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■ 後 編

 

 

照れくさそうに目元を赤くしたハヤトが、学校指定サブバッグを膝の上に

置き静かにチャックを開け手を入れる。


そして、包みを掴んで取り出した。

 

 

 

 『実は・・・ 俺も。』

 

 

 

『え?!』 驚くミノリへ、ハヤトが目を細め微笑む。

 

 

 

 『コレは・・・ 去年、渡せなかった分・・・。』

 

 

 

そう言って、四角い包みをミノリに渡した。

『ホワイトデーとは、別ね。』 と、付け足して。

 

 

 

 『・・・去年、って・・・。』

 

 

 

ミノリが目を見張りまっすぐハヤトを見つめた。


 『・・・準備、しててくれたんだ・・・。』

 

 

 

あの頃、本当のことを言い出せず悩んだであろうハヤトを思い胸が痛むミノリ。

苦しかったのは自分だけではなかったと、今更ながら痛感する。


俯きながら、『開けてもいい?』 小さく訊くと返事を待たずに包みを開いた。

 

 

直方体のプラスティック製小箱が現れた。

その中には、ペアキーホルダーが。

ひとつは手の平の形。もうひとつは、その手にやさしく包まれるハートが

埋め込まれ2つで1つになっている。

 

 

2つ重なると現れるメッセージは ”ⅰ miss you ”

 

 

  ”逢いたい ” ”恋しい ” ”会えなくて寂しい ”

 

 

あの日の想いが全てつまっていた。

 

 

 

ミノリが目を伏せキーホルダーを大切そうに両手で包んで、胸に抱いた。

俯くその頬に、涙がつたってゆく。

 

 

 

 『ありがとう・・・ ごめんね。 去年、受け取れなくて・・・。』

 

 

 

『なんでミノリが謝るかなー。』 やわらかく、あたたかく笑うハヤト。

微笑みながら、もうひとつ、ハヤトがその手に小箱を渡した。

『コッチは、今年の。』

 

 

思ってもいなかったもうひとつに、ミノリが驚いた目を向ける。

驚きと嬉しさに少し震える指先で、慎重にその包みのリボンをほどいてゆく。


そして、小さな四角い小箱を開けた中にあったもの。

 

 

 

 『キレイ・・・。』

 

 

 

眩しそうに目を細めて指先でやさしく掴むと、ミノリは自分の左手の

小指に滑らせた。


それは、ゴールドとシルバーの小さな星が寄り添うピンキーリング。

ミノリが嬉しそうに目の高さに左手を上げ、弱弱しい夕陽に翳して眺めている。

 

 

いつまでも小指を幸せそうに見つめるミノリに、ハヤトが言う。

 

 

 

 『今は、小指だけど・・・


  ゼッタイ。 その隣の、指の・・・ 渡すから。』

 

 

 

ミノリが目を見開いて見つめる。

驚きで心臓は激しく打ち付け苦しい。


その目にはみるみる涙が浮かび、一度でも瞬きをしたら容易に零れて

しまいそうで。

 

 

 

 『だから、コレは。 将来交わす約束をする、約束。』

 

 

 

そして、

ハヤトがまっすぐ見つめて言った。

瞬きもせず、ミノリをしっかり見つめ。

 

 

 

 

 

 『俺も、あの時 ”グローブ ”に会えて良かったって思ってる・・・。』

 

 

 

 

   ミノリがそっと耳打ちした言葉。それは、


    ”mossoに会えて、良かったよ・・・ ”

 

 

 

 

 

ハヤトがミノリを抱きしめた。


コートを着込んだ互いの体は、そのウールの厚さ分だけ歯がゆい距離を

つくるけれど息が止まるほど。強く、強く抱きしめた。

決して誰にも取られないよう守るみたいに。


互い、泣きはらした目元は真っ赤に染めて、嬉しそうに頬も真っ赤に染めて。

 

 

 

 

 『ずっと、一緒にいような・・・。』

 

 

 

熱を帯びたその言葉が、冷えた冬の夕空に瞬時に白い息になって静かに流れた。

 

 

 

 

 

ミノリを抱き締めたまま、ハヤトが小さく言う。

 

 

 『今度・・・ ミノリんち、遊びに行くから。』

 

 

 『ん。 いつでも・・・


  ・・・ねぇ。 お父さんがいる時がいい・・・?』

 

 

 

 『いや・・・ 


  まずは・・・ お母さんからで、お願いします・・・。』

 

 

 

 

ふたりの幸せな笑い声は、くぐもって響いていた。


愛おしむように互い顔をうずめて、いつまでもいつまでも抱き締め合っていた。

 

 

 

                         【完】

 

 


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