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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
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18 美貴

 そんなつらい結論が出ると、不思議に心が落ち着いた。どん底にいたのかもしれない。

 もうそれ以上の愛情を求めなければ、与えられなくても心は痛まないということを知った。期待をするから裏切られるのだ。最初から期待をしなきゃいいのだ。


 それに父との生活、最初に考えていたよりも悪くはなかった。

 父は、洗濯は自分でするし、ワイシャツなどはクリーニングに出している。食事は外で済ませてくるから、毎日の世話をする必要はなかった。

 美貴は自分の身の回りのことと、気づいた時に家の掃除を簡単にすればよかった。それさえ、さぼったとしても父は何も言わない。


 四人が住んでいた時はそれほど広いとは思わない一戸建ての家。今は父が夜遅く帰ってくるまで一人きりだ。十分すぎるほどゆったりとした空間だ。

 それに父は生活に必要なお金はくれるし、学校のためというと万単位でポンとお金をくれた。

 それが父にできる精一杯の愛情だったのだろう。そうすることで親の責任を果たしていると思えたのだろう。


 今まで母に買うことを渋られていたパソコン、そしてスマホも買ってくれた。美貴は、自分でも大げさだと思うほど喜んで見せた。すると今まで笑顔なんか見せなかった父の顔がほころんだ。父も淋しかったんだと思った。父は美貴たちに対して無関心だと思っていたが、ただ不器用で、どういうふうに家族に接していいかわからなかっただけなのかもしれない。


 美貴は母が気づけなかった父の優しさがわかった気がした。それと同時に今度は嫌悪感が母と妹に向けられた。こんな父を一方的に傷つけた母を許せなかった。

 父は美貴の味方だ。母と妹は敵。


 一人でいる生活に慣れてきた。多少、遅く帰っても叱られない。父が帰宅していないことが多いので、いつでも好きなDVDを大音響で見ることができ、何時間でもパソコンに向き合える、そんな自由な生活が快適だと思うようになった。


 美貴はサッカー部の吉沢が好きだった。

 サッカー部のエースだったし、背がすらりとしていて顔も人気アイドルの誰かに似ていた。そんな吉沢だから、ファンが大勢いた。美貴はその他大勢の一人で、ひっそりといていることで満足していた。



 そのうちに、美貴はブログを書くようになった。ブログでは、嘘を書くつもりはなかったが、誰も本当の美貴を知らない。多少、大げさに書いても、事実を隠していてもいいだろうと思った。


 ブログの中で美貴は、大勢のファンの中から吉沢に選ばれ、告白されたヒロインになっていた。人気者のボーイフレンドがいることのうれしさ、そしてその誇り。もちろん他の女子から嫉妬による意地悪もあるが、そんなことは気にしない大らかな女の子。

 もちろん、すべて仮名で、知り合いが読んだとしてもわからないように書いたつもりだ。


 ブログを始めた当初は、ちょろちょろと読者がついた。誰にも関心を持たれないことに慣れていた美貴にはうれしいことだった。こんな自分のブログ記事を読んでくれた人に親しみを感じ、美貴もその人たちのブログを読み、コメントも書いた。交流とはこういうことから始まる。

 ブログは毎日書いて更新していた。ブログ上での交流は、学校で顔を合わせている友人たちよりもはるかに楽しかった。


 そんな時、読者の一人が彼氏になっている吉沢のことを質問してきた。家族に紹介してもらったのかと。

 ブログでは学校でのこと、休日のデート、美貴の家まで送ってもらう道中でのことを詳しく綴っていたが、美貴は吉沢の家がどこにあるのか、どんな家なのかは知らなかった。

 そうだ、リアリティを求めるなら、吉沢の家を見に行った方がいいと考えた。


 吉沢の家を調べ、その家に招待される展開にするつもりだった。もうそろそろブログ上の二人は、初キッスを体験するという展開になってもいい頃かもしれない。そんなことまで想像して、胸が躍った。


 吉沢の家は遠いと聞いた。普通ならバスで通う距離だが、吉沢は体力づくりのために自転車で通っていた。

 美貴は吉沢の家の住所を手に、バスで行き、探した。けっこう田舎の町だが、奥まったところにある立派な家だった。庭も広く、ちょっと近づいて家の中を覗けるような家ではない。


 美貴はその家の写真を撮り、その二階の部屋を吉沢の部屋に見立てることにした。それだけでもう充分なほど美貴の想像力をかきたてた。

 帰ったらまず、吉沢の家の間取りを決めよう。そして吉沢の部屋も想像して・・・・・などと考えながら、バス停に戻った。想像することも楽しみだった。


 バスを待っていた。そのバス停の向かいにコンビニエンスストアがあった。何気なくそちらに目を向けると、その前に見慣れた吉沢の自転車が止っていることに気づいた。

 美貴の鼓動が跳ね上がった。店内を見ると、吉沢らしい影が動いている。そしてドリンクやスナック菓子の入った袋を手にした吉沢が店から出てきた。そのまま、自転車に乗り、行ってしまった。


 美貴の方を一度も見なかったから、気づかれてはいないだろう。

 そうか、ここにいれば吉沢に会える、そう思った。


 サッカーの練習も毎日見ていた。暗くなると終わる。その様子から真っ直ぐに家に帰る時を狙って、美貴もバスに乗り、吉沢の家の近くのコンビニへ通った。


 制服のままだと目立ちすぎるから、美貴はいつも私服を用意するようになった。一足先にコンビニに入り、雑誌を読むふりをする。もちろん、毎日吉沢が店に寄るわけではなかった。時間的に家へ帰ってしまっただろうと思うとあきらめて帰ることにした。しかし、吉沢が入ってくると美貴は幸せでいっぱいになった。その同じ空間にいられることがうれしかった。


 吉沢がいつも買うのはコーラとチップス系のお菓子。たまにハンバーガーも買う。夜食なのだろう。コンビニの店員にも笑顔で会話している。常連だし、近所の人なのかもしれなかった。


 吉沢は、美貴の顔を知らないと思い込んでいた。ファンの中の一人だし、実際の美貴はおとなしく目立たない。それでも吉沢が店にくると背を向けて、大きな窓に映るその姿を目で追っていた。


 その日は他の客がいなかった。だから、窓際の雑誌に目を落とすふりをしていた美貴に、吉沢が気づいた。

「あれっ」

 その声に美貴も顔をあげた。吉沢がこっちを見ていた。

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