Ep.1 『北のエース』
誰が言い出したのか、しんしんと降るとはよく言ったものだ。見事な表現としか言いようがない。
街は一面の雪景色。なおも空からは白い粉が降り続いている。
雪が降る時は、雨と違って音を立てない。しんしん、という音は本当はしない。静寂だ。
しかし、今、この雪景色の中に、タタタン、というどこか軽やかな音だけは響いていた。銃声である。
街の中心で、地球防衛組織『カナラズ』の隊員達が、悍ましい姿の怪物と交戦中なのだ。では、その戦闘現場を見てみよう――。
ワゴン車ほどもある大きなかまくらが10個以上並んでいる。その中では2~3人の隊員達が銃を構えて敵を狙っているのだ。
謎の暗黒秘密結社『ゴッズ』の怪人ジロブマーは、並んでいるかまくら群の中央に立ち、悠然とした様子でカナラズの隊員達を見回している。
「この俺にそんな矮小な武器が通用すると思うのか! さぁ、撃ってみろ!」
ジロブマーは、まるでシロクマのような大きな体をウサウサと揺らして笑った。
これに対し、かまくらの中からの一斉射撃がついに始まったわけだ。
銃弾はひとつとて外れることなくジロブマーの身体に命中していくが、当のジロブマーに銃撃を痛がる様子は微塵もない。それどころか手を腰に当て、余裕の仁王立ちをしている有様だ。
カナラズの隊員達は震え上がった。自分達に勝ち目はまるでない。
「もう終わりか!? ならばこちらの番だ!」
ジロブマーは威圧感のある声でそう叫ぶと、かまくらの一つに向けて猛然と駆けだした。そしてパンチ一発でかまくらを破壊し、中にいた3名の隊員を木の枝のように軽々と放り投げていった。
そして次のかまくらに目を向ける。
その時――。
「そこまでよ!」
一つの鋭くも繊細な印象を受ける声が轟き、ジロブマーは近くの地下鉄入口を見やった。
するとそこに、淡いピンク色の戦闘プロテクターを纏った、小柄な戦士が一人立っていた。プロテクターのデザインは全体的に円を用いた形をしており、その表面はメタリックにテカテカと光を反射している。
顔もプロテクターに覆われており、多重の丸が組み合わさったようなデザインで、どこが目で鼻で口なのか外見ではわからない。
この戦士はカナラズのノース支部に所属しており、名を『ハレル』と言った。
ジロブマーはハレルの姿を確認すると、かまくらには興味を失くしたかのように地下鉄入口の方に体を向けた。
「俺の名は、ゴッズ精鋭怪人ジロブマーだ! 雪上戦士ハレル、貴様の首を取って、ボスへの土産とさせてもらう!」
ジロブマーはハレルに向けて走り出し、対するハレルもジロブマーに向かって駆け出した。
ジロブマーは爪を立ててハレルに振り下ろしたが、ハレルは雪の上をスライディングすると、ジロブマーの巨体の股下をすり抜けて背後に回った。そして右腕に備え付けてある円形の切断武器、サークルソードの電磁刃を起動させてジロブマーの背中を切りつけた。
ジロブマーはうめき声を上げてよろめいた。
ハレルはそのままジャンプすると、今度は左腕に備え付けられているスノーマウスという小型吹雪発生装置の送風口から吹雪を発生させてジロブマーの身体をあっという間に凍りつかせた。
かまくらから這い出てきたカナラズの隊員達は、ハレルの華麗な戦いぶりに呆然と見入っている。
ハレルは着地すると、凍りついているジロブマーに向けて、右腕を振って、サークルソードをフリスビーのように放った。ジロブマーの体は氷もろとも粉々に砕け散り、戦いはハレルの勝利に終わった。
カナラズの隊員達はそれを見ると、バンザイをして喜んだ。
ハレルは戦いを終えた安堵に息を吐き、「よかったぁ、勝てて」と一人呟いて胸を撫で下ろした。
そして、背後で騒いでいる隊員達のもとへ駆け寄ると、その輪に交じって自らも「バンザーイ、バンザーイ」と声を上げ、隣の隊員達と手を取り合ってぴょんぴょんと跳ねた。