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新学期の事情 その1

 正直自分の理性を褒めたいような、でも、欲望に素直に負けた方が良かったような。

 春休みが終わる数日前から彼女と同棲するようになって、でも、手を出さなかった自分にそのような複雑な感情を抱く。


 ぶっちゃけ、まだ自分が責任を取れない状況じゃなければ、寧ろ何としてでも彼女と愛し合っていた事だろう。

 そう言えば、中学時代そう言う欲求があまりなくて悩んだ事もあったりしたのだけど、何の事はない。愛実先輩相手だと持て余してばかりだ。

 だからこそ、生殺しと言うか……いや、確かにそう言う事を致している同年代が居るとは知ってはいるが、なんて無責任なとしか思わないし。

 俺だって少しでも早く愛し合いたい気持ちがあるのは間違いないけど、とても大事な人相手に無責任な真似など出来る訳もない。


 ただ、好き合っている者同士が一緒にいてそう言う雰囲気にならない訳がないので、初日にちゃんと話し合って……何故か一緒に添い寝だけをすると言う方向で落ち着いてしまった。


 これが、物凄くドキドキすると同時に凄く安心するんだ。

 愛実先輩もとことん話し合ったお陰か、起きるとはにかんだ笑みを見せてくれるし凄く幸せだからなー。


 結論、何だかんだ俺の理性は強靭だった模様。

 今日も俺の方が先に起きて愛美先輩の愛らしい寝顔を見つつ、襲いたくなるのを必死でこらえながらそんな考えを巡らせる。

 夜は少しでも早く寝ようとしているから、俺の方が先に寝ている事は間違いないだろうし、多分だけど先輩俺の寝顔そこで見ているのじゃないかな?


 ってな訳で、何だかんだ似たもの同士って事だよななんてにやけつつ、何だかんだ今日も幸せな気持ちで起きれたなと、愛実先輩を起こさないようにベッドから抜け出す。


 うむ、今日も今日とて目覚ましに勝ってしまったな。

 セットされた時間の15分前か。

 それじゃぁ、軽く朝食でも作ってみるかね。


 なんて思って移動しようとしたら、軽く引っ張られる感覚を覚えて振り返る。

 そこで目に入るは眠ったまま俺のパジャマの端を握る愛実先輩の姿。

 うん、そりゃぁ振り払える訳もないな。

 まぁ、鳴ってからで丁度いいようにセットされているし、先輩を眺めているだけでも何時間でも潰せるからこれはこれで問題はない。


 ……キスくらいなら大丈夫かな? でも、我慢出来なくなりそうだよなー。

 なんて再び悶々と考え出すのだった。




「もー、すぐに起こしてくれたら良かったのにー」


 目覚ましで起きた愛実先輩。

 未だに寝顔を見られるのは恥ずかしいようで、流石に初めて見た時のように取り乱す事はなくなったものの、かなりの高確率でこうやって拗ねられてしまう。

 これがまた愛らしくてついついやってしまうと言う面もあるのだけど、勿論それ以上に思っている事があるから目覚ましを待った訳だ。


「いえいえ、気持ちようさそうに眠っていらっしゃいましたので、起こすのがあまりに偲びなかったのですよ。

 それに、いつも言ってますが眼福ですし」


 素直に口にすると、顔を赤く染める愛実先輩。

 いやー、本気で可愛いなー。


「もー、嬉しいけど、でも、恥ずかしいんだからね」


 ぷいっとそっぽを向くのがまた愛らしい。

 クスクスと笑っていたら居た堪れなかったのか、お手洗いの方へ逃げられてしまう。

 ならば、今度こそ朝ご飯の準備をしよう。

 顔を洗ったりはその後だな。


 顔が自然とにやけてしまうのを自覚しつつ、冷蔵庫の中身を思い出しながら台所へと向かった。




「それじゃぁ、行ってきます」


 先輩の入学式は明日で、俺の新学期は今日。

 なので、ラフな部屋着に着替えた愛実先輩に見送られつつ家を出る。

 実際先輩も学校が始まったらこうやって見送られる事だけじゃなく、逆に見送る事も出てくるだろう。

 うん、それじゃぁどちらにしろちゃんと習慣を作っておかなきゃな。


「はい、行ってらっしゃ――雄星君?」


 玄関の扉を開けて見送ろうとしてくれている愛実先輩に更に近寄り、キョトンとした顔で俺を見上げるその顔にそっと自らの顔を近づけていく。

 何をしようとしているのかすぐに察してくれたようで、一瞬視線を彷徨わせた後目を瞑ってくれる。


 軽く触れ合うだけのキスを交わし、視線を混じり合わせれば右頬に手を当て少し照れを見せる愛実先輩。

 ああもう、本当に可愛いなー。

 くそっ、学校なんか休みたくて仕方ないが、そう言う訳にもいかないもんな。


 あまりに名残惜しい気持ちがあったのだが、それを気合で断ち切って笑みを浮かべる。


「それでは改めまして、行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


 控えめに手を振ってくれる愛実先輩に大きく手を振って、これ以上未練がましくしていると本当に学校に行けなくなる気がして、急ぎ足でエレベーターの方へと向かう。

 よし! 切り替え切り替えっと。





 さぁ、いよいよ新学期の訳だが、それは2・3年の在校生の話であり、入学式は明日を予定されている。

 生徒会で書記を任されている俺は、明日はそれなりに忙しい事が決まっているのだけど、実は個人的にそれ以上に気になっている事がある。


「お兄ちゃん! 今年は同じクラスだねー」


 と、考え事をしつつ今年はどのクラスになったか確認しようとしていたら、天真爛漫と言う表現が似合う美少女に背中から抱きつかれる。

 ああ、既に知ってたよ。今年も来年も問題児なお前の保護者をしなきゃならないって。

 先生方から直接、すまんが間宮 翔子をよろしくな。なんて言われてしまっているし。

 まぁ去年こいつ自身ががやらかした事により学校中から未だ半ば無視されているような状況だし、唯一まともに相手をしているのが俺達だったから頼みたくなるもの理解できる。

 それでも本当はそんな面倒事出来れば避けたかったのだが、愛実先輩も心配していたようだし、となれば頷かざるを得なかった。


「はいはい、嬉しいのは分かったから離れてくれ。

 愛実先輩以外の誰に抱きつかれても俺は嬉しくないぞ」


 その言葉を吐き出せば背中が軽くなる。

 うむ、よろしい。


「むー、そんな事知ってるよーだ。

 なんだよー、女の子に優しくしてくれたって良いじゃない」


 不満そうに言ってきた間宮に対し、思いっきり溜息をついてみせる。

 ったく、十分優しくしているっつーの。


「なによー。

 そりゃぁ愛実お姉ちゃんは綺麗で可愛くて愛らしくて素敵で、お兄ちゃんが特別扱いして当然なんだけど。

 あれ? じゃぁこれで良いのかな?」


 俺のため息に対して溢れる間宮の言葉の数々。

 それは確実に事実を言っているだけだが、こいつの場合ちょっと行き過ぎて宗教じみてすらいるからな。

 愛実先輩は愛らしくて素敵な女性だけど、れっきとした人間だし欠点があったり間違えたりするのくらい俺だって承知している。

 が、間宮は女神を相手にしている風が感じられるんだよなー。

 愛実先輩自身からも注意され、それは真剣に聞いてはいるようだけど、なんかズレて解釈してしまっているのか、ちゃんと理解しきれていないようだし。


 それに、何だかんだ去年やらかした事が心の重しになってしまっているのか、無駄に卑下する癖もあるからな。

 自身を卑下するのは自業自得とも思えなくもないが、流石に見てて可哀想だし助けてやるか。


 どこか泣きそうになっていた間宮の頭を、少し乱暴に撫でてやる。


「ほら、俺はあくまで愛実先輩が彼女でもあるし特別だからって話だ。

 お前と他の女の子とじゃ、寧ろお前がずっと絡んできている分優しく対応してやっているじゃないか」


「みゃー、折角セットしたのにぐちゃぐちゃー。

 やっぱり優しくないもん」


 すっかりヘソを曲げられてしまったようで、ぷいっとそっぽを向かれてしまう。

 まっ、確かに親戚や近所の子供を相手にするような優しさみたいなもんだからな。

 ただ、ヘソを曲げつつも近くにい続ける間宮に、やっぱり子供に対するような愛情を感じて思わず声を押し殺しつつも笑ってしまう。


 まっ何だかんだ数ヶ月の付き合いで根は悪くない奴だって知れているし、愛実先輩が最も大きな原動力になったとは言え、仮に愛実先輩が絡んでなくても何だかんだ面倒見ただろうなというくらいには親しくなったからな。

 ならば俺が今気になっている事に、こいつは望む望まないに関わらず巻き込まれる羽目になるだろうし、ちゃんと面倒みてやりますかねー。

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