Ep.7 『中央本部に於ける最終決戦に向けての最終準備』
集まった4人のエース達は司令室へと集められた。そこで司令長官との対面を果たしたのである。といっても、彼等はエースと呼ばれるだけの実力者である。各々が長官と会うのはこれが初めてではなかった。その為、長官の初めの挨拶は「久しぶりだな」という、4人全員に同時に声をかけていながら、内容としては一人ひとり個別に向けているというよくよく考えてみれば少しだけ高度で可笑しな第一声だった。
4人のエースは、全員同時に「ご無沙汰してます」と言って一礼した。
長官は4人の前をゆっくりと歩きながら、今日こうして4人を集めたのは来たるべき『ゴッズ壊滅最終作戦』の為だと説明を始めた。
「諜報部はついにゴッズの本拠地を突き止めた。そのアジトには敵の親玉、ゴッズ総司令もいるはずだ。こやつを倒せば、長かったこの戦いにもいよいよ終止符が打たれる。しかし敵も総力を結集して迎え撃ってくるだろう。我々は、最強の戦力をもってしてこの作戦にあたらねばならない。その為に君たちをこうして一堂に集めた。つまりだ、君たちには今日から単独で戦うのではなく、チームを組んで戦ってもらう」
「チームですか?」
4人が一斉に訊いた。
長官は頷き、
「チームですよ」
と、反射的にうっかり敬語で返した。
4人はこれまで、その抜きんでた戦闘力から、誰と組むこともなく、常に自分ひとりの力のみで戦ってきた。なので、チームで戦うということに今一つピンと来ていない。その様子に長官も気づいたようだ。
「君達は誰かとチームを組んで戦うのは初めてだ。勿論多少の戸惑いはあるだろう。しかし君達はカナラズが誇る最強の4人だ。その4人が組めば、自然、最強のチームとなるのは間違いない。だから心配はいらないさ。我々もそこの所は全く心配していない。後は敵の本拠を叩き伏せる為に具体的にどういった作戦を取るか、問題はそれだけだ」
4人は長官のその言葉に自信をつけてもらったわけでもなく、ただ曖昧に「はあ」と頷いただけだった。
別室では長官室での光景を静子と竹山がモニタリングしていた。二人はこの作戦の担当顧問なのだ。
「さすがにこうして4人揃うとオーラがあるもんだなぁ」
竹山が腕を組んだまま、モニターに映る4人を見ながら感心したように言った。
静子も「そうですね」と相槌を打つ。
竹山はふと考え込むように黙ると、少ししてから、
「しかしここまで強い奴ばかりを一緒くたにすると、肝心のチームワークの方は大丈夫なのか? ホームランバッターを9人集めたって、試合にゃ勝てんぞ?」
と言って口の周りを指で掻いた。
「その点なら心配いらないですよ。彼等は確かに強いですが、性格は皆穏やかで、出しゃばりとは程遠い。見ての通り、調和を大事にするタイプなんですよ、全員」
静子はそう言って、モニターに目をやった。竹山はそれに促されるようにもう一度モニター内の4人を見た。
たしかに静子の言うとおり、映っている4人のエース達は互いにペコペコと頭を下げ、挨拶を交わしていた。俺様系とは無縁の4人に見えた。
「たしかに、心配はいらなそうだ」
竹山は頷いてからそう言った。
司令室にいる4人はそれぞれ自己紹介していた。
「どうも、前葉和波と申します」
前葉が頭を下げて丁寧に挨拶した。
爽子が「青剣士さんですよね? ノース支部でも青剣士ザンさんの強さは凄い噂になってましたよ。まさかこうして会えるとは! いやー、本当にいるんですね~」と嬉しそうに一気に喋って、じろじろと前葉を見た。
前葉は少しだけ照れて頬を赤くしながら、「ど、どうも」と苦笑した。
次に石我利が自己紹介した。
「俺は石我利陽名です。結構珍しい名前って言われます」
石我利はテヘヘと緩い笑いを浮かべながら、緩い雰囲気の挨拶をした。
爽子がまた過敏に反応した。
「サンファイタービーチさんですよね? 物凄い戦闘センスをお持ちだと聞いてます! センスというよりも、もう戦闘本能だとか!」
爽子の言葉に、石我利は「そんなことないっすよ~」と目を"への字″にしてデヘヘへと笑った。
次に五胡が自己紹介した。
「五胡昭っす。何よりも美味しい物が好きっすな」
爽子がまたまた過敏に反応した。
「剛力人間ブッチャさんですよね? ブッチャさんの怪力と食欲にはこの世の生物の誰も敵わないとか! さらにはカナラズのヒーローの中で唯一、プロテクターを纏うタイプではなくて、体組織を変化させて変身するタイプなんですよね!」
爽子の言葉に、五胡は「そうっすな」と、どっしりとした石のような落ち着きようで答えた。
最後に爽子が自己紹介した。
「あ、すいません、ベラベラと喋ってしまって。つい興奮してしまって。最後になってしまいましたが、私は句瑠爽子といいます。皆さんの戦いぶりから色んなことを勉強させていただきたいと思ってます」
先ほどまで速射砲のように喋っていたというのに、いざ自分の自己紹介となった途端、恥ずかしそうに声を小さくし、頬を赤らめて爽子は挨拶した。
「いや、僕の方こそ勉強させてもらいます」と前葉が言うと、「いえいえ、俺もです」と石我利が言い、最後に「そうっすな。俺もです」と五胡が言い、4人はまた互いにペコペコと頭を下げ合った。
その様子を見ていた長官にはそれが滑稽な光景に見え、わっはっは、と声を立てて笑った。
そして「君達ならチームワークは心配なさそうだ」と付け足した。
それからの1週間で、彼等4人のヒーローチームは本格的に始動した。
静子と竹山が4人のエース達と徹底的に話し合い、チームとしての基盤を固めていった。
まず4人が組んだ際のチーム名が決められた。
『グレートフォース』
それが彼等のチーム名だった。
グレートフォースの4人にはまず変身後に最初にキメるべき、決め台詞が設定された。4人はこれに戸惑いを隠さずにはいられなかった。というより恥ずかしさを感じずにはいられなかった。
決め台詞とは次の通りである。
まず4人が変身し、横一列に並ぶ。それから、敵に向かってこう言うのだ。
『我等、絶対無敵の最強チーム!』
そこまで言うと、次は各々の自己紹介に入る。つまり、前葉の場合なら、『青剣士ザン!』といった具合に、自分の変身後のコードネームを高らかに名乗るのだ。
それが4人分終わると、最後の最大の決め台詞を言うのである。
こうである。
『この4人、即ち世界を救う凄まじき力! 聞いて忘れることなかれ! グレーーーート………フォース!!!』
ここで4人は最後の『ス』を発声したのと同時に敵を指差すのである。
この一連のまどろっこしい展開を考えたのは静子であった。静子曰く、カナラズが生みだした最強ヒーロー達のドリームチームなのだから、最終作戦の遂行だけが任務とはいえ、なるべく多くの怪人の記憶にその存在を記しておきたい。その為にはこれくらいトンチンカンで派手に見栄を切っておいた方が良い、とのことだ。
4人は猛反対した。
しかしこれは竹山も気に入り、結果本部の決定となり、グレートフォースの4人はやむなく了承せざるを得なかった。
しかしグレートフォースのチームワークは周りの予想通り問題なかった。
メンバーがみんな相手の事を気遣う性格で調和を大切にするため、互いに切磋琢磨して仲間ながらライバルとして実力を競い合う、という空気とは無縁だったが、4人とも仲良く訓練をこなした。
時折グレートフォースの様子を見に来た長官は、チームワークの良さを見るなり、さも4人は自分が育てたとでも言いだしそうな様子で、「やはり私の目に狂いは無かった。ようはそれぞれの適正を見極めてやれば、みんなちゃんと実力を発揮するのだ。この4人の穏やかな性格は元来個人プレーよりもチームプレー向きだったのだよ」と得意げに言った。
静子と竹山はそれを適当に聞き流した。聞き流しているということを長官に悟られないようにすることに毎度苦心した。
そしてついに、ゴッズ本拠地撃滅最終作戦が決行される時が来た――。
≫≫いざ決戦篇につづく