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ちょっと霊感少女・奈緒  作者: 五十嵐。
みんな繋がっている・現代の黒魔術
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 私は美咲のお祖母さんの霊や、鈴ヶ森の麓で男の子の霊に遭遇して以来、霊に関しての考えが変わっていた。

 霊をむやみに怖がってはいけないということ。元々は生きていた人なのだ。それがなにかの理由で成仏できず、この世にとどまっている。心残り、気がかり、無念さがあるのだろう。


 クラスメイトの中には時々、私に幽霊を見たとか、不思議なことがあったなどの相談を持ち込んでくることもあった。けどその殆どがなにかを見間違えたとか、勘違いだったりして本物の怪奇現象とは違っていた。

 だって、今の私には学校にもいろいろな霊がいることがわかるから。母の言う通り、霊感が段々鋭くなってきているらしい。夏休み前には全然気づかなかった霊も見えていた。


 それらは、元気な生徒たちがいると、階段の下や教室の隅の陰になるところに潜んでいる。けれど、生きている人間たちのオーラに誘われるらしく、眩しそうに、そしてうらやましそうにこっちを見ているのだ。

 そう、それだけだった。危害を加えるという感じはない。そんなに敏感になっている私に、母は言った。


「いい? ずっと人々の中にとどまっている霊の中には、少しづつ人の高い波動に近づきたいって思ってる。だから、気にしないでいればいいの。なにかをしてもらいたいとか思っている霊って、そう多くはないから。助けたくても、自分から上に上がりたいっていう意識がないとだめだから」


 そう、母はいつも言っている。

「自分の波動をあげていれば、影響を受けることは避けられる。体の中心に意識を向けて深呼吸する、そして笑えばいい」って。




 礼香と私がやっと日替わり定食を手にして、皆が待っているテーブルに座った。

「おっそい、おなか、ぺこぺこだよ」

 宮田香織が口をとがらせて文句を言った。香織は、底抜けに明るい性格で、誰とでも仲良くなれるタイプだ。

「ごめん、今日ってすごく混んでる。おばさんたちもてんてこ舞いだった」

 礼香がそう言ったから、私もその言い訳に賛同した。

「そう、日替わり定食、私達の後ろの人でおしまいって言われてた。これって超人気」


 日替わりは、メインのおかずが毎日変わる。今日は、白身魚のフライ。昨日は豚の生姜焼きだったらしい。

「まあ、仕方ないけどね」

 磯山優衣いそやまゆいが、私の漬物をひとつ、つまんでそう言った。ポリポリといい音がする。

「う~ん、さすが、おばちゃん。私も明日は日替わりにしようっと」

 優衣は、この個性豊かな四人の中で一番平均的な女の子。うまくいっているのは、彼女がいるからかもしれない。


 皆を待たせて悪かったと思う。漬物くらいで許してくれるなら安い。

 そう思って改めて皆を見渡した。ふと、いつもの顔とは別の人が座っているのに気付いた。。私と目が合う。向こうはすかさず笑いかけてきた。


 えっと、誰だっけ。顔は知っているけど、名前が思い出せない。確か、香織と同じ中学だった人。隣のクラスだから、挨拶程度で直接話したことはなかった。

 礼香もじっとその人を見ている。

 それに気づいて、香織が紹介した。

「隣のクラスの田所美貴たどころみきちゃん。今日は一緒に食べようって」


「美貴です。急に仲間に入っちゃってごめんなさいね。仲良くしちゃってください」

 屈託のない笑顔で会釈した。

 美貴は特に派手ではないが、髪型もきれいにブローしているし、すこしだけアイシャドウも入れている。清潔感あふれるかわいらしい女の子だった。

 美貴は自分で作ったらしい、色とりどりのおいしそうなお弁当を広げている。他のグループとも一緒になることがあるので、私は別段、気にしないでいた。


 私達は、今朝の英語がちんぷんかんぷんだったとか、このすぐ後の数学が怖いとか、いつもの他愛ない話をしていた。

 突然、礼香が思い出したように皆に言った。

「ねえ、奈緒たち、来週の日曜日、アタック・オン・タイタンを観に行くんだって。私達も行かない?」

 ぎょっとした。突然、そんなことをみんなにばらしたからだ。

 それに反応したのが、香織。

「話題の映画だけどさ、ちょっとグロいって聞いた」


「でもさ、竜馬君が出てるんだよね」

 礼香が押す。今人気のアイドルだった。

 香織と優衣が顔を見合わせた。


「っていうか、そんな映画でデートって、どんな感じなのか、奈緒たちを見てみたいの」

「ちょっとやめてよ。礼香ったら、悪趣味」

 礼香は恋愛映画よりもそういうアクション的で、怖い系の映画を好む。竜馬は優衣がファンだった。

「う~ん、行く」

 優衣が言った。

 香織は笑っている。優衣が行くなら香織も行くはずだ。美貴だけがその話題に入れず、きょとんとしていた。


「奈緒さんのデートについて行くってこと? そんなことしていいの? 奈緒さんの彼氏って誰?」

 驚いていた。香織が得意げになって教えた。

「ほら、あのサッカー部グループ。あそこで騒いでるでしょ。あ、今、席を立った。あの人」

 美貴がそっちを見た。

 私も顔を向ける。

 聡たちがもう食べ終わったらしく、こっちに向かって歩いてきた。


「よう、今から食うんだ、おっそいな」

 そう言って、私の切り分けてある魚のフライ、一片をつまんでいた。

「あ、ちょっとやめてよ。聡はもう十分なほど食べたじゃないっ」

 抗議したが、笑いながら行ってしまった。


「あれよ、あれが奈緒の彼氏。まあ、今更って感じだけど」

 香織が美貴に説明していた。


 一瞬、美貴が私を見た。ギクリとするような冷たい目で。

 えっ、と思った。

 しかし、すぐに美貴が破顔した。

「あの人、サッカー部の里中くんでしょ。奈緒さんの彼氏だったんだ。知らなかった。いいな、里中君、夏休み前よりもずっとカッコよくなったって噂だよ」

「え? そうなの」

 調子を合わせてそう言ったが、私は美貴の今の笑顔とその前の冷たい目にギャップを感じ、戸惑っていた。


 香織が言う。

「ああ、美貴ちゃんって、サッカーファンだもんね」

「うん、そうなの。他校での練習試合も見に行ったりする。本当はマネジャーみたいなこと、したかった」

 そうか、そんなにサッカーが好きなんだ。それはそれでなんとなく、安心した。美貴はしきりに私のことをうらやましがっていた。私はもう美貴の冷たい目のことは忘れていた。




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