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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
19/36

 翌日の放課後、聡たちサッカー部は校庭をランニングしていた。自転車で通りかかった私を見て、遠くから手を振ってくれた。私もそれに手を振る。

「がんばってね」

 声を張り上げると、向こうも「オー」という声が返ってきた。

 

 たまに練習を見ることもあるが、今日は帰るつもりだった。一緒に下校していくカップルがうらやましく思っていた。その校庭の隅に、見知った人がいた。しかもこっちを見ていた。

 美貴だった。


「帰っちゃうの? 里中君、走ってるよ」

「うん、でも今日は母の用事で早く帰るって言ってあるから」

 ちょっと言い訳がましいと自分でも思う。

 美貴が意外そうな顔を向けた。

「へえ、奈緒さんたちって、もっとラブラブなんだと思ってた」

 

 ちょっと引っかかる物の言い方だった。いつも食堂で、人の話を聞いて羨ましがっている美貴ではなかった。

「今日は本当に母に早く帰るように言われてる。練習を見ていても、聡たちは練習の後、どこかでご飯を食べて帰ったりするから、一緒に帰れるわけじゃないし」


「それでも、彼女にずっと見てもらったりすると、もっと頑張れるって思うよ」

 強い言い方だった。だから、ここは折れることにした。

「そうかな。じゃあ、明日はみてよっかな」

 美貴の主張を受け入れた。するといつもの笑顔になる。

「うん、それがいいよ」

「そうだね。じゃまた明日ね」


 私は美貴に背を向けて、自転車をこぎ始める。

 案外、気性の激しい人なんだと思った。


 家に着いたが、その前にスマホを取り出していた。家の中に入ったら、夜、自分の部屋へ入るまではチェックできないからだ。友達の輪、ラインをチェックしていた。

「あ、聡からだ」


 ランニングが終わって、準備体操をする前らしい。

【おい、他のやつらも映画に行くんだって? オレ、そんなこと聞いてないぞ。離れた席にしてもらってくれよな】

 そこに聡の照れがあると感じた。


【わかってる。大丈夫。香織たちは前の方の席を買っちゃったって言ってた】

 私の顔はニンマリしていたと思う。本人が目の前にいなくても、なんとなく繋がっている幸せを感じていた。


 私はそうやって玄関先で三十分もスマホを眺めていたらしい。すぐに帰っておいでと言われていたのをいまさらながら、思い出していた。


「ただいまっ」

 家では母が出かける支度をして待っていた。

「遅いじゃないっ」

「ごめんなさい」

 母が出かける用事があった。しかし、今日の夕方、冷凍の届け物が時間指定してあった。だから、私にその時間、家にいて欲しいと言われていた。


 母がブツブツ言いながら玄関で靴を履いていた。

 すれ違い様に、私は隠すようにして手にしていたスマホを制服のポケットに入れた。しかし、母はそれに気づいていた。ジロリとにらまれる。

「まさか、またスマホに時間を盗られていたんじゃないでしょうね」

 言葉に詰まった。それだけで十分、それが本当だと白状していた。


「奈緒っ、そういうふうに、いつでもどこでもできるからって使い方をしていると、何が自分にとって重要なのか見失うわよ。いいわね。よく考えなさい」

 それだけ言うと母は出かけていった。


 私が悪かったと思う。けど、私にとっては友達とのこうした交流も大事なのだ。自分の時間を無駄にしているとは思っていない。今はSNSで世界の人と繋がれる時代なのだ。それを大いに利用することがなぜ、いけないのだろう。


「全く、年よりは、こういう便利さを知らないからそういう事、言えるのよ」

 吐き捨てるように言った。

 そこで、私は今の言葉に気づく。母に向かって言った言葉だった。今までそんなひどいことを思ったことなんてなかった。父や母は厳しいことも言うが、私の興味あることを一緒に楽しんで、理解のある両親だと思っていたからだ。


 けど・・・・・・。他の友達の親は、スマホをいじっても使用禁止とかまでは言わない。そっちの方が理解があるのではないかと思い直す。 

 私にとって、今、スマホはものすごく重要だ。常にラインなどは会話が進んでいた。夜、二、三時間じゃ、追いつかなかった。 

 母は私が友達との会話に入れなくてもいいのか。そんなことを考えて自分の心に、もやもやとしたものが現れていることに気づいた。それがさらにイライラさせた。落ち着かなかった。


 届け物はそのすぐ後に届けられた。

 そうだ。それを見て思い出した。

 今日は父の誕生日だった。母は父の大好きなニューヨークチーズケーキを注文していたのだ。


 急いで私も父にカードを作る。そして夕食を作ることにした。それは、私が家に一人でいても決められたとおり、スマホをいじっていなかったという証。

 生姜焼きとみそ汁、そしてコールスローサラダだった。これには母も驚いて、機嫌を直してくれた。よかったと思う。あれからまた、スマホをいじっていたら、きっと今度は取り上げられていただろうから。


「あ、ごめんなさい。一度、この生姜焼きのレシピ、検索するのにスマホ、つかった」

 それは正直に話した。

「いいわよ。そういう事には使っていいの。けど、意味もなく、だらだら使っていてほしくないだけ。今、やらなきゃいけないことを見失ってもらいたくないの、だから言ってるのよ」


「うん、父さんもな、地図や時間確認には頻繁に使うけど、他は仕事以外、使わないようにしている。ふと周りを見ると、みんながちょっと猫背で、スマホを見てるんだよ。その格好って、あんまりよくないなって感じる。だから、父さんだけでもしゃきっといこうと背筋を伸ばしているんだ」

 父はいささか大げさに背をそらした。それが可笑しい。


 母も言う。

「一番霊に憑りつかれやすい体勢よね。下を見るようなちょっと猫背って、喜んで背中に乗っちゃう感じ。ある意味、みんな、SNSに憑りつかれてる」


 私にはもう何も言えななかった。

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