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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
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16

短いです。

「そういうことを聞いていた子だから、一瞬ひいたんだ。金なんか要らないから、チケット、あげるって言ってすぐに帰ろうとした」


 うん、その方がいい。


「けど、一緒に見ようって言われた」

 私は聡の顔を見る。断わり切れなかったらしい。聡の顔に申し訳なさと後悔の色がうかがえた。

「オレ、また後日、奈緒と来るからって言ったんだ。けど、あの子、強引で、しかも・・・・・・奈緒が来られなかったことを意味ありげに言うんだ。仮病かもしれないって」


「それってどういうこと?」

 なぜ、美貴がそんなことを言うんだろう。聡もなぜ、そんな美貴を振り払って帰っていかなかったのか。


「あの子さ、奈緒が具合が悪くて来られなかったのは嘘臭いって言い始めた。前日まで元気にしていた、しかも夜遅くまで起きてたこと、知ってたらしい。そいで、奈緒を見ていると、オレのことを本当に好きなのかわからなくなるって」

 何だろう。なぜ、そんな言い方をするんだろうか。

 聡も私の怒りを感じ取っていた。


「ひどいだろう。オレも頭に来て、もう映画なんかどうでもいいから帰ろうと思った。けど、奈緒が密かに考えていることを教えてやるからって、・・・・そのまま映画館へ引っ張られたんだ」

「じゃあ、聡は美貴さんと隣同士で映画を見たのね」


 聡はバツの悪い顔をしたが、うなづいた。

「仕方ねえよ。周りにはいつもの奈緒の友達がいたし、映画館の前で言い争うことってしたくなかったし。あの子の気がすめば解放してくれるかって思いなおしたんだ。だから、だよ。勘違いすんな」


 そんなジェラシーは二の次だった。


「その子、ポップコーンを買ってくれたから、オレはコーラを奢った。一方的に奢られたくないからなんだけど、彼女、本物のデートみたいだってはしゃいでて、礼香たちにすんげえ目で睨まれた。たぶん、あいつら、オレを非難するようなこと言ってくると思うけど、こういう事情があったんだからな。あっちの言うことを鵜呑みにするなよ」

「わかった。それで?」

 美貴がなんて言ったのかを知りたかった。


「奈緒が、オレのことを本当に好きじゃないっていうんだ。サッカーの練習も全然見ないし、今日だって多少具合が悪くても、約束したんだから来るべきだって。私なら這ってでも来るって言われた時はぞっとした。この子、やべえって思った」


 美貴は聡のこと、好きだったのか。それで私が聡に夢中になっていないように見えたから歯がゆかったのかもしれない。自分ならもっと聡に向き合うと。


「奈緒は、つきあうんだったら誰でもよかったんだって、たまたま近くにオレがいたから、ボーイフレンドってことになってるけど、本命が現れたらすぐにそっちへ目を向けてしまうだろうって言ってた。オレが急に下級生の注目を浴びているからとどまっているけど、すぐに離れていくだろうってさ」

 そう、時々美貴はそんな冷たい目で私を見ていた。それに今やっと気づいた。


「オレ、映画、全然覚えていない。隣に座ったその子の存在感、半端じゃなかった。そして、閃光が走るシーンで一瞬、映画館が明るくなった。その時、オレ、気づいたんだ。あの子、映画なんて見ていなかった。あの子、顔はスクリーンをむいていたけど、目だけは、オレを見てた。ぞっとした」


 聡は本当に怯えていたみたいだ。もうあんな思いは二度としたくないと語るように、遠い目で言った。

 美貴に、そんな激しい部分があったなんて知らなかった。いつも人の話を聞いて相槌を打つ。いいな、うらやましいって・・・・・・。


 そうだ、生霊は美貴だ。


「ねえ、美貴さんとラインとかで繋がってる?」

「あ、うん。映画の後、ごめん、断り切れなかった」

 やはりそうだ。美貴は私とも、そして聡とも繋がった。


「私に生霊が憑りついてるんだって、母が言ってた。その生霊はたぶん、美貴さん」

「えっ、生霊って・・・・・・」


「生きている人の念が、人に憑りつく霊のこと。私は特に人よりも敏感だから、こうなっちゃったみたい」

「って、身体が動かなくなったってことか?]


「うん、全然、身体に力が入らなかった。朝起きて、変だって気づいたの。何とかスマホで母を呼んだ。手に力が入らなくなって、瞼も開かなくなっちゃった」

 聡が幽霊を見るような怯えた目で私を見ていた。


「でも、もう大丈夫なんだろう」

「今はね、ここにいる限りは大丈夫らしいの。けど、学校に戻れば、たぶん、またまとわりつかれるだろうって」


「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「わかんない。母と叔母がなんとかしてくれると思うけど」


 そう、私にもわからなかった。もし、美貴の呪縛が解けなかったら、どうしたらいいんだろう。美貴のいないところへ行って、密かに暮らすのか。もう絶対にスマホを持てないのか。

 普通に暮したいだけなのに、なぜ、こんなことになってしまったのか。


 泣くつもりなんてなかった。けど、涙が出てきて、そのうちに止らなくなっていた。

「ごめん、聡。どうすればいいかわからない」


 聡は私の肩を抱きしめてくれた。暖かい体温と安心させる何かに包まれた。

 私には聡がいる。その存在が何よりもありがたかった。

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