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新学期の事情 その19

 顎に手を当て何やらブツブツ唱えている健を放置して景色を眺める。

 うん、のんびり眺める景色もまた良いものだな。

 今度愛ちゃんと公園でのんびりデートなんてのも久しぶりに良いかもしれない。

 一緒にお弁当作ったりとか楽しいだろうし……うん、我ながらナイスアイディアかも。


 ドツボにはまっているらしい健を放置してどのくらい経っただろうか。

 1時限目の終わりを告げるチャイムが鳴って、再び現実へと引き戻される。

 ちっ、折角良い妄想に浸れていたって言うのに……、ってか、本当に大丈夫か健は?


 心配になった事もあり、チャイムが鳴った事に気付いたかも怪しい健に声をかけてみる事に。


「おーい、少しは頭と心の整理付いたか?」


 ……うん、反応なしっと。

 こりゃぁもう少し時間が掛かりそ――。


「あー、うん。いや、まだ混乱してるけど。少し落ち着いたかな」


 視線をキョロキョロと動かしつつも、先ほどよりも幾分か落ち着いた調子で口にする健。

 ふむ、これなら何とか会話になるか。


「おー、まぁこう言う時はすぐには落ち着かないわな。

 んで、どうよ?」


「んー……いやぁ、実感わかねーな。こう言うの。

 ってか、お前スゲーんだなって改めて思ったわ」


「は? 俺が凄いって急にどうしたよ?」


 自身の事について色々言ってくるかなって思っていたら、なんでか俺に矛先が向いて聞き返してしまう。


「いや、だってさ。あんだけ素直に気持ち表現してさ、南先輩の事大事にしていますっての外にも伝わってくるし。

 元々凄いなっては思ってた訳だけど、実際自分が同じ立場になって尚更そう思った訳だよ。

 だってさ。俺にはあんな真似出来ないし」


「いやいや、待てよ。

 急にどうしたよ? お前はつい最近自覚した訳だし、俺とは状況が違うだろ?」


「そりゃそうだけど……何だろう。羨ましいなって思ってさ」


 その言葉に少しだけカチンと来てしまう。


「いや、そりゃ当たり前だろ? 俺努力してるもん。

 自慢じゃないけど、愛ちゃんを想う気持ちは誰にも勝ると思っているし、行動にも出しているからな。

 言うて、まだまだだと思っているしもっと行動にも出して行きたいと思ってるけどって、俺の話じゃなくてお前の話だろ?」


 つい語ってしまって苦笑いが浮かんでくる。

 愛ちゃんが絡むと暴走する癖は直さないとなー。


「うん、ほんと改めて尊敬するぜ。

 見習わないとなー。

 いや、すまんな。なんか俺ってダメだなーって思ってさ」


 どこか遠い目をしながら言う健。


「いやいや、ってかさ。こう言うのって比べる事じゃなくねーか?

 お前はお前のペースでやれば良い話だろうし。そもそも正解なんてない世界だろ?

 そう言ってくれるのはありがたいし、真似したいって部分はドンドン参考にしてくれて構わないけどな」


 俺の言葉に頷く健。


「いや、ありがとう。

 なんだろう、ほんと色々と参考に出来る事あるなって。

 恋愛ってほんと難しーよな」


 どこか遠い目になる健。

 って、別に難しくはないだろ?


「まぁ、あれじゃね?

 相手も好いてくれているって事も分かったんだから、ちゃんと自分の気持ちを表に出していくのが大事だと俺は思うぞ。

 通じ合えるとか言う奴もいるし、勿論そう言う事もあるとは思うけど。根本的に口に出さなきゃ何も通じないだろ?

 言わないからどころか言っても誤解される事だってあるんだ。

 だったらちゃんと口に出す、行動で示すってのは凄く大事だと思う」


「ああ、言うとおりだな。

 うん、ありがとう。マジで参考になるわ」


 徐々に表情が明るくなっていく健の姿を見て、俺も少しずつ気分が向上していく。

 まぁ、親友と仲良しの先輩が幸せになってくれるなら、そもそもが喜ばしい事だからな。


「まっ、何にしろ全てはこれからだろうし、応援してるぜ」


「おう! なんか気が楽になったよ。

 まじでありがとうな!

 んで、早速相談したいんだが――」


 神妙な顔付きになる健に、笑顔で頷いて答える。

 いやー、何て言うか初々しいってこう言う事か。

 可愛らしいとまでは流石に思えないけど、微笑ましいのには同意だな。

 うん、必死なのも伝わってきて、純粋に応援したくなるし。


 相談してきた内容は本当に単純な事ばかりだったが、自分に言い聞かせる意味でもこちらにとってもありがたい事ばかりで、充実した時間を過ごせたと思う。

 お昼に教室に戻ったら教師に呼び出されて怒られるわ、間宮にチクったりするつもりじゃなかったのだけど結果的にそんな感じになってごめんなさいって謝られるのをとりなすのに苦労したりとかしたのだけど。

 まぁ、このくらいだったら別に怒る事もないしな。

 幸いお昼の時間が潰れたくらいで済んだし。

 愛ちゃんを待たせたりとかしなければ、俺的には構わないさ。

 愛ちゃんが1番大事なのは間違いないのだけど、仲間だって俺にとってとても大事な人達なのには違いないし、その為にならいくらだって労力さくさ。


 何だかんだ色々あった1日だけど、無事にその日は終わった――。

 そう、ついにタメ口同士で話すようになれたって言うとても重大な事件が起こっただけで終わる筈だったのだが、寝る前に愛ちゃんから聞き捨てならない言葉を頂戴する。


「あっ、そう言えば来週明美高宮君と出かけるって」


「……え? なんでまた。

 理由は聞いたの?」


 警戒しすぎだとは思っても、やはり気になって聞いてしまう。

 幸い鋭い口調にもならなかったし、純粋な問いかけと判断して貰えたのか笑顔で口を開く愛ちゃん。


「うん、健君へのプレゼントを選ぶ際のアドバイスをくれる事になったんだってー。

 あっ、勿論健君の事を話した訳じゃないんだけど、男の人にプレゼントするって話になったみたいで、流れで手伝って貰うことになったんだって」


「……色々解せないんだけど。明美先輩と高宮ってそんなに仲良くなったんですか?」


「うーん、それは私も不思議に思って聞いてみたんだけど、なんか電話やメールで色々やり取りしたって話だよ。

 あくまで先輩後輩の仲だけど、すっごい良い奴だねって言ってたなぁ」


 ……何だろう、物凄く嫌な予感がする。


「……そうですか。

 健の事は何か言ってました?」


 その予感に従って口を開けば、キョトンとした顔を浮かべ――あー、やっぱり愛ちゃん可愛いな、じゃーなーくーて。

 更に不安を煽る一言が漏れる。


「なんか、ちょっと愚痴ってたね」


 苦笑いと共に溢れたその言葉に、健のケツを叩く決意をする。

 ……俺の早とちりなら高宮に申し訳ないし、凄く失礼なのだろうけど。

 すまないな、俺は信用出来ない後輩よりも心から信頼している親友の方を大事にするからな。

 それに、攻撃とか虐めたり何てする訳もないから、勘弁してくれよ。


 自分勝手にそんな事を思いつつ、愛ちゃんにお礼の言葉を告げて部屋へと戻り健へ忠告する為に携帯を手に取るのだった。




「……聞いてくれ、明美先輩と喧嘩してしまった……」


 翌日、凄まじく落ち込んだ様子の健が開口一番そんな事を言ってくる。


「おい、なんでそうなった?」


 青天の霹靂すぎて、他に言葉が出てくる訳もなく、先ず事情を聞くことに。


「いや、……なんかさ。電話掛けた時点でなんか不満そうでさ……。

 色々話してても心あらずみたいだし、で、話聞いてますか? って聞いたら怒られて。

 後は売り言葉に買い言葉で……。

 なぁ、どうしよう?」


 ……いや、なんでどうしたそうなる?

 あれか、明美先輩ガチのツンデレとか? 普段そんなタイプじゃなくても恋すると変わるとかよくあるだろうし。

 ……違うかも、解せない。

 くそ、どうしても高宮と結びつけてしまうな。


「どうしようったって。

 すまん、もう少し詳しく経緯を話してくれないか?」


 うん、愛ちゃんとの仲に何がなくとも、もし高宮が原因でってなればちょっと黙ってられないな。

 ……いや、他人の恋愛に首を突っ込むとか馬に蹴られてなんとやらなのは重々承知しているが……、俺は明美先輩がどれだけ健の事を好きだったかも知っているし。

 となれば、たかが電話を掛けただけでこうなるとは思えないし。

 寧ろお互い初々しく喜ぶとかだろうかなって予想してただけに、寧ろ不思議でならないからな。


 もしかすると、単純に健がまずい事言ったか明美先輩が単に虫の居所が悪かった事も考えられるからあれだけど。

 ……何にしろ詳しく聞かなきゃな。


「勿論、次の休み時間かお昼の時にな」


 チャイムの音が聞こえてきて、また昨日みたいな面倒は流石にごめんだったので、そう口にする。

 健もその意図に気付いたのか、苦笑いを浮かべて1つ頷くのだった。

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