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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
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19 美貴

 吉沢に会釈をすると向こうも驚いた顔をして、ぺこりと頭を下げた。

 吉沢が真っ直ぐ美貴の方へ歩いてきた。

 ドキドキした。


「こんにちは、あ、今晩は、か」

 そう言って笑ってくる。好奇心旺盛な目だ。

「こんばんは」

 美貴もそう返した。


「ねっ、なんで? 家、この近く・・・・じゃないよね」


 吉沢にしたら当然の疑問だろう。美貴はそんなことよりも自分の顔を覚えてくれていたことがうれしい。もうその時の美貴は、ブログの中の主人公と化していた。

 つきあっているという設定の、最愛のボーイフレンドに向ける笑みを浮かべた。

「この近くに従姉の家があって、それでよく遊びにくるの。すごく仲がいいから」

 普通の町の中ならそれで納得してくれたと思う。しかし、吉沢の住む地域は小さい町だから、近所の住人のことを知っていた。怪訝そうな顔で美貴を見る。


「へえ、誰だろう。この近所の人だったら、オレ、知ってる人かも」

 そんな会話になるとは思ってもみなかった。美貴は無理やり現実に引き戻されていた。返答につまるが、素早く答えないと変に思われてしまう。

 咄嗟に言った。


「あ、もうずっと年上のお姉さん。だから、吉沢君は知らないと思う」

 それでもどこの家と聞かれたら、どうしようと思った。

 しかし、吉沢はふっと顔を緩める。いつもファンの女子たちに向ける笑みをみせて「そうか、そうかもね。じゃ」と言って、買い物を始めた。

 美貴も「うん、じゃあ、また学校で」というのが精いっぱいだった。持っていた雑誌を買い、逃げるように店を出た。


 危なかった。まさか、あそこで吉沢に気づかれるとは思ってもみなかった。しかし、直接話すことができた。

 それがうれしかった。その日のブログでは、吉沢の家へ行き、母親の手料理でもてなされたと書いた。そして彼の部屋で二人きりになる、その先は・・・・。


 そんなことを考えて、美貴の胸が熱くなった。キスまで許そうかと思ったが、ここでの美貴は清楚な、ちょっと世間知らずのお嬢様タイプだ。

 簡単に許してはいけないと思う。そうだ、急に吉沢が抱きしめて、顔を近づけて来たから、驚いて思わず吉沢を押し返してしまうことにしよう。そして吉沢が「ごめん」というのだ。そしてこの日はそのまま帰る、そんなストーリー。でもこの次は・・・・・・。


 いつの間にか、美貴のブログの読者が三桁になっていた。嬉しい反面、いつかは誰か知っている人に読まれてしまうかもしれないという不安もあった。

 それでそのブログを認証制の公開に切り替えた。今の読者は無条件で認証した。そしてこれから美貴のブログを読みたい人は、まず申請してもらい、美貴が調べたうえで、知っている人ではないと確認してから認証した。

 そんな面倒なブログになっても毎日必ず数人が認証申請をしてきた。

 美貴のブログを読みたいと言ってくれる。ちょっとした売れっ子作家になった気分だった。


 吉沢に声をかけられてから、また、二、三日おいてコンビニへ行く。

 今度は周辺の家を調べていた。もし、また従姉の家を聞かれたら、川向こうの新しいマンションだと言えばいい。古くから住んでいる家なら、吉沢も知っているだろう。けれど、マンションに引っ越してきたということなら、吉沢が知らなくても納得してくれるだろう。


 しかし、吉沢は現れなかった。その夜は十時頃まで粘ったが、来ない。その翌日も待った。

 おかしいと気づき、今度は吉沢の家を見張った。すると全く別の方向から吉沢が自転車で現れた。しかも別のスーパーの袋にドリンクとお菓子が入っていた。

 避けられたとわかった。もうあのコンビニにはこないだろう。吉沢は、どこか別の店で、いつも買う夜食を買うことにしたのだ。


 さらに吉沢は、美貴が見ていることに気づいても無視するようになった。以前は美貴と意識しなくてもまんべんなく目を向けてくれていた。けど、美貴がそこにいると、誰もいないかのように目も向けなくなったのだ。


 美貴はショックを受けていた。その他大勢のファンの一人でよかったのに。吉沢はファンの一人としても考えたくない様子だった。

 吉沢は美貴の心を傷つけた。

 再び、母が美貴を置き去りにして出て行ったときのあの感情が現れた。せっかく立ち直ったのに、せっかく楽しくやっていたのに、なぜ、美貴ばかりがこんな目に合わなきゃいけないのか。


 周りの友人たちはいつも楽しそうだ。幸せな家庭環境にいて、他愛のないことで悩み、騒いでいる。誰一人、美貴のように胸が張り裂けそうな裏切りを味わったことなんてないだろうと思った。


 かわいさ余って憎さ百倍という、ことわざの通りだった。一時の幸せ感が余計に惨めに思えた。

 美貴はブログで、吉沢に怒りをぶつける。


 吉沢には他にも彼女がいたという設定にした。しかもそれが発覚したのは、その彼女が妊娠して、その両親が学校へ乗り込んできたということだ。実際にはそんなことがあるはずがない。しかし、美貴の読者はコメントに、吉沢を非難することを書いてくれた。みんな、美貴の味方なのだ。


 その時、いつも読んでくれている一読者がコメントを書いてくれた。


【この人、許せないなら、制裁を加えてあげる】


 その人のハンドルネームは黒魔女だった。

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