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新学期の事情 その7

 正直視線がウザったくて仕方がない。

 顔を腫らしている宮原が何故か俺に助けを求めるようにチラチラチラチラ視線を送ってきていて、自分で声を掛けろと言う意味で睨んでやったら泣きそうな顔になった。

 いや、と言うか色々おかしいからな。

 先ず、俺は昨日お前に迷惑を掛けられた訳で、つまり借りがあるどころか貸ししかない訳だ。

 そして別に俺は宮原の保護者でも悪いが友人でもない。

 ただのクラスメートに何で心を砕いてやらねばいけないのか。


 しかもだ、お兄ちゃん何怖い顔してんの? とか間宮に言われるし。

 お前の幼馴染のせいだよ! なんて言いたくなったのだけど……それは流石に可哀想すぎるので曖昧に流した。


「いやー、しかしお熱い視線だ事よねー」


 面白そうに言ってくる桐生を睨む。

 ったく、死ななきゃ変わらないなんて言葉もあるけど、ありゃ嘘だな。

 こうして兄さんは死んでも全く変わらないのだし。

 無論、桐生が特別おかしいと言う可能性もある……と言うか、個人的にはそれが大きいとは思うのだけど。


「ほんとなんかあったのか?

 いつもなら間宮ちゃんをずっと見つめて時折お前睨むくらいだったのに、今日は交互にチラチラ見てられているじゃん」


「知らねーよ。

 何か心境の変化でもあったんじゃねーの?」


 健の言葉に半ばうんざりしながら返す。


「え? 大輝……見てるの?」


 言いながら何故か俺の影に隠れる間宮。

 いや、気まずいのは分かるがその対応はまずいぞ。

 何がマズいかって宮原の熱い視線が俺だけに集中するじゃないか。

 ちらっと見てみれば、物凄い真剣な眼差して俺の方見ているし……えー、まさか俺がまた動かないといけないのか?

 正直他人の色恋沙汰とか首突っ込みたくないし、巻き込まれたくないんだけど。


 俺は愛ちゃんとイチャイチャするのに忙しいし、本気で勝手にやっててくれって思うのだけどなー。


「……お前とうとう男にも……骨は拾ってやるからな」


「おい、何でそんな結論に至った?」


 真面目ぶった表情を取り繕いつつも、口元をヒクヒクさせている健にツッコミを入れる。

 ったく、こいつ分かってて言ってやがるな。

 一応昨日の出来事も軽く話していたし、とは言え話しをていない桐生がニヤニヤしている方が俺には怖い。


 うん、間違いなく色々察した上で遊ぼうとしているだろう。

 そう確信した俺は桐生が満を持して立ち上がろうとしたのを見据えて、何か言い出す前に立ち上がる――。


「ねぇ、何で大輝は私を見てたのかな?」


 前に不安そうに間宮がそう零す。

 今まで見られていた事に気付いてなかったのか? なんて言いたくもあり……やっと自分自身を認められるようになってきたばかりじゃ周りなんて見る余裕ないかと思い直した。


「そりゃぁ本人に聞かなきゃ分からないな」


「え? き、聞かなきゃダメなのかな?

 む、無理!」


 必死な形相の間宮に溜息を付きそうになる。

 いやいや、多分お前が思っている事の逆の展開だと思うぞ。

 ただ、どちらにしろ困惑する羽目になろうだろう事は確信しているのだが。


「分かった分かった。

 聞いてきてやるから待ってろ」


 意識せずとも苦笑いが浮かんできて、明らかにホッと安堵の息を漏らした間宮の頭を撫でる。

 まっ、面倒事は取り除いておいた方が後々良いだろうからな。

 これから先何が起こるか分からないんだし。


 ところが、ありがとうお兄ちゃんと口にした間宮に桐生が少し険しい表情で口を開く。


「いやー、相変わらずまー坊1度でも懐に入れた相手にはとことん甘いのねー。

 翔子ちゃん、こう言う事は自分から聞きに行かなきゃダメなのよ。

 まー坊も甘さと優しさは違うって事を自覚しなきゃ」


 痛いところを付かれて黙る間宮と、表情を浮かべた健。

 あ、目ざとく見つけて健を睨みつけてんな。


「まっ、良いじゃん。

 そりゃぁ自分の事は自分で出来なきゃと思うが、いきなり出来るようになるもんでもねーし。

 それにあいつも言いたい事あるならさっさと言えっても思ってたから、丁度良かったってのもある。

 向こうはそれこそいつだって話し出すチャンスはあった訳だからな」


「まっ、それもそうね。

 今度からは付き添いくらいはしてあげるから自分から動かなきゃダメよ」


「うん、分かった。

 ありがとう薫ちゃん。

 ごめんね、お兄ちゃん」


 ションボリと肩を落とす間宮にひらひらと手を振って気にするなと口にする。

 さて、とりあえず宮原の言い分でも聞いてやるかね。

 何にしろ完膚なきまでに叱りつけてやろうと思うけど。


 爽やかに微笑みながら、さーて、たけるんのさっきの表情ってどう言う意味だったのかしら? なんて健に詰め寄る桐生と明らかに引きつった顔を浮かべた健に背を向けて宮原が居る方へと向かう。

 間宮が珍しく不穏な空気でも察したか、少し慌ててたけど……これも勉強だ。頑張れ。




「おいヘタレ、なんだよその目は」


 いつものように睨みつける――訳ではなく、なんか物凄く微妙な顔つきの宮原にそう言葉を投げつける。


「うぐっ、いや、だって……」


「はぁ、だっても糞もあるか。

 まぁいい、言ってみろ」


 わざとらしく溜息を吐いてやると、分かりやすく肩を落とす宮原。

 そう言えば原作キャラはその素直さから犬みたいとか言われていたんだっけ、宮原もその性格は大体同じと考えても良さそうだな。


「……話しかけ難かったんだよ。

 その……田中君も助けてくれないし……」


 マジか!?

 まるで捨てられた子犬か何かのような表情で俺を見上げて言う宮原に、俺の予想を遥かに超えるヘタレっぷりから思わず絶句してしまう。

 美形だからこそ傍から見れば絵になっているのかもしれないが、同性の俺からするとはなただ気持ち悪いし止めろと言いたい。


「うん、色々突っ込みたい事はあるが、先ずは何故俺がお前を助けないといけないのか聞こうか?」


 何とか衝撃から復帰しつつそう口にすれば、キョトンとした表情になる宮原。

 やべぇ、間宮が増えた。


「え? 助けてくれないの?」


 本当に不思議そうに聞かれて頭を抱えたくなる。

 間宮1人でも大変だって言うのに、お前もかよ!


「いやいや、さも助けてもらえるのが当たり前とかおかしいからな?

 そもそも、お前は昨日俺に迷惑欠けている事位自覚してくれているよな?」


 少しずつ言葉が固くなるのを自覚しつつ言えば、宮原も流石に察したのか視線を泳がせつつ口を開く。


「えっと、その件は本当にごめんなさい」


「おう、つまりお前は俺に迷惑を掛けたと言う貸しがある訳だ。

 で、その状態で何で俺がお前にまた貸しを作らないといけないんだ?」


 再びキョトンとした表情になる宮原に頭をかく。

 おいおいおいおい、今までどんだけ恵まれた生活していた事やら。


「あのなー、貸し借りとか本当は俺だって気にしている訳でも話したい訳でもないんだが、そもそも俺とお前ってクラスメイトなだけで別に親しくねーよな。

 他の奴までは知らないが、少なくとも俺は親しくない上に無礼な奴を助けたいとか思わないぞ」


 俺の言葉にショックを受けたように固まる宮原。

 あー、何となく分かってきた。

 美形だからこその弊害と言うやつかもしれないが、今まで何もせずともチヤホヤされて生きてきたのだろうな。

 クラスで浮いてて平気だったのも、その所為かもしれない。

 腫れ物を扱う態度と接し難いと感じる程の憧れから来る態度は、ともすれば似たような物になってしまうかもしれないし。


 とくれば、ここまで素直なのもそれ故かもしれないと思う。

 無論それで何か思う事もないのだけど、違う可能性だってあるし。

 何より今は関係ないからな。


「つっても、間宮は友達だからな。

 その為にわざわざ来てやったと理解して間宮に感謝しろよ。

 じゃなきゃこうやって話し掛けにもこねーよ」


 正確に俺との関係を宮原に理解させるべく、わざとそう言い放つ。


 どれほどのショックを受けたのだろうか、結局休み時間が終わるまで目に涙を浮かべた宮原は、その間中何か言葉を紡ぐ事はなかった。

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