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第02話

「失礼します」

「おお、待っておったぞ」


 あれから普通の表情に戻ったお姉さんに連れられて俺は食堂らしき所に来ていた。

 ほぇ~と声を漏らしながらキョロキョロと周囲を見回してみた。高い天井にぶら下がった大き目のシャンデリアに光り輝くステンドグラス。大人数で食事が取れるようなテーブルに、朝食とは思えないほどに並べられた美味しそうな料理の数々。出来立てなのだろう、豊満な香りを漂わせている料理たちは湯気を昇らせていた。


 その一番奥、全体が見えるような所で盛大に装飾が為された椅子に座っている太めの男性。おそらく、この人が俺の父親になるのだろうか。せめてこの人の第一子が俺であって欲しい。まだ納得も理解もできない部分が多く残っているが、取り合えず『あらゆる可能性』の一つの中でも良い条件であってほしいだろう?

 さすがに今から父親の跡取りの問題とか、実はメイドとできた子供で実子との跡取り問題で争わないといけないことに……なんてことになると流石に面倒くさい。


 それにしても、将来あの父親のように太りたくはないな……この朝食は体に良さそうなものを食べるようにしよう。作ってくれた料理長には申し訳ないが。


「おはようございます」

「……はっ!?」

「……まぁ」


 おい。


 俺が挨拶をしただけでどんだけ驚いてるんだよ。

 それにしても、外国っぽいけど日本語が通じてるのか? それとも勝手に脳が日本語に変換してそういう風に聞こえるようにしているだけなのか? いきなり外国語なんて話せるわけないから、俺としては非常に嬉しいが。

 そもそも『俺』としての意識が戻る前の俺はどんな子供だったんだ。いくらなんでもこれはナイ。


「おぉ……おぉ! おはよう! 今日も良い朝だのう!」

「はい、父上も一段と元気そうで嬉しいです」

「――もう、良いかのう」


 いきなり逝きそうになってるんじゃないよ。

 チラと隣に立ったままのお姉さんの顔を覗き見る。目を大きく開けて俺を見つめてる。

 うぉぉ!? いきなり俺は何をしたってんだ! これはいくらなんでも正しい答えを出せるわけがないだろう!


「――はっ!? そうじゃったそうじゃった。ではアレンよ、一緒に朝食を食べようではないか」


 ここで初めて俺の名前が判明した。

 アレン、か。取り合えずはどうにかなるか……後は父親の名前と主要な人たちの名前を覚えていかないと。


 ……嗚呼、クソッ。前の名前を思い出そうとしてみたが、何故か思い出せない。まるでそこだけ霧が掛かったように真っ白に抜け落ちてる。家族の名前も、級友たちも幼馴染の名前も、その全員が思い出せなくなっている。

 元の場所に戻ったらどうしろってんだ……

 取り合えず、今はお父様と一緒に朝食を楽しむことにしようか。


「はい、お父様」


 それから恙無(つつがな)く朝食は進んでいった。

 食事の際、俺がナイフとフォークを使って食べているとまたしても食堂の空気が固まったような気がした。もうここまで来ると流石に反応するのも面倒になってくる。何も気にせず食べていたが、体中に突き刺さる視線が鬱陶しいのなんのって。


 それからしばらくして食事が終わり、お父様はこれから仕事だと言って食堂をすぐに出て行ってしまった。部屋を出る際、メイドっぽいお姉さんを褒めるような言葉を投げかけていたが、本人も理解できていないのだろう、困り気味に返事をしていた。

 そしてお父様と言えばそれまでの間、終始笑顔だった。息子の変わりようはそこまで問題とはしていないようである。


 そのまま俺はお姉さんと一緒に部屋に戻ってきた。

 かなり大きな屋敷らしく、初めてこの屋敷を歩く俺にとっては巨大な迷路のようである。適当に一人で出歩いて覚えるようにしよう。子供のやることと思ってくれればそこまで問題にならないだろう。


 それにしても、俺の部屋は散らかっていた。

 まるで子供が癇癪(かんしゃく)をおこした後のようだ……って、今の俺か。

 ここまで来ると、一般的な5歳児とは比べ物にならないくらいやんちゃな性格だったのか、それとも単に甘やかされてきた結果が前の俺だったとか。

 ……どうせファーストコンタクトを失敗してるんだ、今の俺の個を存分に出して行こうと思う。


 しかし、散らかりに散らかったこの部屋を見ると、これから片つけないといけない面倒臭さについつい溜息を漏らしてしまう。


「坊ちゃん」

「なぁに?」

「……坊ちゃんは、魔力――白い魔力光(まりょくこう)が見えておられるのですか?」




 ……ねぇ、まりょくってなぁにそれおいしいのぉ?

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