書庫を後にした。