彼は
彼は、私の人生で一番大切な人でした。辛くて、泣きたい時もずっとそばにいてくれて。
こんなに幸せで良いのかってくらい、好きで、甘えていたくて。私は、彼についつい甘え過ぎてしまったのでしょうか。あの時の私が、もし目の前に現れたら、
「我慢しなさい。」
と、強く言い聞かせてやりますよ。彼がどんなに大切だったか。必要だったか。また、私がどれだけ彼を好きだったのかを。
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「朱音」
彼はタンタンと、音をたてて走ってくる。私のもとへ。私の名前を呼びながら。
「寒志郎。時間かかるって言ってたのに、思ったより早かったわね。」
彼、寒志郎と付き合い始めたのは、大学1年生の時でした。優しくて、そこそこかっこよかった寒志郎は、きっとモテていたと思います。そんな寒志郎と付き合えた私は、運が良かったのでしょう。
「ああ。朱音に早く会いたかったから」
「ふーん」
寒志郎は、よくこんなこっ恥ずかしいことを言うのです。だから私はいつも、照れながら言葉を返すしか選択肢はありませんでした。
「リボン可愛いね。似合ってるよ」
とか、
「今日も好きだよ」
とか、聞いてるこっちが恥ずかしくて、照れてしまうことをいつも言うので、わざと言ってるんじゃないかと疑うほどでした。
「もうこっちの暮らしには慣れた?」
「まだ全然。寒くてたまんない」
この時、私は沖縄から内地の短大に通っていたため、寒さには全然知識が無く、とても苦労していたのです。ですが、寒志郎がいろいろと寒さ対策など教えてくれたおかげで、少しはこっちの暮らしを知れました。今思えば、寒志郎にはいろいろと教えてもらって、本当に感謝しています。そのたびに、彼は私が好きなんだと感じることができ、辛いことがあっても頑張ることができたのです。
「あーすごい夕焼け。綺麗。」
「そうだね。綺麗な色をしているね」
「すごいなー」
寒志郎と歩く帰り道は、いつも愛おしくて、一歩一歩を写真に撮りたいくらいでした。
「寒志郎、明日は何時に会う?」
ふわふわ、ふわふわ。気持ちは上がっていく。風船みたいに、破裂しないように。高く、高く。
私が彼を嫌いになるまで、ずっと上がり続ける。ふわふわふわふわ。
君を思う風船が、ずっと上がりますように。