21 美貴
そしてあの夜、奈緒をうまく誘い込むことができた。
美貴は、自分の認証制のブログ読者がヘッドページの奈緒のアカウントに繋がれるように、リンクをはっていた。
だから、奈緒のページへ、大勢が訪れていた。
黒魔女を筆頭にして大勢の制裁を与えてくれる読者の念が、奈緒に流れて行った。
翌日、奈緒と聡が映画を見に行くことを知っていた。奈緒が現れるかどうかを知りたくて、その時間に美貴もこっそりと行ってみた。
奈緒はいなかった。聡も帰ろうとしていた。思わず、そのチケットを買う、聡と一緒に見たいとそう言っていた。美貴は黒魔術が成功したことを確信していた。
うまくいったことに気をよくしていた。だから、今まで以上に大胆に振る舞った。聡に奈緒のことを悪く言って、なんとか二人を別れさせようとしていた。
美貴は聡に、不安がるようなことを吹き込んだ。
美貴は、奈緒が本当に聡のことを好きなのか、疑問に思っていた。美貴なら毎日サッカーの練習を見て、どんなに遅くなっても一緒に帰る。そして毎日、聡のためにお弁当を作って渡すだろう。
あんなそっけない奈緒よりも美貴の方が、ずっと聡のことを思っているのだ。聡もそんな心に気づいてくれるはずだ。
映画には全く興味がなかった。聡と一緒にいられればそれでいい。一時の瞬間も無駄にしないように、顔はスクリーンに向けていたが、その目はじっと暗闇の中の聡を見ていた。
けれど、その映画の翌日、美貴は聡とのラインがつながらないことに気づいた。ブロックされている。なにが起こっているのかわからなかった。それは美貴を不安にさせた。
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連休の最後の日。美貴のブログに全く知らない人からメッセージが届いた。
その名は白魔女。
美貴さんへ、と誰も知らないはずの本名が書かれていた。恐ろしさに心が震える。
誰かが知っている。美貴を知っている人が、このブログを読んでいた。
【美貴さんへ
美貴さんのブログ、認証制ですが、勝手に読ませていただきました。身内にコンピューターに詳しい人がいて、私のヘッドページから、美貴さんのブログに行きつくことができました。
それで私の身に何が起こったのか、わかりました。黒魔女という人の存在も知りました。誤解しないでくださいね。私は別に、そのブログ自体を責めようということでメッセージを送ったわけではありません。それを先に言っておきます。
美貴さん、あなたは利用されているらしいのです。黒魔女という人は、美貴さんの味方で、美貴さんの敵とする人に次々と制裁を加えているように見えますが、実はそうではなく、黒魔女は美貴さんを利用して楽しんでいるだけなのです。
人の持つ妬み、怒り、ネガティブな念を集め、それを操作し、誰かに送るということは、生霊を飛ばすということ。
昔、人を恨んで、藁人形を夜な夜な操る、そんなに呪術に似ています。他の人たちの念を集めて、その代表となる美貴さんの生霊に加え、呪いとして送っているということです。
美貴さんはそのことをご存知でしたか。
人を呪うと、それはいつか自分に返ってくる、「人を呪えば、穴二つ」ともいうそうです。人を呪い殺せば、自分もやがて死ぬ。
今回のこのブログでは、黒魔女さんがすべてを指揮しているように思えますが、実は美貴さん、あなたの念を利用して、それを何十倍にも増やし、発信させているのです。このままでは、私が受けたものすごい呪いが、いつかは美貴さんに戻っていきます。
生霊は、生きている人の念が生み出すもので、その念に霊魂がこもるそうです。このままだと、美貴さんの生霊がどんどん大きくなり、いつか美貴さんの体は、抜け殻のようになってしまうでしょう。そうなると、低級霊や怨霊の類に体を支配されてもおかしくないとのことです。
私にはそういうことに詳しい身内がいて、教えてくれました。美貴さんが今すぐ、この生霊を飛ばすことをやめてくれれば、救われますが、もしこのまま続くようでしたら、私はお祓いをしてくれるところへ行かなければなりません。
美貴さんがこのブログをやめて、関心を他のことに向けてくれればいいのです。
怒りには怒り、恨みには恨みしか返ってきません。ただ空しいだけ。決して満足は得られないのです。目を覚ましてください。
すぐにでもこのブログが消去されることを祈っています。白魔女こと、奈緒】
奈緒からだった。知られてしまった。もう終わりだと思った。けど、続いてのメッセージを読む。
【美貴さんって、文才があると思います。このブログの巧みな文章に思わず引き込まれてしまいました。小説として何かを書いたらいいのではないでしょうか。たぶん、人気者になると思いますよ。そして、人は人、自分は自分らしく生きていきましょう。】
そしてさらに浄化方法も書いてあった。
あら塩は、波動が高く、悪氣を振り落して払いのけ、塩の結晶がそういうものを吸い取ってくれるとのこと。
毎日入浴して体を清潔の保ち、空腹や睡眠不足にならないこと。
明るく楽しく過ごせば、ある程度の念は自らの力で跳ね返せるそうだ。
ブログを見つかったらどうしようと思っていたのに、それを当の本人の奈緒に見つかっていた。けれど、奈緒の言葉は決して美貴を非難する言葉ではなかった。それが救いだった。
美貴も何かに憑りつかれていた気はしていた。それを諭されて、初めて目が覚めた気分だった。もう誰かに見つかるのではないかということにおびえなくてもいい。
美貴はその場で、ブログやヘッドページの自分のアカウントを全部消去した。
そして気持ちが落ち着いたら、奈緒の言う通り、架空の話を書いてみようかと思った。




