温もり
短いですが読んでいただけると幸いです
夜の京都、人の皆寝静まった深夜帯。
私は一人で街を歩いていた。
誰もが眠りについているのであろう時間とは言え、街の灯りは煌々と照る。
見上げた空は鈍色の雲が重く垂れ込み、星の一つだって見えやしない。
……いや、きっと雲の一片とて見えない空だったとしても、街の灯りで星々の微かな光など掻き消されてしまい地上に届いていなかったことだろう。
今夜はいつも一緒の相方の少女はいない。
風邪をひいたのだそうだ。
私は看病しようと思い立ち、薬やちょっとした食品を持ち彼女の家に向かっているのだ。
季節が秋から冬へと移り変わるこの時期、吐く息も徐々に白くなりつつある。
彼女と出会ってからは一人で夜の街を歩く事の無かった私は、温もりを求めて街灯の下へと向かった。
当然のことながら、街灯の放つ極めて人工的な青白い光は少しも温もりを感じさせない。
これがかつて街で使われていたというガス灯だったのならば少しは温もりを感じる事が出来たのだろうか。
……相方が家で待っているだろう。
私もこんな街灯なんかに温もりなど求めずに彼女のもとへ早く向かおうではないか。
温もりなら彼女がくれる。
彼女の隣にいるだけでも、たった一片の言葉を交わすだけでも私の心はじんわりと温かくなる。
凍える水の中より葦牙の萌え出でて柔らかな春の光に照されるかの如く、泥の中より蓮の芽が伸び仏の御教のよな暖かな光を受け入れるかの如く。
……要するに私の心は明るくなり、和らぎ温かくなるのだ。
そう思った途端に私の足取りは一段と速くなる。
位置も時間も確認などしなくていい。
位置なら彼女と何度も通った道だ、覚えている。
時間など確認しない。
確認するその短い時間さえも惜しい。
一刻も早く彼女のもとへと向かいたいのだ。
あぁ、彼女の家が見えてきた。
部屋に灯りがついている。
どうしてだろうか、街灯と同じ人工的な光なのに、彼女の部屋から漏れる光は暖かく感じる。
彼女の家にたどり着いた私はドアをノックする。
返事もろくに聞かずにドアを開けると彼女の部屋へと向かい部屋の扉をあけ何時も通りに声をかけるのだ。
「ねぇ、メリー!体調はどう?薬と食品、持ってきたわよ!」ってね。
読んでくださってありがとうございました!