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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
ずっとそこにいた
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 私は母に、今日感じた視線のことを話した。

 聡はびっくりしていた。私の落ち着かない態度から、何かあると思っていたらしいけど、美咲の家で霊に遭遇するとは思ってもみなかったからだ。

「そんなことがあったのか」

「うん、美咲は全然気づいていないみたい。あの視線も、家人にいつも無視されている様子に慣れているってわかった。私が気づいて、霊の方が驚いてたみたい」


「そうか、それで見つめられちゃったってわけね」

 母が大きなため息をついた。

「あ、もしかして私、また連れてきちゃった?」

 時々霊たちは私を通り越して、敏感に感じる母に救いを求めるように着いてくることがある。


「あ、それは大丈夫。地縛霊だろうから、それはそんなに簡単にそこからは離れない」

「そうなんだ」


「その目って食器棚の中にあったのね」

「そう、コップをとったら一瞬だけ目がはっきり見えた。目じりにほくろまで」

 聡が、ひぇ~と口の中でつぶやく。父は、母のそういう話に慣れているから、知らん顔をしてカレーを咀嚼していた。でもちゃんと聞いているらしい。

「ふうん」

 母がなにかを考えていた。

 その間に聡はお替りをする。母が考え込んでいたから、私がご飯を盛り、カレーをかけた。意識して肉を大目に。私も聡に甘いのかも。


「あの家って、全体はかなり古いみたいだけど、あの食器棚がある応接間は最近、増築した感じで新しかった」

「ああ、だからあの部屋はよく冷房がきくって言ってたもんな」

 聡もその時の会話を思いだしたみたいだ。


「なるほどね、じゃ、元々そこにいた地縛霊だったのかもしれない」

 母はぎょっとするようなことを言った。

「それってさ、霊がそこにいることに気づかないで増築したってことよね」

「そう。しかもそこに食器棚を置いちゃったみたい」


「地縛霊って?」

 聡はずっと黙って食べていたが、二杯目もきれいに平らげ、満足したらしい。やっと口をきいた。

 それには母が答える。

「地縛霊っていうのは、亡くなった人がその地に憑りついてしまうこと。或は本人が死んでいるって気づいていないこともあるの」

「ええっ、そんなことって・・・・」

 かわいそうだと思った。


「あるの。病気で何年も伏せったり、あらかじめ死の宣告を受けた人はある程度、自分の死を受け入れられるんだけど、突然死、事故死なんかは自分の身に何が起こったのかわからない、覚えていないなんてことがあるの。だから、自分はまだ生きていると思っている霊、けっこういるのよ。特にこの世に未練があった人なんかは、無意識に死を受け入れられないんだと思う」


「じゃ、美咲の家にはそういう霊がいるってことなの?」

「さあ、ずっと昔のことならわからないけど。気になるんだったら、もう一度お邪魔してきたら? たぶん、今度はもっとよく見えると思うわ」

「え、そういうものなの」

 父は重いため息をついた。

「何だかこの夏は涼しげな話が多いな」


「奈緒が、そういう感覚に目覚める年齢に達したのかもしれないわね」

 母が私を見てそう言った。それはあまりありがたくない。

「覚醒の時か、なんか格好いいな」

 聡が茶化した。

 ゲームの世界なら確かに格好いいが、霊感が冴えてくるのってどうなんだろう。


「まあ、奈緒が霊感に目覚めて関わることで、その霊が未練を断ち切れたり、助けられるっていうことも起こるかもしれない。そういう運命の道を奈緒が自分で選んできているんじゃないのかな」

 淡々と父が意味深いことを言う。

 そうだ、何かの試練や苦難は、自分がこの世に生まれる前にシナリオとして書いてきた、というのが父、母の口癖なのだ。

 そう言われると受け入れられる気がする。


「わかった。頑張ってみる」

「そう、よかった。助けがいるなら相談してね」


「じゃ、オレは奈緒霊感探偵の助手ということで、へへへ」

と笑った。

「なによ、聡は全然霊感がないじゃない。助けにならないでしょ」

 少し抗議する。人の気も知らないでっ。

 しかし、母が言った。


「いいの、それでいいのよ。うちだってお父さん、霊感なしでしょ。そういう人ってね、実はものすごく強い。私達のような敏感な人たちを守ってくれる役目を請け負ってくれているの。いくら話しかけても聞こえない人にはもう寄り付かないでしょ、そんな感覚」

 ああ、そういうこと。

 そんなことを言われて、私は改めてサトシを見た。向こうも私を見ていた。

 なんだか、私と聡がペアのような言い方だ。


「お父さんなんて、霊たちに疎まれてる感じだもん。何をしても全然気づかないし、動じないからつまんないんでしょ。だから、お父さんと一緒にいるとそれほど寄りついてこないの」

「俺は厄除けか」

「そうかもね」

 父と母が顔を見合わせて笑っていた。

 ふうん、そういうものなのか。


「まあ、そのお友達、美咲ちゃんとこの地縛霊、なんとかしてあげて」

「わかった」


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