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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
20/36

 翌日の放課後、私はサッカーグランドがよく見えるところに座っていた。その前をランニングしている聡たちが通り過ぎる。意外そうな顔でこっちを見ていた。


「今日、練習、見てるから頑張ってね」

 そういうと、聡が振り返り、手を振った。

 うれしそうだった。周りもヒューヒューと冷やかしの声を上げる。よかった。美貴の言う通りだった。聡も見ていてほしいのだ。


 けれど、・・・・・・試合や練習試合などは見ていても楽しいが、練習は割と単調でつまらない。たまにシュートの練習をしていたが、その時目を上げるだけで、私はスマホを見ていた。

 最初は聡のかっこいい姿を撮ろうと考えていた。けど、思うような写真は撮れない。そのうちにラインをチェックし、誰かが送ってくれたおもしろい画像を見て、知らないうちにネットサーフィンをしていた。


 ふと気づくと辺りは薄暗くなっていた。いくら天気のいい日でも外でじっと座っていると体が冷えていた。ズキリと頭の奥が痛んだ。


 聡が走ってくる。

「奈緒、もう帰っていいぞ。オレ達、もう少ししたら練習、終わるけど、この近くのお好み焼き屋でミーティングだ。奈緒も食べたいんなら一緒に行ってもいいけど・・・・」


「あ、いい。帰る」

 即答していた。

 聡と二人なら行くが、男の子ばかりの中に入っていくのはいやだ。


 その夜、聡からメッセージ。

【今日、練習、見ててくれてありがとう。けど、無理しなくていいぞ。奈緒が見ててくれるのは嬉しいけど、いいとこ、見せなきゃって力んでたし、長くて退屈だったろう】


 聡にはわかっていたはずだ。私がずっと聡を見ていたわけではないことを。それを咎めずにいてくれる。なんか、急に恥ずかしくなっていた。形ばかりの応援、そんなの全然、心がこもっていない。まだ、そこにいない方がずっと良かったかもしれないと思った。


 朝、起きると頭がボーっとしていた。いつものように寝ているのにすっきりしなかった。そして時々頭の芯が痛む。風邪でも引いたのかもしれない。今夜は早く寝ようと思った。


 学校でもボーっとしていた。先生にさされても後ろに人がつついてくれるまで気づかないでいた。どうしたんだろう、私。


 ランチはまだ食堂に来ていた。また、美貴の顔がある。

 美貴はいつもよりも晴れやかな顔をしていた。なにかいいことがあったのかも。

「ねえ、奈緒さん。昨日、サッカー部の練習、見てたね。っていうか、里中君を見てたんだよね」

 そう言われ、まあねと無理して笑った。その時、ズキリと頭が痛んだ。


 礼香が私の体調の悪さに気づいていた。

「どうしたの、奈緒。具合悪そう」

 他のみんなも心配そうに見ていた。

「あ、大丈夫だよ。夕べ、よく眠れなかったの」


「なにか、悩んでるの?」

 いきなり、美貴がそう問いかけてきた。

 よく眠れない、イコール、悩みに繋がるってことが驚いた。

 他の人もそういう反応をしていた。


「奈緒に悩みなんてないでしょう」

「似合わないよ、せいぜい、眠れないって、ゲームのし過ぎでしょ」

 口々にそう言われた。


「そうだよね。今の奈緒、充実してるもん。聡くんとラブラブだし。あ、さては夕べ、遅くまで電話してたとか、それで興奮していて眠れなかったとかでしょ」

 優衣が茶化す。

 それは否定できないから、また頭痛を覚悟で笑った。


 こっちの笑いでは、頭痛が起こらなかった。むしろ、落ちていた波動が上がってきていた。癒された。

 ほっとしていた。皆のおかげで少しだけ気分がよくなっていた。食欲もなかったが、なんとか食べられそうだ。

「ちょっとなんか、買ってくるね。先に食べてて」

 そう言って席を立った。他のみんなはすでにお弁当を広げていた。

「私もつきあう」

 礼香がついてきてくれた。


 食券を買って、カウンターの向こうにいるおばさんに渡すと、梅、昆布、ツナマヨのおにぎりとみそ汁のセットのお盆を受け取った。

 その横の箸を手にしたところで、礼香がそっと言ってきた。


「ねえ、あの美貴って子、私、好きじゃない。なんであの子、私達の仲間のような顔をして一緒にいるんだろう」

 驚いた。

 割と冷静で、辛辣なことを言う礼香だったが、そこまであからさまに人をけなしたり、嫌うことはなかった。


「香織の友達だからでしょ」

 そう私は思っていた。誰かの友達はたぶん、私達の友達でもある。

「香織の友達でも、私達の友達じゃない」

 その強い口調に驚いていた。

 なぜ、そんなに美貴のことが気にくわないか。


「あの人ってすごく無理して人に合わせているの。自分はそう思っていないのに、調子を合わせてる。そういうのってすごく嫌。見ているとイライラしてくる」

 礼香が吐き捨てるように言った。この嫌い方は本物だ。こうなると誰が庇っても、とりなしても無駄だろう。

 私はなんとか誤魔化すことにした。


「まあまあ、礼香さま。そんなに怒ると眉間にクッキリと皺が寄ってしまいますわよ。お美しいお顔が台無し」

 そう茶化すと、やっと礼香に笑顔が蘇る。


「わらわに、皺、とな? それは困る」

「そうそう、それでこそ、我らの礼香姫」

 よかった。礼香の機嫌が直っていた。

 グループの中で、誰かが衝突するとすぐに他の人も察する。たぶん、あの美貴は、礼香が自分を嫌っているとわかっている。

 

「そうね、昼休みだけの縁だもの。イライラしたらこっちの負け」

 その礼香の言葉に、どんな勝負に負けるのか。そこのところは敢えて突っ込まないでいた。


 皆のテーブルに戻った。

 香織たちはアイドルの話をしていた。

 優衣は別のグループが好きだった。いつもこの話題になると、そっちの誰かはカッコ悪いとか、こっちの方が歌がうまいとかの論争に発展する。


 どっちでもいい私は、二人の話を聞きながら、おにぎりを食べていた。

 私はそこで初めて礼香の言っていたことを目の当たりにする。

 美貴は、対立している香織と優衣の話、両方に話を合わせているのだ。


「Aくんは歌がうまくてドラマにも出ている」というと、「ああ、そうだよね。あのドラマ、かっこよかった」と賛同し、「Bくんのほうが演技が上手」というと、「うんうん、ホント、ホント」というのだ。

 美貴もどちらでもいいのかもしれないが、それなら黙っているべき時も双方にうなづいている。


 それは上手に相槌を打っているから、香織と優衣は気づかないでいた。私もさっき、礼香にそういうことを言われなかったら、気づかなかったかもしれない巧妙さだった。


 美貴は絶対に自分から思ったことを言わない。ましてや、誰かが言っていることに反発するようなことは全く言わなかった。いつも誰かの主張に耳を傾け、うん、わかるとうなづいていた。自分を出さないでうまく立ち回っているってこと。八方美人だ。


 高校生なんて、みんな自己中心的で、自分の言うことを誰かに聞いてもらいたがる人が多い。私もどちらかというとそっち。

「ねえ、聞いてよ。昨日お母さんたら・・・・」から始まり、駅でおばさんとぶつかって睨まれたとか、そんな他愛のない事、言ってしまえば発散してしまう程度の話題。


 美貴は私達のことを良く知っていた。けど、私達は美貴のこと、何も知らなかった。本当にアイドルのAくん、Bくん、両方好きなのか。いや、そんなことはどうでもよかった。


「ね、美貴さんには好きな人、いるの? つきあっている人は」

 唐突に聞いていた。美貴のことを知りたくなった。一体何を考えているんだろう。

 皆の会話が止っていた。そして美貴がどう答えるのか、注目していた。 

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