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新学期の事情 その6

 人気の少ない公園。

 正直こいつといつまでも顔を合わせていたい訳ではないし、寧ろ早く帰りたくて仕方ないのだが、何故か立ち止まっても俺を睨むだけですぐに話だそうとしない幼馴染キャラ……。

 いや、こう言う混同は少し自重した方が良いか。

 ポロっと口から出たらマズイし、こいつにはこいつの事情があるだろうから。

 ぶっちゃけそんなもん知ったこっちゃないんだけど。


「で、さっさと話してくんないか?」


 ため息混じりにそう口にすれば、突然殴りかかってくる馬鹿。

 何がどうしてそうなったのかは分からないが、一応最低限の護身術程度は嗜んでいるし、何しでかすか分かんないなと身構えてもいたので大振りに放たれた拳を避けてそのまま逆に俺が馬鹿をぶん殴る。


「……ってぇ」


「当たり前だ馬鹿! 真面目にキレるぞ」


 綺麗に右頬を捉えたそれは、相手に尻餅をつかせるのに十分だったようで。

 殴られた箇所を押さえていたがる馬鹿にドスを効かせて言い放つ。


「くそっ、なんでなんだよ。

 なんでお前なんだよ!」


 うなだれて癇癪を起こすその姿に、ただただ呆れるばかり。

 いや、気持ちは正直分からんでもない。

 が、それとこれとは話が別だ。


「主語も何もかも抜かして何でとか聞かれても知るか。

 用がないのなら俺はもう帰るぞ」


 次の瞬間涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。

 うわっ、きたねぇ。

 鼻水も垂れてるしイケメンが台無しだな。


「だから! 何で俺じゃなくてお前ばかり翔子と。

 しかもお兄ちゃんとか呼ばせる変態の癖に!」


 血でも吐くかのように苦しそうに言う馬鹿に、再び深い溜息が溢れる。


「あのなー、お前ぶっちゃけ間宮の事まだ好きなんだろ?

 ずっと見てるもんなー」


「黙れ黙れ黙れぇ! お前に何が分かる!」


「分かるわけねーだろ、ショックを受けたか知らねーけどいつまでもうじうじ情けない。

 男なら惚れた女を振り向かそうとかねーのかよ?

 どんだけメンタル弱いんだお前。

 しかも逆恨みもはなただしいし、お兄ちゃんとか俺が止めさせようとしたのにあいつが勝手に呼んでいるだけだからな」


 諭すように言ってみても、頭に血が上っているらしく睨むのをやめないそいつに、もう放置して帰ろうかなと頭によぎった。

 だが、それをすると後々がもっと面倒な事になりそうなので渋々言葉を更に重ねていく。


「あのなー、宮原みやはら 大輝だいき

 お前恋愛下っ手くそなんだよ。

 確かに間宮がお前にやらかした事にショックを受けるのは分かるが、間宮だって傷ついていたのくらいすぐ想像が付くだろう?

 それなのに無視なんてすればもう許さないと意思表示されたと思われたって仕方ないと俺は思うぞ」


「そ、それは……仕方ないじゃないか。

 だって、お前やその周りに……お、俺にも見せた事ない笑顔見せているんだぞ……。

 話しかけられる訳ない……。」


 弱々しい言葉に思わず頭を抱えそうになる。

 こいつマジでダメだ。

 いや、これがもしかすると普通なのかもしれないが、少なくとも俺ならこいつのような対応なんてする訳もないのだから。


「だから今の現状なんだろうがよ。

 傷ついた時に一緒に居てくれた人間に好意を抱くなんて当たり前だろ?

 お前が間宮に惚れた経緯もその辺じゃねーのか? ただの当てずっぽうだしどうでも良い事だが。

 ただ、話しかけなかったその神経は全く理解出来ないな」


「お、お前なら話掛けられるのかよ!

 だって、俺らを……俺をゲームのキャラとか、一切見てくれてなかったんだぞ!

 今で向けられた表情が全部作り物だって、それなのにどうして話し掛けられるんだよ」


「ほんと馬鹿だなお前。

 そんなもん惚れた女に好いてもらう為だろうが。

 それすら分かんないのか?」


 完全に呆れが口調に表れた俺の言葉に絶句する宮原。

 まっ、話の流れ的にここで絶句するか逆ギレするかどっちかだと思っていたから、正直逆ギレされるよりはましだから少しだけ安堵する。

 少しでも早く俺は帰りたいからな。

 あーあ、愛ちゃんに早く会いたい。


「言わせて貰うが、ゲームのキャラだとか何だとか言っていたが、仮に全部それが本当だったとして……でも自分の気持ちとそれが何か関係あるのか?

 勿論自分を見てくれないなんて傷つくだろうし、凹むのは分かる。

 がだ。それなら今度こそ俺をちゃんと見てもらおうとは思わないのか?

 それに、間宮をずっと見ていたお前なら分かると思うが、今のあいつはもう仮面なんて付けちゃいないんだ。

 なら、今度こそあいつの素の表情と向き合えるって言うのに、そのビッグチャンスを自分から捨てているって何故気付かないかなー」


「お前には……、皆に好かれているお前には分かってたまるか!」


「ああ、分かりたくもないね。

 いつまでもうじうじと情けなく自分のカラに閉じ篭って守りに入っている野郎の事なんか。

 俺が皆に好かれているかはまぁ置いといてだ。

 少なくとも俺は愛ちゃ……恋人の南先輩の事を常に1番に考えて、自分に考えうる限りの事をしたくてやってんだ。

 その結果南先輩も俺を好いてくれた訳だし、だから付き合えている。

 逆にお前は好きな相手が傷つくのを傍から眺め、他の人間に懐くのを指を咥えて見つめ、しまいには好きな相手が信頼を寄せる人間に逆恨みして殴りかかって来た訳だが。

 さて、お前間宮を振り向かせる要素ってどこかにあるとこれで思うのか?

 もしかして、俺顔が良いからそのうち話し掛けてくれるとか思ってたのか?」


「そんな訳ない! 翔子は顔だけで相手を見ない!

 そんな事俺が1番良く知っている!

 ……くそっ、分かっているんだよ、逆恨みだなんて……。

 で、でも……でも、俺は間違っていたのか?

 俺と居るより楽しそうだからって……苦しくて声を掛けれなくて」


 全く世話の焼ける。

 と言うか、なーんで俺がこいつを諭してやんなきゃならないのだろう?

 とは言っても放置していると間宮に何しでかすか分からないし、そうなると愛ちゃんが心配するのが目に見えているからな。

 まっ、間宮の事だけでもこいつに対して何か言っておくのは望むところだったし。

 とりあえずは訳の分からない暴走は食い止めれそうだからよしとしとくか。

 ……そうでも思っておかないと、愛ちゃんと一緒に居れる貴重な時間を割いた甲斐が全くなくなってしまうからな。


「間違ってたんだよ。

 好きならばもっと声を掛ければいい。

 大切にしてあげればいい。

 まかり間違っても相手を傷つけようとかするなよ、好きならばな。

 後は自分で考えな。

 ってか、殴りかかって来たのにここまで相手してやったんだ。

 これで変わらないのならもう俺は知らない。

 寧ろ感謝しろよ、こんだけアドバイスしてやったんだからさ」


 恩着せがましく口にする。

 これで俺にありがたいとか思う気持ちも仮にあったとしても薄れるだろう。

 さて、言いたい事は言ったし帰るか。

 俺の言葉を噛み砕いて理解しようとでもしているのか、座ったまま無言になった宮原をそのままに踵を返して歩き出す。


「あ、ありがとう!

 それと、済まなかった」


 背後から大きな声が投げかけられてきて、気にするなと言う意味を込めて手だけ上げてそれを左右に振る。

 気持ちが分かると言うのも嘘じゃないからな。

 間宮を愛ちゃんに、宮原を俺に置き換えれば想像するのは容易い。

 無論、本当にどう思うかとかそれが全く同じなのかなんて分かる訳もないのだが、どうしようもなく凹む事くらい分かるからな。

 ただ、口にした通り俺は多分翌日には話しかけただろう、そこで折れてしまうほど柔な気持ちじゃないから。


 ああ、愛ちゃんの事を考えたらことさら早く会いたくなってきた。

 既にいつもよりだいぶ遅い時間になってしまっているし、俺は一刻も早く会いたくて駆け出すのだった。

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