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新学期の事情 その3

 翌日、やはりそんなに顔色の宜しくない愛実先輩を見送り、後ろ髪を引かれつつも学校へと向かう。

 むー、家に居てくれるのならまだ安心出来るのだけど、愛実先輩はかなり軽い方とは言え生理中はやっぱり辛そうだもんな。

 出来れば帰りは迎えに行きたいのだけど、時間的にそれも叶わないし。


 そう考えればあまり気分は浮上してこず、更に言えば今日は問題児になる可能性大の後輩キャラの入学式の訳で……。

 唯一良かった事と言えば、生徒会書記なんてガラにも無い事をやっているおかげで、生徒の誘導等を任されているから事前に顔を見れる事くらいか?


 はぁ、どうしてもこう言う時何か部活やっていればと思ってしまうなぁ。

 もし入っていれば特待生等は春休みから部活に参加してくる為面識を持て、その伝手から情報収集やら行動を見張るように頼んだりやら色々出来たのだが。

 かと言って、そんな些細な事ごときと愛実先輩と共に居る時間等比べられよう筈も無いのだから、無いものねだりでしかないのだけど。


 うん、まぁ幸いな事に愛実先輩は居ない以上迷惑は被らない訳だし、その点だけは安心だな。

 ならば、間宮が苦労しようが俺が苦労しようが些細な問題でしかない。


 何とか結論に辿り着けば、ほんの少しだけ気分は上向いて、ならばちゃんと仕事をこなしますかと気合を入れ直すのだった。




 ……これは流石に予想外。

 入学式と言うのに綺麗に髪を染め上げた男子生徒がいて……勿論そんな校則違反許される訳も無く先生とバトっている件の人物は、何を隠そう俺が心配の対象としていた後輩キャラの訳で……。

 うん、これは色々覚悟しておいた方が良いかも知れない。

 どんな原理か、実のところ攻略キャラ達はゲームの世界の力の影響力故かうっすらとゲームの頃の髪の色も分かると言った具合であるが……、蜂蜜色と言うゲームの頃のままの髪の色で現れたんだからな。

 いや、可能性は物凄く低いが、あれが地毛と言う可能性もあるが……まぁ染めてんだろ。

 事実、そんな奇抜な髪の色をした生徒も教師も誰もいない訳だし。

 寧ろ、元モブな俺らは色素の差こそあれど純日本人らしく黒髪だしな。


 それにしても、先生苦労してんなー。

 訳の分からない理論吐いてるし、マジなんだこいつ。

 と、徐々に言葉が荒々しくなる先生にぴっと指を立てて提案をし出すその後輩キャラ。

 こちらまではっきりと聞こえて来たのだが……勉強が学生の本分。ならば、次のテストで全教科満点取れば自由にさせてくれませんか? なんて、これまた訳の分からない事を言っているが。

 少しばかり嫌な予感がして先生の様子を伺う。


 と、予想が的中し、我慢の限界だったのだろう先生が良かろう! その代わりもし1教科でも満点でなかったらその頭ボウズにするからな! なんて言ってしまう。

 そう、俺の記憶が正しければ常にテストで満点を取るそいつにだ。

 交渉成立ですねとにこやかに言う後輩キャラと、鼻息荒く後で吠え面かくなよと肩を怒らせて去っていく先生。

 こいつ本当に面倒くさそうだな。


 ともかく、表面上にしろ事の収拾が付いたようなので、改めて仕事に戻る事にする。

 ふむ、これは尚更覚悟しとかなきゃならないだろうな……ゲームの知識的には間宮に一目惚れするって流れの筈だけど、同じ学校で生活をする以上そんなに猶予は無いだろうし、間宮が妙に見た目良いから噂になるのも間違いなさそうだからな。

 ああ、何か噂に釣られてとりあえず見に来て惚れるって流れもあるんだっけ? 後輩キャラとゲーム主人公との出会いのパターンは数種類あるから阻止しようもないのだけど、知っていても阻止出来なさそうなこの流れが一番ありえそうな気がする……。


 はぁ、さっきもだけど、嫌な予感って良く当たるんだよなー。

 なんかなー、俺関係ないはずなのにガッツリ巻き込まれそうなんだよな。

 ふぅ、いくら覚悟を決めるっつってもどうしても気分が下がるぜ。

 あーあ、早く愛実先輩と会いたい。

 



 幸いな事に今日は間宮と後輩キャラとの接触は無かった。

 俺らは授業があるけど、新1年はHRだけですぐに帰れるからな。

 ならば先に間宮に忠告しておくかとも思ったのだけど、後輩キャラだけどさと口にしたら何故か不思議そうな顔をされて黙らざるを得なくなってしまう。

 ただ、桐生が声を上げて笑っていたから、何かしら把握しているのだろうけど……意味深に微笑むだけではぐらかすだけだもんなぁ。


 しかし、これは困ったと言う訳で、とりあえず後輩キャラの起こした行動を皆に伝え、何か変な奴だから見かけても関わらないようにと注意しておく。

 そして、元気よく返事した間宮に皆の視線が集まる訳で。


「えー、何で皆私を見るの?」


「いや、そんだけ元気良く返事したんだし自覚あるんじゃねーの?

 どうせ後輩とは仲良くなりたいとか暴走する気満々だったんじゃないのか?」


 口を尖らせる間宮に冷静に言えば、視線を泳がせる。

 なんて分かり易い奴。


「気持ちは分かるが、俺らだからお前の突撃も寛容しているんだぞ?

 まーた失敗したい訳じゃないなら、大人しくしてろって。

 想像付くけど、毎朝早く来て皆に挨拶しよーとか帰りに会う子会う子に声かけようとかだろ?」


「あぅ」


「ぷはっ、思わず想像しちまったけど、確かに雄星の言う通りの事しそうだよね間宮ちゃん」


 耐え切れなかったのか、お腹を抱えて笑い出す健。

 あーあ、お前本当にタイミング悪いなぁ。

 折角いい雰囲気作るのは得意だし、基本空気読む事も出来ない訳じゃないのに女心に疎い奴め。

 完全に間宮は今俺じゃなくてお前を睨んでいるからな。

 それを見て桐生はニヤニヤ笑ってるけど……それはともかく、俺としてはお前が全部引き受けてくれて助かるよ。


「ほら、健が肝心な時にKYなのは今に始まった事じゃねーだろ。

 俺は心配で言ってんだ。

 別にそんな事せずとも後輩と知り合う機会なんていくらでも出てくるし、その時その時で真摯に対応すればお前は大丈夫さ」


 俺の言葉にあれっと言った風に慌て出す健。

 おいおい、今更気付いても遅いって。

 それに、悪いが明美先輩には世話になってるからな、諦めてくれや。

 対照的にぱぁっと表情を明るくした間宮に抱きつかれる。


「ありがとう、お兄ちゃん。

 このただ情報集めるしか能の無い人と違って頼りになる!」


「ちょっ、え? 俺が悪いの?

 あれ? おっかしいなぁ?」


「あはははは、もう駄目。

 何よあんた達毎日毎日こんな漫才してた訳?

 あーもぅ、もっと早めに混ざるんだったわ」


「……俺は漫才しているつもりはないんだけどなぁー」


 がっくりと肩を落とす健に、笑い続ける桐生。

 その姿が面白くて俺まで口元が緩んでしまうが、その前に無邪気に喜ぶ間宮を剥がす。


「はいはい、俺は愛実先輩専用ー」


「あぅー、意地悪ー」


「へいへい、意地悪で結構。

 まっ、お前の問題だが俺らが手助けしちゃ駄目って理由もないんだし、頼れるもんは頼っとけよ。

 俺にしろ健にしろ桐生にしろ、もうお前を見捨てるほどじゃなくなってんだしさ」


「そうそう、ダチは大切にしなきゃね!」


 俺と健の言葉に途端に笑みを浮かべる間宮。

 おい、次は健に飛びつけよ。

 なんて思っていると桐生が口を開く。


「あら? 私はまだそこまではないかも?」


「ちょっ、折角〆てんのに台無しじゃねーかよ」


 苦笑いを浮かべて突っ込めば、まー坊早漏は嫌われるわよーだなんて返ってくる。

 おいおい、思わず息を飲み込んじまったじゃねーかよ。


 と、そんな俺には見向きもせず、間宮へと再び言葉を紡ぎ出す桐生。


「まー坊も健んもお節介焼きだから、あなたが口にせずとも手を差し伸べるだろうけど、私は貴方に対してはそんな事するつもりは無いわ。

 ただ! 貴方がちゃんと自分から助けてって言ってくれたら、そりゃぁその手を払うほど薄情ではないつもりよ。

 どうかしら、ちゃんとお願いできる?」


 どこか諭すように口にする桐生に、最初こそ悲しそうな表情を浮かべたものの、徐々に真剣な顔つきへと変わる間宮。

 聞き終えると深く頷いて答えを返す。


「うん、薫ちゃん。

 力を貸してください」


「宜しい! 桐生ちゃんが薫ちゃんになったのもグッドよ翔子ちゃん。

 親しき仲にも礼儀ありとすら言うのだからね。

 それに何でも口にしないと伝わらないものよー。

 いえ、口にしていても誤解させたりするのに、口にしなきゃもっと伝わらないのだしね。

 なので、とりあえず貴方の課題は言うべき事を言わねばならない時に言うって事ね。

 大丈夫、ちゃんと私もまー坊も教えてあげるわよ。

 安心なさい」


 びっくりするくらい優しい口調の桐生。

 今までは間宮にはからかいはするものの、どこか距離を置いていた様に感じていたのだけど……何か心境の変化でもあったのだろうか?


 と、色々考えを巡らせていると、ふとにやっと口元を歪めつつ桐生が健へと向き直す。


「まぁ、健んは肝心な時のミスが多すぎるから当てにしちゃ駄目よ」


「えっ!?」


「はーい!」


「ちょっ、待って。

 突然振られたと思えば何でいきなりディスられてんの俺?」


 慌てる健を見て、おいおい、肝心な事に気付いてないからその反応で、だから2人がアイコンタクトを取り合った後、頷きあわれたりされてるじゃねーかと思う。

 それでも気付いてねーし。

 いや、まぁ男ってこんなもんなのかもなー、俺も気を付けようと気を引き締めつつ健の肩を叩く。


「オチ担当お疲れ」


「お前まで裏切るなー!」


 健の叫び声が響く中、笑い合う俺と間宮と桐生。

 と、丁度休み時間の終わりのチャイムが響くのだった。

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