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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
23/36

 翌朝、鉛のような目をやっと開けた。

 スマホの目覚ましアラームが鳴っていた。いつもなら、こんなものに頼らなくてもすぐに起きることができたのに。


 頭が泥水を吸ったかのように重く、枕に吸い付いているみたいだった。私はやっと手を伸ばしてスマホを取り、アラームを消した。枕もとに置いてあったスマホを取るのにも時間をかけていた。思うように手が動かなかったからだ。

 まるで運動しすぎた後、力が抜けてしまったかのような、あんな感じだ。それにかすかな痺れもある。手の感覚もかなり鈍い。


 体が起こせなかった。母を呼ぼうと思った。

 時間からすると慌ただしく支度をしているころだ。もうすぐ父と母は伊豆へ車で出発するのだ。

 震える手で、スマホを操る。母への携帯へ電話していた。


【はい、奈緒? どうしたの、もう私達行くわよ。起きてきなさい。最後にもう一度戸締りのこと、確認したいから】


「おか・・あ・・・・」

 声も出なかった。


 手の麻痺がどんどん進んでいた。

 私の手は、もうスマホすら持ち続けることができなかった。コロンと床へ転がった。


【奈緒、ふざけてないで、返事しなさい。お母さんたち、もう行っちゃうわよ】


 震えがきていた。寒い、寒くてたまらない。


 やっと母が私の異変に気づいてくれたらしい。バタバタと慌てて階段を上がってくる音がしていた。、


 ありがたい、耳だけはまだ大丈夫だった。瞼を閉じた。もう開けていられなかった。


「奈緒、入るよ」

 その声と同時にドアが開く。母が入ってきたらしい。


「奈緒っ」

 母の悲痛な叫び。尋常ではない私の姿に驚いたらしい。

 私を抱き起こすけど、私の体は力が入らないから、首はぐったりとしていて、ただ、されるがままだった。


「お父さん、お父さん、来てっ。奈緒が」

 母が叫ぶ。父も慌てて階段を上がってきている。

 父も私の異常な姿に息を飲んているみたいだ。


 私を抱き起こしている母から、ムスクの香りがしていた。この香りって昔から遠出をするときに、母が好んでつけている。父もきっとお気に入りのシャツに、今日は取って置きのベルトをしているに違いない。

 そんなことをのんびりと思っていた。


 そうだ、今日は二人とも伊豆へ行く。親戚の法事に出席して、このまま伊豆の旅館に泊まるのだ。

 それなのに、私がその出がけにこんなことになっちゃって・・・・・・。

 申し訳ないな、と思う。


 口もきけないし、目も開かなかった。耳も聞こえなくなったら、どうなるんだろう。きっと私って今が朝なのか、夜なのかわからないだろう。そして寝ているのか、自分が起きているのかもわかんなくなるのかな。


 これは夢? 現実? よくわからない。


 父が私を毛布にくるんで抱き起こしていた。そのまま部屋を出るらしい。

「母さん、病院へ。奈緒は一体どうなっちゃったんだ」


 父はすぐに口をつぐんだ。母がしっと言ったからだ。何も言わないで、このままここを出ようと囁いた。


 こつんという音がした。


「あ、奈緒のスマホ」


 父が私のスマホを蹴ってしまったらしい。しかし、母がぼそりと「あんなもの」とつぶやいたのを私は聞いていた。


 スマホ、持ってきてほしい。あれが私と友達を繋ぐ物だから。

「ん?」と父が問い返した。

「しっ」と母がまた何も言うなと制していた。


 私の部屋を出たみたいだ。

 母がブツブツと口の中で何かを唱えていた。


 私は、母が何をしているのかを知っている。私の部屋に結界を張っているんだ。


 春休みに旅行をし、泊まったホテル、ものすごく嫌な感じだった。ちょっとしか霊感のない私でも、感じられた。母にはもっといろんなモノがクリアに見えていたらしい。その部屋に結界を張ったのだ。式神と塩、そしておまじないのような言葉。


 それ、教えて欲しいって言ったけど、これはむやみに言う言葉じゃないって突っぱねられていた。

 ホテルっていう所はいろいろな人が泊まる。特にベッドや枕は、前に寝た人の念が残されていることが多い。

 いつもは母が、軽く枕をパンパンと払って、そういう念を落としていた。それだけで充分だったのに、その部屋には強いモノが集まっていたらしい。本格的にやったのはその時だけ。


 そして今、私の部屋に結界を張っている。一体何が起こっているんだろう。

「さ、いいわ。行きましょう」

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