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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
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20 美貴

 そのコメントに戸惑いがなかったとは否定できない。けれど、この黒魔女は、美貴の心を傷つけた吉沢に、どんなふうに制裁を与えてくれるのだろうという好奇心の方が勝っていた。


【裏切られた感、すごく強いんです。あれからずっと眠れなくて】

 

 制裁を与えてくれとは書かなかった。しかし、するなとも言わない。

 黒魔女は、美貴のコメント返しを【YES】と受け取ったらしい。


【女性の心を踏みにじったこの人を、許せないと思う人は、「いいね」をクリックしてください】


 そう書かれていた。

 その後、美貴のブログは認証制だったはずなのに、夥しい閲覧者が訪れていた。それらの人が皆、「いいね」をクリックする。

 初めは怖かったが、その「いいね」は、美貴の味方だと思うと段々うれしくなっていた。

 そんなことがあった翌日、サッカーグランドに吉沢の姿がないことに気づいた。風邪をひいても練習を休んだことのないあの吉沢が、学校を休んでいるという。

 美貴は青くなっていた。これは偶然だったのか、それとも黒魔女は吉沢に何かしたのか、そんな考えがめぐる。


 その後の噂によると、寝過ごしたらしいとのこと。朝になっても起きてこない吉沢を母親が起こしに行った。けれど、死んだように眠っていてどうしても起きなかったのだという。

母親は特に深刻には考えず、夜更かしの末、起きられなかったのだと判断し、そのまま出かけてしまった。昼頃には起きるだろうと思ったらしい。しかし、吉沢が目を覚ましたのは、その日の夕方に近かったという。異常な眠気だったらしい。

  ただの偶然だったのかもしれないが、それから美貴はこの黒魔女に注目するようになった。


 その頃から美貴はいつも一緒にお昼を食べていた友達、山本佑香と疎遠になる。なぜかわからないが、向こうが美貴を避けていることが感じられた。喧嘩らしい喧嘩をした覚えはない。それなのに、向こうが美貴と一緒にいたくないと思っていることが伝わってきた。

 他の人からの風の噂で、美貴の愛想笑いが鼻につくと語っていたことを知った。

 佑香はずっといい友達だと思っていた。それならもっと早く直接言って欲しかったのに。美貴はショックを受けていた。


 次のターゲットは佑香だった。ブログに、佑香が美貴を苛めていると書いた。黒魔女はすぐに同じような制裁宣言を下した。そして、再び夥しい数の足跡。その時、佑香とはラインで繋がっているかと聞かれた。まだ、その時は繋がっていたから、「イエス」と答えた。

 そして、その翌日。吉沢の時と同じように、佑香は学校に来なかった。二日ほど学校を休んだ。やはり、ずっと眠り続けたらしい。無理に起こされてもぼうっとしていて、体に力が入らなかったとのこと。

 特に苦しむとか、痛いとかではなく、ただ異常に眠り込んでしまうだけ。


 美貴は、それは偶然ではないと確信した。その黒魔女にメッセージを送った。これは呪いなのかと。

 黒魔女は【世の中には不思議な事がいっぱいある。たまにそういうこともあるでしょう。私達はあなたの味方】

 そういう返事が返ってきた。


 そんなことが恐ろしくもあり、その反面、心強い味方を得た安心感も感じていた。

 美貴に楯突く者に制裁を与えてくれる守りの黒魔女。

 もうブログに架空の話を書く必要はない。直接、この人が気に入らないと書くだけで、黒魔女は制裁を与えてくれた。


 次は礼香に矛先を向けた。佑香と疎遠になった美貴はお昼を一緒に過ごす相手がいなくなった。他の人の目から隠れるようにして、一人でご飯を食べる淋しさ。心は通じていなくても誰かと一緒にいる安心を求めていた。

 そんな時、それほど親しくはなかったが、ちょっと顔見知りの香織が一緒に食べようと誘ってくれたのだ。そのグループに、この礼香がいた。


 礼香は、いつも冷静で、美貴の本心を見抜いているかのようだ。人の話を聞きながら、顔は笑っていても心の中ではバカにしていたり、妬んだりしていた美貴。この人が二日くらい休んでくれたら、お昼の時間が楽しくなると思った。

  けれど、残念なことに礼香には利かなかった。それどころか、ますます美貴に対して嫌悪感を露わにしていた。


 黒魔女に、礼香には何の影響もなかったと訴えた。向こうは、悪びれる様子もなく、たまにそういう人もいるとそっけない返事をもらった。

 基本的に、相手がスマホなどを持っている人の方が受け取りやすいらしい。スマホやパソコンがなくても、念は飛ぶが、スマホがその受信機となり、本人に直接伝わりやすいとのこと。

 礼香は変わり者で、携帯電話すら持たない主義。さらに他人に媚びない、自分に強さのある人だった。


 美貴は、そういう現象を不思議に思い、念に関することを調べた。電波、電気、インターネットのようなものは、その電波に乗って、人の念も飛びやすいということを知った。

 ホラー映画でも、スイッチの入っていないテレビがオンになったり、気味の悪い画像が映ったりするシーンを見たことがある。ラジオからあり得ない声が聞こえてきりするような現象や、電気がパッと消えてしまう怪奇現象シーンも見たことがあった。


 そして、霊的なものを感じやすい人は、テレビの悲惨な映像やニュースからもネガティブなものを感じ取るらしい。それらは言霊と同じような作用をしているから、メールやラインなどにも気をつけた方がいいとのことだ。


 黒魔女は、ネガティブな念を集め、黒魔術をおこなっていたのだ。


 礼香に黒魔術が利かなかったことに、美貴はイライラしていた。今度はその矛先を奈緒に向けた。別に誰でもよかったのだ。礼香と特に仲がいいし、奈緒のボーイフレンドが吉沢と同じサッカー部の聡だとわかり、その幸せを壊してやりたいと思った。


 聡もいい感じだし、人気もあった。口では、美貴はバスケ部の一人に夢中ということになっていたが、本命は聡にすることに決めた。


 美貴は久しぶりにブログを書いた。

 新たなる恋、そして横恋慕する奈緒。認証制のブログなのだからと、もうややこしい偽名を使わず、実名で書いていた。奈緒を、表面的には親切でかわいいが、その心の中は性悪女で、嘘をついたり、人を騙してまで聡を誘惑していくという話になっていた。すぐに読者は奈緒に怒りをぶつけ始めた。


 奈緒には何の恨みもない。ただ、うらやましかった。いつも友人に囲まれて、楽しそうにしている。注目されているボーイフレンドもいた。一生懸命に尽くし、しがみつかなくてもお互い信頼しあえる、そんな友達と彼氏がいることを。

 人の幸せを妬み、幸せそうにしていた人の顔が曇ることを楽しみにするようになっていた。それは、他人に美貴と同じような不幸を味わせ、不幸を共感できるという楽しみ。


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