プロローグ どこかの世界
初投稿です。よろしくお願いします。
空は赤黒く染まり、周りには幾人もの兵士が転がっている、そんな中で、少年はとある言葉をを思い出していた。
「たとえ,英雄と称される存在でも、相手にとっては悪夢に等しい存在であるし、相手にとっての英雄は、こちら側の悪夢となる。」
そんな、当たり前といってしまえば、当たり前の現実を彼の師匠に値する人物からから言われた時、この人は何を言っているのだろう、などと、少年は疑問に思ったものであった。今思い返してみると、その当たり前の事さえ自分は理解していなかったのだと、身に染みてよく分かるし、この状況では理解せざるを得ない。
なぜか、と聞かれれば、答えるのは簡単だ。
ここが、戦場であり、目の前に憧れた『英雄』が、敵として立っているから…である。
その現実を知ったとき,彼は笑うしかなかった。
その背中に憧れた。その生き様に憧れた。その強さに憧れた。誰よりも憧れ、誰よりも追いかけ、だからこそ誰よりも知っている。その強さを、その非常識さを、その荒唐無稽な戦い方を。
現に、もう仲間はいない。少年一人である。
仲間たちはみな、切り伏せられてしまった。それも、たったの一撃で。少年が信頼していた部隊の隊長でさえも、その力の前にひれ伏してしまった。
そんな倒れていく仲間たちを見て、少年は……
「盛大に笑った」 。
勿論仲間が鬱陶しいと思っていた訳では、ない。 少年はただ喜んでいた。自らが知る、英雄と呼ばれる存在と自分が対峙しているという現実に。英雄が自分たちををひと時でも見てくれているということに。
可笑しいと思われたって構わない、何せ自分が一番可笑しいと思っているのだから。現に、足は震え、剣を持つ手はおぼつか無く、前をしっかり向けているかも怪しい。それでも、この胸のうちを表すものとして一番正しいのは、「喜び」だろう。
しかし、英雄と、「彼女」と戦うというのにこれではまずいだろう、と剣を持ち直す。
その間律儀にも彼女は待ってくれている。
そのような律儀な性格だっただろうか、と、少年は疑問に思ったが、知っている情報が違ったのだろうと思い直した。なにせ、威圧感だけで知っているものの数倍、噂の二倍以上あるのだ。少しぐらい情報が間違っていてもおかしくはないだろう、と思ったのである。何より英雄と対峙できるという喜びで、些細なことは気にならなかったということも大きい。
さて、自分はどれぐらい戦えるだろう、と少年は思いをはせる。一分か、十秒か、一秒か、一瞬か。だが、たとえ一瞬だとしても、悔いはない。昔からの憧れだったのだから。
瞬きをしたら目の前にいた。驚きながらも、彼女が振るう剣を無我夢中にはじき返し…そしてそこまでだった。
あっという間だった。だが、少年に悔いはない。戦えただけでも光栄なことなのだから。
「…何か言い残すことはあるかしら。」
初めて聞いたその彼女の声は、思っていたより遥かに幼いものだった。そのことを意外に思いながらも
「何も言い残すことはない。あんたと戦えただけで、もう十分だ。」
と少年は答えた。
その時ほんの少しだけ、彼女の表情が曇ったのは気のせいだろうか。まるで、自分ではない誰かのことを、自分のことのように言われたかのように。
だが、少年にそのこと確認する術は、もう無いだろう。
少年、エウス・フリッツは目を閉じ、英雄、フレール・アルテミシオンは剣を振り上げ・・・。
しかし、その剣は振り下ろされなかった。髪から服に靴まで全身を青色に統一した奇妙な乱入者のせいで。
その乱入者はどこと無く不敵な笑顔で、
「よく状況は分かってないが、この意味の無い戦いを終わらせに来た。私の味方はいったいどちらかな?」
と、言った。
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