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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
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12

 部屋へ戻る。まだ、男性軍はお風呂から戻っていない。

 そこへ仲居が顔を出した。

「もうそろそろ、お支度を始めてもよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」と母。


 仲居が料理を乗せたワゴンを引っ張ってきて、手早く料理をテーブルの上に運んだ。

 見事な魚の活けづくりが中央に置かれ、香の物、汁の椀、銘々に置かれた小さな鉄板には、バターと大きなホタテが用意されている。

 よく見ると六人分だった。

 私がそれに気づき、それを問うように母を見た。母は私の視線に気づいても何も言わず、含み笑いをした。


 なんだか今日の母は、私に内緒のことが多すぎる。


 そこへ父たち、男性軍が戻ってきた。

「遅くなってごめん。いい湯だったな。あ、もうメシか」

 父が嬉しそうに言った。


 その後から雄一郎叔父さんが入ってくる。

 そして・・・・・・。その後から入ってきた浴衣姿の人を見て、私はあっと声をあげていた。

 六人目。それは聡だった。

「よっ」

 私と目が合い、少し照れたような顔をした。


 聡は、旅館の浴衣を着ているが、普通のМサイズらしく、つんつるてんで子供のようだ。

 でもなんで聡がここにいるのだろう。


 私は母を見た。しかし、母はもうグラスにビールを注いでいた。

 今、その理由を聞いたところで、また、後でとかわされるのだろう。私は諦めて再び聡を見た。

 聡が私の向かいに座った。

「今日はごめん」というと、「いいよ」とだけ返ってきた。


 父たちはビールで乾杯。聡と私はジュースで乾杯した。

「奈緒が男を連れてくるなんて、想像しなかった。私達も年、とったよね」

 叔母がそんな言い方をするから、私は真っ赤になっていた。


「いただきま~す」

と、みんなで手を合わせる。

 私はすぐさま刺身に箸を伸ばした。今日はおにぎりを食べただけで、お腹はペコペコだ。


 ふと、横にいる叔母の動作が止ったままだと気づいた。叔母だけまだ手を合わせていた。

 そう、叔母はいつも食べる前に他の人よりも時間をとっている。

 叔母が私の視線に気づいた。にっこり笑う。

「いいんだよ。奈緒。食べてて」

「うん、でも・・・・・・」

 叔母が涼しい顔をしてマグロの刺身に箸をつける。それを口に運んだ。

「おいしいっ。やっぱりおいしいね」


「ねえ、叔母さん、ずっと昔からそうだったよね。いつも叔母さんだけ長く・・・・・・。なにか祈ってるの?」

 私は叔母だけが別の宗教を持ち、人よりも長くお祈りをしているのかと思ったからだ。

「奈緒もそんなことが気づくようになったんだ」

 そして母に目を向けた。それは話してもいいかという許可のよう。母は即座にうなづいた。


「私って、共感能力、強いの。ここにいる誰かが頭が痛いって感じていると、それが伝わってきて、私も頭が痛くなる」

「えっ」

 そんなこと、初めて聞いた。

「それは誰にでもある能力なの。怒っている人の近くにいるとイライラしちゃったり、せっかくの楽しい気分が台無しになったりするのもそういうこと。嬉しいことがあった人といるとこっちも笑顔になるのも同じ」

「へえ」

 それはわかるけど、それがなぜ、食べる前のお祈りに繋がるのか。


「生き物にも感情がある。特に体の大きい豚や牛は人並みにある。私は肉が食べられない。そういう動物が肉にされるその直前の恐怖と痛みが伝わってくるの」

 私はそれを聞いて、刺身をつまんだまま、止ってしまった。

「あ、ごめんね。大丈夫よ」


 父と叔父はそういうことを知っていたようで、気にしないでパクパク食べていた。聡もギョッとしたらしく、箸が止り、くいいるように叔母を見ていた。同じ心境のようだ。


「人に育てられた家畜ほどかわいそうなものはないわね。人を信頼していたのに、大きく育ったら肉にされて食べられるんだから。そういう家畜には名前をつけないって聞いたことある」

 そんなふうに考えたことなんてなかった。家畜の方から考えると人間って恐ろしいと思う。


「じゃあ、叔母さんは肉を食べると、その牛や豚が肉になるときの感情がわかっちゃうってことなんだ」

「そう、今はそれを浄化する術を知っているけど、敢えて食べようとは思わない。以前はそれを知らないで食べていて、アレルギー反応やアトピーになって出てきてた。体は正直だからそういうふうに現れるの」


「魚も? ここに刺身にされた魚も釣られた時の悲しみとか持ってたりするんですか」

 聡も気になったようで、そう問う。

「魚は、牛や豚より意識は薄いの。だから、それほど残っていないんだけど、この活けづくりはちょっとね。まだこの魚、生きている、海へ戻りたいって意識が残ってた」

「えっ」

 怯んだ。目の前の活けづくりを見つめる。


「大丈夫。もう浄化されてる」

「浄化って、叔母さんがしてくれたんだ」

 これからその浄化の方法を教えてもらって、食べる前には必ずやろうと思っていた。

 叔母はまるで魔法使いのようだった。


「あはは、違うよ。皆が普段やっているじゃない。私がわざわざ浄化しなくても大丈夫」

「え、私、そんな魔術、知らないよ」

「やだ、魔術だなんて。自然に奈緒たちも言ってたでしょ。いただきますって」

 ああ、・・・・・・。

 私も聡もそれに気づき、アホのようにぽかんと口を開けていた。


 なるほど、日本人ってそういうふうに日常的に浄化をおこなっていたんだ。

 いただきますという言葉には、あなたの精一杯生きた命、有難くいただきます。私達の糧になってくれること、感謝します、みたいな意味があると聞いた。なるほどと思った瞬間だった。


 父と叔父が、地酒に切り替えた。今夜はトコトン飲むつもりらしい。母と叔母は相変わらず、ビールを楽しんでいる。

 叔母が感心するように言った。

「まあ、みごとにニュートラル男たちがそろったわね」

 叔母の言い方に母が笑った。

「ニュートラル男?」


「そう、私達のように霊感の強い女性には必要不可欠な人ってこと。この人たちがいると霊感断熱材のようにクッションになってくれたりするの。時と場合によっては、霊が寄ってこないこともある」

 ああ、それは母も言っていた。


 父は霊感がないから、そういうモノからの影響を受けないって。いくらアプローチしても相手にされなければ霊たちも面白くないし、わかってもらえないから寄り付かないということ。ガードマン的な存在。

「そっか。聡もそうだったね」


「そうよ。見事にニュートラル。大切にしないとね」

「うん」

 叔母にそう言われて素直にうなづいたが、その言葉には結構深い意味があると気づいていた。



共感能力、エンパスとも言います。

割とこの能力は多くの人が持っているそうです。私の友人にも二人います。そのうちの一人が、肉を食べるとその動物の最期の感情がわかると言う人。

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